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12(150).モノの価値

昼下がりの町の広場。

1人の少年は、椅子に掛け地面を見つめる。

彼は父の葬儀を終え、感情に流されその場を去った。

遠くから息を切らし、とぎれとぎれの声。


「マルク!・・・ どうしたんだよ・・・」

「ノイエさん、心配してるぞ。」


「でも、探しに来てくれないじゃないか!」


「それは、客がいただろ。 お前のオヤジを見送る客だ。」

「それを置いては来れねぇだろ?」


「・・・」


そこには、少しふんわりとした女性。

彼女は、言葉は汚いが、それを補って余るほどの優しい視線を送る。

しかし、少年は彼女に視線を合わせない。


「でも、ねーちゃんは違うじゃん。」


「アタイは喪主じゃねぇし・・・」


彼女は、塞ぐ少年に近寄る。

そして彼の視界にその足を踏み入れた。


「何があった行ってみろよ。」

「・・・お前、また何か言われたのか?」


「ほっといてくれよ!」

「ねーちゃんは、俺と違って何でもできんじゃん・・・」

「俺の気持ちなんて分かんないよ!!」


少年は、彼女を置き去りにその場を離れた。

息を切らす彼女は、頭を掻きむしり、椅子を蹴る。

それを呆然と眺める3人に、彼女は冷たい視線を送った。


「見世物じゃねーよ。」


彼女には何処かドーアの面影を感じる。

それは、ただ単にドワーフだからなのかもしれない。

しかし、彼女の瞳にはオヤジの面影もあった。

僕は、広場を去る寂しそうな背中に声を掛ける。


「貴方は、ドーアさんの親族の方ですか?」


「だったらなんだよ?」


彼女は振り返りもせず歩く。

僕は、先ほどの少年についても尋ねた。

それは、お節介だろうが、昔の思い出に重なるからだろう。


「あの子の姿が、昔の自分に重なって他人ごとに思えなくて・・」


彼女は、ため息をつき、視線を向けることなく話に応じる。

しかし、その表情は眉を顰めどこか重い。


「マルクはさ、アタイの弟みたいなもんなんだよ。」

「ただね。あいつは少し不器用でね。」

「あー、不器用ってのは、モノづくりが下手ってことな。」

「でな、アイツの父親(ちちおや)も同じで、工房で働いてはいなかったんだ。」

「って言っても、領主の手伝いをしてたから十分立派なんだけどな。」


彼女は、大隧道の闇に染まる空を見上げる。

その瞳はどこか悲しげだ。


「子供って奴は怖いよな。」

「簡単に、他人を傷つけちまうからな。」

「それが人の本能だなんていう奴もいるくらいだ。」

「自分と違う奴は、怖いのかもしれないけど・・・」

「まぁ、どうでもいいけけどさ・・・」


彼女は、先ほどまでの警戒する空気は無くなっていた。

ただ、遠い何かを思い返す様に語る姿は、本来の彼女なのだろう。

彼女は初めて振り返る。


「わりいな、こんな話しちまって。」

「アタイは、ジェルジアってんだ。」

「で、お節介なアンタらは?」


そういうと、彼女は表情を緩ませる。

そして僕達に視線を送った。

僕達は自己紹介し、知り合いのオヤジとトーアの話をする。


「僕はルシア、ゲルギオスの友人だよ。」


「・・・親父(クソおやじ)の友人か・・」

「・・・どんな友人だよ。」


彼女は、不思議そうな表情をしながらも僕を見つめる。

そして。その視線は僕のパンツで止まった。


「あんた、そのパンツ・・・」

「使い心地はどうだ?」


「ん? 良いと思うよ。」

「生地もしっかりして頑丈だし、履き心地もいいよ。」

「たぶん評判もいい・・・」


「そうか。 うんうん。いいじゃねーか。」

「わりぃ、ちょっと用事を思い出した。」

「マルクが居たら、お袋んとこつれってくれよ。」


彼女は僕達を残し、商業地区へと消えていく。

残され顔を見合わせる二人は、苦笑いしかなかった。



翌日、僕達はオヤジの名を冠する工房を訪れた。

そこには、数名の職人と昨日会ったジェルジア、そしてマルクの姿。

工房の奥から聞こえる彼への言葉。

それは、以前師匠の残した言葉に重なるモノがあった。


「マルク。アタイだって昔話いじめられたよ。」

「その時ね。父さんが言うんだ。」

「虐める奴には、それしかねぇんだよって。」

「そうやって、自分の場所を作るしかできない奴らなんだって。」

「マルク、別にそいつ等と一緒にいる必要は無いんだよ。」

「傷つくくらいならアタイのトコにいればいいじゃん。」


その言葉を聞く少年は、相変わらず俯く。

ジェルジアは屈み彼の視線に入る。


「アタイ、こんな見た目でしょ。」

「結構からかわれたんだよ。」

「でも、可愛い服も、素敵な服も好きだった。」

「似合わなくても諦められないよね。好きなんだも。」

「・・・着れなくても好きな服と一緒にいたいじゃん。」

「だからね。最高に素敵な服を作ってやろうって。」

「自分が良いって思えればそれでよくない?」

「周りなんて関係ないよ。 ね、マルク。」


彼女は涙を拭く少年の手を取り抱きしめる。

そこには優しい姉の姿があった。

そして、その姿を見つめるオヤジと従業員の姿。

僕達は、その光景をほのぼのと見つめる。

彼女はその視線に気づき、目を細め恥じらいながら言う。


「見るんなら、何か買いなさいよ。」


工房は、優しい笑いで包まれる。

僕は、オヤジが彼女の装備を勧める訳がわかった気がした。

アスカロン工房からは、焼けた鉱石を打つ音が力ずよく鳴り響く。

その日から、その工房には1人の弟子が増えたという。


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