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14.旅立ち

王都から最初の町までは馬車で1日の距離にある。

停留所には人気がなく、次の町までの馬車はだいぶ前に出発していた。

歩きでも2日程度なので、僕は歩くことにした。

城門の外では農家が小麦だろうか、種薪を終え休憩している。

そこにはダンジョンでの生活が嘘のように平和な時間が過ぎていた。

遠くには緑が揺れて、山はところどころ赤く染まっている。

数時間歩くと日も傾き、少し肌寒くなってきた。

僕は、道を少し外れ、野宿の出来る場所を探す。

少し離れた場所に小川があり、身を預けられそうな木もそこにはあった。

遠くで獣の甲高い声が聞こえる。

魔力探知を行いながら、枯れた木を探す。

日が沈む前に焚火を炊き、食事の準備をした。

小麦と水を混ぜこねたモノは、焼けた石の上で焼く。

パチパチと爆ぜる炎は嫌なことを想い出す。

芳ばしい香りが食欲を誘う。

硬い干し肉はおいしかったが、それ以外は禄でもない。

空はどこまでも透き通り、星々の輝きが美しく、飽きることのない世界を見せる。

僕は目を閉じ、魔力探知を切らさない様に意識だけは保った。

空が白み始め、旅の準備を整え、街道を歩きだす。

初めての一人野宿は、思いのほか疲れた。

それは、眠る幸せを理解させるには十分な出来事だ。早く町へ行き寝たい。


日が傾き町に明かりがともり始める頃、何事もなく町に着いた。

この町は王都に比べかなり小さが町としての施設は一通りある。

しかし冒険者ギルドはない。

僕は宿を探し、休むことにした。ベットに入ると笑顔がこぼれた。

明日は路銀稼ぎの為、冒険者として依頼を受けようと考えながら眠りにつく。


日は東の空に上がり、町がにぎわいを見せる。

朝食を摂り、宿屋の主人に町の施設を尋ねると快く答えた。


「この町にはギルドは無いぞ。依頼は酒場で受けられるから行ってみな。」


宿屋の主人は"まち"とギルドについて少し教えてくれた。

ギルドは、王都や、人口が多く商業などが発展した街、ダンジョンを有する街にはある。

中規模の町では、酒場がギルドに似た機能を持つ。ただし、討伐依頼は受けることができない。

確かに、僕の村には無かったし、村で対処できない魔物が出れば、街に出で依頼をしていた。


酒場ではカウンターの奥に恰幅の良い女性がいる。

彼女は屈託のない笑顔で僕を迎えた。

女将さんに依頼があるか聞くと、彼女は壁に掛けられた掲示板を指さす。

掲示板には張りだされた依頼書がいくつか張り出されている。

今更気だが、僕は計算はできるが字が読めない。

掲示板の前で眉を顰め悩んでいると、女将さんが声をかけてくる。


「どうしたんだい?」


「これは、なんて書いてあるんですか?」


女将さんは苦笑いで僕に提案をする。

彼女の提案は、読み書きを教える代わりに給仕をしないかだ。

僕は、二つ返事で申し出を受けた。

女将さんは、空いている部屋を提供してくれた。

彼女には感謝しかない。


翌日から給仕の仕事アが始まった。

酒場の朝は早い。空が白み雄鶏がなく頃、太陽と共に動き出す。

フロアを掃除し昼の仕込みが終わる頃、街はにぎわい始めた。

客が来るまでの時間、酒場の女将さんは先生に変わる。

一番最初に覚えたのは、自分の名前だった。

ルシアとは教会関係の子供に多い名前だそうだ。

神代を謡う詩歌に登場する名君の名で、それを現代文字で発音したものだという。

女将さんは良い名前だと言ってくれる。

客が入りると勉強の時間は終わる。僕は給仕として接客した。


「おっ、新しい子が入ったんだな。かわいいじゃねぇか、注文頼むよ。」


何もおかしくない会話だが、おかしい。女将さんは策士だ。

彼女は、僕が男だと知っている。

そして用意された服は女性物ではなく、だた丈が長めのエプロン。

ちょうどドロワーズが隠れ、太ももがでる程度になる。

僕は何も言いえなかった。


「いいでしょ、ウチで働くことになったルシアだよ。」


酒場は毎日賑わいを見せた。来る客たちは気のいい人たちばかり。

客が引き片づけと翌日の仕込みが終わる頃には町は静寂に包まれている。

僕は部屋に戻り勉強した内容を復習する。

それは、早くこの環境から抜け出すためだ。

給仕の日々は2か月続いた。

”まち”や地域の名前、生活に必要な事柄を少しづつ覚えていく。

努力は着実に実を結び、依頼書の内容は大体理解できる様になった。

僕は女将さんにお礼を言い、旅立つ旨を伝えた。


「さみしいね、アンタがいると客が増えてよかったんだけどね。」


彼女は優しい面もあったがしたたかだ。

それでも奴隷商に売られて以来、状況はともかく、人との巡りあわせは幸運だ。

皆、僕が小さい事や属性操作ができないことで馬鹿にしたりはしない。


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