14(152).エゴの狭間 - 義勇 -
アスカロン家の葬儀から3日。
二つの影に、いくつかの影が合流する。
机に広げた屋敷の見取り図に、彼らは印と文字を書き込む。
ソレが終わると、男は席を立ち、手を叩く。
「それじゃぁ、会議を始めよう。」
彼らは、情報を合わせていく。
そして、部隊を複数に分ける。
1つは、研究所へ向かう者。
もう1つは、館へ向かう者。
そして、男に同行する者。
「それじゃあ、いつも通り行こう。」
「我らの導きで国を変えよう。」
「「「はい、エルロック様」」」
影は部屋から放たれた。
ロイドエルの闇は深く、それを隠す。
部屋に残るのは3人の影。
「ナル、ちょっと退きなさいよ。」
「アンタ、この前はエルと一緒だったじゃない。」
「今回は、私に譲りなさいな!」
「なによ、クローネ。」
「・・・フーン、妬いてるんだぁ。」
「てか、エルロック様でしょ、仕事の時は・・・」
「妬いてるとか、違うし。」
「エルは、私のエルだからね。」
「何それ・・・私はエルとご飯食べたし。」
「なに、上から目線・・エルゥー、コイツウザーイ・・」
男は、二人の会話に頭を抱えた。
しかし、事は動いている。
緩んだ空気を引き締め、二人を諫める。
「もう、何やってんだよ。」
「仕事だ。いくよ。」
先行する影を追う様に3つ影も屋根を伝う。
静かな夜は、不穏を隠す。
彼らの向かう先は領主の館。
領主の行動は把握している。
昨日は、研究所で徹夜。
今夜は、執事長の小言で、彼は自室で休んでいるはずだ。
エルロックは生唾を飲み込む。
1度目の襲撃は、数人の男によって失敗している。
それにより、支援者からの評価は下がった。
それは、彼らの生活に関わる事だ。
支援がなければ、膨れ上がった彼の園は路頭に迷う。
彼は、前を走る2人の女性に強い視線を送った。
そして、想いを過去に向けた。
エルロックは、ヒューマンの街で生まれた。
彼は体と魔力に恵まれ生を授かったが、持たない物もある。
それは、生まれだ。
ヒューマンの街では、その人種、その生まれが全て。
彼は蔑まれながら自分を磨いた。
そして、旅をした。
そこには、同じように蔑まれる非力な女性達がいた。
彼は、その姿を自分に重ね、彼女たちを救う。
そこに光を見い出した彼女たちは、彼に付き従う。
それは繰り返され、彼の園は築かれた。
その話は、北国の1領主であったカーミラの耳に入る。
美しい少年がドワーフ女性を救い旅をすると。
彼女は彼を囲い、希望と正義を吹き込む。
その話は、彼には甘美なもの。
彼女の元"悪"を切る日々もまた、彼の自尊心を高めた。
繰り返す人誅は、カーミラにも富を与える。
それは、彼にも与えられ、彼の園も潤った。
エルロックは、眉を顰め唇を噛む。
「2度目は無いぞ・・・俺。」
彼は、言い聞かせるように言葉を刻む。
屋根を伝い、目抜きを下りと平行に走る。
その先に広がるは、領主の館。
「いくぞ、ナル。クローネ。」
「「はい、エルロック様」」
3つの影は領主の館に消えた。
火の手はすぐに上がり、領主の館は混乱に包まれる。
時を同じくして、領主の研究所も同じように襲われた。
逃げ惑う従業員は、人誅と称し、切り伏せられる。
彼らには、その理由は分からない。
相手に言葉を投げかけても、返るものは刃のみ。
研究所は、徐々に炎に包まれた。
そして、空には、緑色の炎が炸裂する。
「正解らしいね。ナル、クローネ。」
「相手は、魔導士だ。気を引き締めていくよ!」
「「「世界を変革する力を!」」」
3つの影は、屋根に大きな光を作りだす。
轟音と共に、大きな穴が開く。
そこには、長身の黒エルフが一人。
「なんのつもりだ、貴様ら。」
「ジョルジュ、ジョルジュはいるか!」
彼は、扉の外で控えているであろう執事長を案じる。
返ってくるのは、生き絶え絶えの声。
そして、剣戟が響き彼の心を握り潰す。
「・・・ジョルジュ。」
「貴様ら、許さん・・・」
2つの影を屋根に残し1つの影が、領主の前に舞い降りる。
そして、剣を抜き放ち、それを男に突き付けた。
目の前の長身の男からは、異常な魔力が立ち昇る。
その異様さに臆することなく影は言葉をぶつける。
「貴様は、芥子を使い、民達を惑わせる。」
「そして、その命を弄んだ。」
「俺は貴様の死をもって、その罪を浄化する。」
口上を述べるも、言葉を遮る様に被る言葉。
声の主は、彼の言葉など聞く気は無かった。
「国を貶めるのは、貴様らであろう。」
「人は繰り返す・・・その愚行は万死に値する。」
黒いエルフの魔力はさらに増大し、彼のいる空間を吹き飛ばした。
それは、現代魔法には存在しえないもの。
術式すら返さず、彼の意により空間は従う。
光に包まれた彼の従者たちは、ゆっくりと優しく地に着いた。
一方、屋敷に潜む影たちは、その身をもって愚行を償う。
残された3つの影は、感情に揺れ動かされた。
目の前には、魔導の炎に包まれるエーヴィッヒ。
それは、地獄の業火より何度も立ち上がるがる姿。
そこに英雄譚に在る賢者の姿が重る。
彼の者は"不死の賢者"と謳われた。




