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19(157).石の心

闇は、低い鐘の音と共に明ける。

談笑する女性達、惨劇が嘘のように過ぎる日常。

皿に横たわるチーズまみれの肉片を口に放り込む。

あれからどれ位たっただろうか。

僕が師匠にあった日から。


「おいルシア、どうした?」

「女将の話など気にするなよ。」

「私は・・・お前といるだけで幸せだぞ・・・」


尻蕾になる師匠の言葉はその表情からも伺える。

彼女の視線は、彼女の指先にあった。

僕は、彼女の表情を眺めながら考える。

数日中には、初めて彼女に会った日だという事を。

街で行きかう二人連れの男女達。

彼らの会話は大体同じ。

それこそ惨劇とは無縁だ。

僕は、路銀の入る袋の中を眺める。

それは、眺めるまでも無かった。


「師匠、オヤジの所に忘れモノがあるんだけど・・」


首をかしげる師匠。

不思議そうな表情には僕は焦る。


「そうなのか?・・・では戻るか。」


「走れば1日も掛からないから、僕一人でいいよ。」

「二人は、この街で待ってて・・・」


アリシアは、眉を顰め瞳を細める。

そして、表情を戻し、口元を崩す。


「・・・そうか、では本でも読んでいるよ。」

「気を付けてな。」


僕は、彼女の笑顔に見送られ宿を出た。

気取られまいと扉を閉めるも、自らの脚が邪魔をする。

脚を引っ掛けつつも、件の店を目指す。

それは、商業地区の奥にあった。

入り口を開けると、早い時間にもかかわらず、何組かの男女がいる。

彼らの目の前には、美しい装飾品の数々。

店員らしき人物は、女将の話程変わり者には思えなかった。

しかし、別の客を接客する男性は、会話が進むごとに表情を変える。


「アンタ達、うるせえよ。」

「ちったあ、石の気持ち考えろや。」

「あーー、アンタら出てけ! 何が高けぇだ!」

「だったら、別の店で買いやがれ!!」


「タプリス、ダメだよ・・・」


先ほどまで愛想よく接客していた女性店員は、店主らしい男を諫める。

しかし、気の収まらない店主は、女性店員に咬みつく。


「二ティカ、お前、優しすぎんだろ!」

「お前にだって、わかんだろ。 買われてくアイツらの気持ちがよ!」

「俺は、アイツらを少しでも大事にするヤツに、もらって欲しいんだよ・・」


「タプリス・・・」


それを見る客は、空気の重い店内を後にする。

そして店には、店主達と僕だけになった。

店主の圧は、無情にも僕を襲う。

視線は、帰れと告げるのみ。

それを諫める女性は、少し悲しそうだ。

僕は、空気など読まない。

それは、それ以上に大切な者の為だ。


「すいません、宝石について伺っても?」


視線は未だに冷たく、ゴミでも見るようだ。

それを見かね、男を小突き、女性が苦笑いで声を返す。


「すいません・・・それでどういったお話かしら?」


「あの、大切な人に贈り物を考えているんです。」

「できたら、僕の手で、それを集めたいんですが・・・」


不貞腐れる様に小突かれた男は、声を飛ばす。

それは、僕に聞かせる気もない。


「なんだよ、また同じか。」

「金が()えんなら来るんじゃねよ小僧。」


ため息をつく店主を、またかと小突く女性。

彼女は、店主にため息をつき、視線を戻し笑顔で僕の話を聞く。


「・・・あなた、見た目より若くはないわよね。」

「大切な人って、彼女でしょ。」

「フフッ、お姉さんが協力してあげようかな。」


「ありがとうございます。」


僕は、二ティカと名乗るどこか浮世離れした女性に師匠のことを話す。

それを聞く、彼女の表情は明るく優しい。

彼女は、話を聞き終えると僕に提案した。

それは、いくつかの石の話。


「そうね。大切な人なら、ヴィーヴルね。」

「特殊魔鉱結晶なんて呼ばれる事もあるわ。」

「この子は、人の想いを汲む石なの、きっと彼女を守ってくれるわ。」

「あとは・・・桃色のサファイアなんて素敵よね。」


僕は、書物で聞く其々を想像するが、いまいちわからない。

そして彼女の話を横で聞く男も話に混ざる。

その姿は、先ほどとは雲泥の差だ。


「だったら、スフェーンもはずせねぇよな。」

「この小僧から贈るなら必要な石だ。」


「うんうん、良いわね。」

「君、そのお師匠さんの事、大好きよね。」

「君の言葉を聞いてると・・・フフッ恋よねー、素敵!」


「だよな。 チンチクリンの気持ちが伝わってくるぜ。」


先ほどまでの重い空気はそこにはない。

彼らは、僕を置いて二人の世界に入る。

店主は、図面を引き、それに女性が意見する。

紙を走る羽は、黒い輝く軌跡を美しく残す。

その光景は、どこか幻想的に見えた。


「いいわね、それ。」


「だろ。 これなら喧嘩しねぇ。」

「大事にされりゃあ、守ってくれんだろ。」


「うんうん、良いと思うわ。」

「ねぇ、君もそう思うでしょ?」


ようやく客に意識を向ける二人。

振られても、僕は浅い言葉しか返せない。

それもで、知りたいことはある。


「その宝石はどこで採れますか?」


そこには、簡単な様で難題が転がっていた。


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