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18(156).変わらぬ日常

闇に昇る魔導の光、無機質な風は湿気を払う。

小さな淑女は、目を覚ます。

いつも通り伸びをして、小さな手で顔を洗う。

珍しく相棒は起きていない。

チョコチョコと窓へ移ると、時間を告げる鐘の音。

酒臭い2人を置いて散歩に出かけた。


「よう、ラスティちゃん。」


「おはよ!」


小猫はチョコチョコと、薄暗い街を歩く。

10日も経てば、珍しい彼女は広く認知された。

大小さまざまなドワーフから声を掛けられる。

彼女は声を返し、目標なく歩く。

知らない脇道に入り、塀を上り、屋根に出て、知っている目抜き通りに戻る。

商業地区に入ると、食欲を誘う香りが彼女を導く。

漂う香りは、無機質な風にあおられ薄くなる。

ラスティは、小さな背嚢を器用に開けて、銅貨を数枚出す。


「お姉さん。鳥串6本!」


「あら、可愛いお客さん。 ちょっと待っててね。」


露天の店主は、串を温め紙に包む。

そして、皿に一欠けら乗せ、彼女の前に置く。


「お使いご苦労様、これは、おまけね。」


「ありがと!」


店主は、笑顔で悩む。

串の大きさと、あまり変わらない可愛いお客様。

何が正解なのか、彼女にはわからない。

ラスティは、店主を見つめ声を掛ける。


「串、ばらしてもらってもいい?」


「フフッ、いいわよ。ちょっと待っててね。」


小猫は、満足そうにうなずく。

そして、しっかり梱包された鳥串は、小さな背嚢を膨らませた。

目的ではない目的を終え、小さな淑女は目抜き通りを宿へと戻る。

チョコチョコと階段を上り、扉の前に立つ。

すると、扉は自動で開いた。


「ラスティ、どこにいっていたのだ。」

「心配したぞ・・・お前は。」


眉を顰め目を細めた女性は屈む。

そして、小さな淑女を抱きかかえる。

部屋の中では、優しい笑顔が彼女を迎えた。



ラスティの用意した朝食を食べる2人。

彼女は、満足そうな笑顔を二人に向ける。

その口元は、少しの香料がアクセントをつけた。


「おいしかったよ、ラスティ。」


二人の礼に、少し赤面するも、満足そうにフードへ潜る。

しかし、それを抱き上げ、師匠は彼女の口を拭く。

優しい時間がそこにはあった。

それは、ここ数日の出来事を感じさせることは無い。

街も本質は変わらず、その活動を止めることは無かった。

僕達は、旅の準備をし、オヤジ達と別れた。

向かう先は、王都リュゼリアギゲス。

半日ほど歩くと、正面からは数頭の大蜥蜴。

僕は、身構え盾に手を懸ける。

しかし、それを止めるように師匠の腕が遮る。


「ルシア、あれはドワーフの王族だ。」


集団の中心には、ひときわ仕立ての良い鎧の男性。

それは、軍馬の様に駆け抜けていった。

世界は、僕達と関係なく動いている。

数日後には、ロイドエルに新たな領主が立った。

僕達は、夜を告げる鐘の前に王都へ到着する。

そこは、ロイドエルに比べると古風な街並み。

中心には王宮があり、その上には本物の空が顔を出す。

懐かしい風がそこにはあった。

それは、月明かりと共に、師匠の髪と戯れる。

既に月が西に傾くというのに、街は人で溢れかえっていた。

そこには、見たことのない人種も多くいる。

露天では、様々な装飾品が売られ、女性の目を楽しませた。

それは、二人の女性も例に漏れない。

小猫を抱える師匠は、誘われるように露天をめぐる。

幾つかの露天では、二人組の男女が楽しそうに会話する。


「ねぇ、どうかなこれ。」


「・・・いいんじゃないかな?」

「うん、似合うよ。」


「・・・見てないじゃない。サイテー。」


男は苦笑いで、女性の後ろ姿を見つめる。

そして、横目に話題の装飾品を店主から購入。


「ごめん、ごめん、待ってくれよ。」


師匠の表情は、ハーレのそれに思える程緩んでいる。

そのフードでは、僕を見つめるラスティ。


「ルシア、お腹すいた。」


小さな淑女は、ブレなかった。

僕は、師匠の意識を戻し、宿を探した。

この街もオヤジの故郷と変わらず、窯を使った料理が多い。

僕達は、チーズを使った料理に舌鼓を打ち、その日を終えた。

翌朝、カウンターで食事していると宿の女将は尋ねる。


「アンタ達も指輪かい?」

「いいねぇ、若いってのはさ。」


女将は、師匠に視線を向け言葉を続けた。

それは、僕に何かの圧をかける様にも聞こえる。


「アンタも気を付けな。」

「結婚しちまうとさ、強請(ねだ)っても、返ってくるのは悪態だけだよ。」


そして、店主に視線とため息を向ける。


「愛されてる時は、いらない物でも、くれたんだけどねぇ。」


店主は、視線を感じたのか、隠れる様に奥へ行く。

その姿に、女将は笑顔を向ける。

師匠は、その姿に微笑み、言葉を返す。


「フフッ、なんだかんだ言っても愛されているんだな。」


「フフフッ、オバサンをからかうんじゃないよ。」


そして、女将の視線は僕に移る。

彼女は、僕を試す様な表情をして、1つの情報を提示した。


「そうさね、そっちの彼氏には悪い話かもしれないがね。」

「この街には、有名な工房があるんだ。散策ついでに探してみなよ。」

「タプリスっていう変わり者の店だけどね。」


女将は、別の客に呼ばれ、カウンターを後にした。

横で食事をする師匠は、いつもよりその食が遅い。

ラスティは、いつもの様に食事を終え、師匠のフードへ戻る。

どこか上の空の師匠は、時折視線を僕へと向けた。


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