11(149).人の業
魔導の光も薄暗くなった頃、オヤジの故郷へ着いた。
オヤジの故郷ロイドエル。
今まで立寄ったどの街よりも整備された街だ。
綺麗に整備された道を、左右から照らす様に街灯が並ぶ。
魔導の光も紫というよりは橙に近い紫。
すれ違う者の表情は皆明るいく、俯く者は少ない。
僕達は、目抜き通りをす進み、区画を分ける様に作られた広場に着いた。
トーアとオヤジは振り返り、僕達に頭を下げる。
「ルシア、助かったぜッッてえな・・」
「あなた、親しき中でも礼儀は、きちんとよ。ね。」
「皆さん、無事に送り届けてくれて、ありがとうございました。」
「ルシアさん、アリシアさん、ラスティちゃん。寂しくなるわね。」
「一月は此方にいると思いますので、よかったら尋ねてくださいね。」
「アスカロン工房って・・・」
トーアは僕のパンツに視線をやり、笑みをこぼす。
そして優しい表情で言葉を続けた。
「ルシアさんは、ご存じの様ね。」
「工房の裏に家が在るの。」
「商業地区になるから、買い物がてらに寄るといいわ。」
「では、失礼しますね。」
「アナタ、行きますよ。」
「あぁ、それじゃぁな。 イテ。」
トーアは、オヤジを手に持つ傘でどつく。
痛がりながらも、愛情を感じるオヤジ。
幸せそうな空気は、ゆっくりと広場を去っていった。
隣では、小さくなる姿に視線を送る師匠。
その笑顔は、何処か寂しげだった。
ラスティは、そんな彼女の脚に頭を擦り付ける。
「早く、宿探そ。 ウチ疲れた。」
僕達は現実に戻り、その日の宿を探す。
時間は遅く、希望に沿う宿を諦めつつ、何件か回った。
「大丈夫ですよ。 2名様でよろしですか?」
「いや、ベットは2つでいいが、飯は3人分で頼む。 出来るか?」
店主は、フードから刺す様な視線を感じとる。
そして、優しく微笑み、言葉を返した。
「あぁ。これは失礼しました。」
「食べられない物があればお申し付けください。」
「ではご案内を致します。 どうぞこちらへ。」
僕達は、案内されるままに2階の2人部屋に案内された。
その空間は、中流クラスの部屋。
そこは店主の対応と比べると劣る様にも思える。
不思議に思いながら荷を解く僕に、視線を送る師匠。
「それだけ、商売の質が高いのだろう。」
「街もそうだが、良い領主なのだろうな・・・」
師匠は、視線を荷に戻し作業を続ける。
そこには、いつもの表情はない。
その日は宿の食事をとり、早々にペットへ入った。
翌朝も低い鐘の音から時間は動き出した。
隣のには、うつろながら目でフラフラと着替える師匠。
既に毛繕いを終え、ふら付く女性に櫛を渡すラスティ。
意外にも、ドワーフの国は彼女達を健康的にした。
光度の高い魔力の光が街を照らす。
そこには温かみなど一切ない。
僕達は、身支度を整え街に出た。
散策しながら屋台で食事をし、街を回る。
商業区画にも広場はあった。
そこには、何処にでもある風景。
1人の少年を囲む子供達。
「お前のオヤジ、"じんちゅう"されたんだってな。」
「"じんちゅう"されるヤツは悪いヤツなんだって。」
「父さんは悪くない・・・」
「やっぱり、ダメなやつは親もダメなんだな」
「ハハハッ、お前も"じんちゅう"されちゃえよ。」
「こんなやつと一緒にいると俺たちまでダメになっちゃうな。」
「みんな行こうぜ。 ハハハッ。」
僕は、ため息しか出なかった。
しかし体は、嫌な空気に反応してしまう。
「ねぇ、君、大丈夫かい?」
何処かオヤジに似ている瞳。
しかし、あの豪快さは無い。
声を掛けた少年は、俯き走り去ってしまった。
その少年に視線を向け、静かに師匠は話す。
「ルシア、これも人が造った業だ。」
「優劣をつける社会性は、活性を生む。」
「しかしな、光の裏には闇があるんだ。」
「馬鹿だよな、皆に同じ適正があるわけじゃないのに・・・」
僕は、師匠の遠い視線の先にあるモノを想う。
その言葉には、世界を見続け、諦めた想いがあった。
彼女は、視線を戻し笑顔で話す。
「腹減ったな・・・ ルシア行こうか。」
「ラスティは、何が食べたい?」
彼女の行動は、逆に僕達に悲しみを与える。
彼女の悲しみを少しでも和らげられるならと。
まだ少し時間が早い店内に、呼び鈴の音が鳴り響く。
店員は奥でコップを拭いている。
流石にドワーフの国と言うべきか。
食器の質が、今まで入ったどの店も高い。
「いらっしゃい・・・どうぞお好きな席へ。」
店員の表情は少し暗い。
店内には数人入っているが、時間から考えると盛っている。
しかし、表情を裏付ける様に聞こえてくる会話。
「なってない! 我らの国ぞ。」
「いくら結果が出ようがエルフではないか!」
「しかし、それではエーヴィッヒと共に王に尽くした同胞は浮かばれん。」
「エーヴィッヒなど死んで結構、奴も希望の礎になれば本望だろうよ。」
「よいではないか? 人誅結構、大乱結構。」
店内で論じ合う男性二人。
1人は噂の人誅の行いを肯定。
それは、死した同胞への感情もあるのだろうか。
それを、もう1人が諫め否定する。
彼の話は経済的な見解からだ。
話はもつれ、以前の領主館襲撃へと移る。
そこには、巻き込まれ死んでいった多くのドワーフがいた。
僕には、そこに正義があるのか疑問を感じる。
店内を忘れ、2人の男は白熱していく。
それに反して、周りの視線は厳しい。
見かねた、店主が彼らに声を掛けた。
「お客様。他のお客様のいらっしゃいますので・・」
「何を言うか。 我らは国の為に論じておるのだ。」
「なにか? 貴様は国を想う事を否定するのか?」
店員は、男達に罵声を浴びせられ、さらには手を上げられた。
そこに反応する3人の客。
2人は、奥の席の男女。
そして一人は、既に挙げられた手を杖で抑える。
「兄さん方、それじゃぁ、ダメだよ。」
「口だけじゃぁ、事は動きませんよ。」
その言葉に、眉を顰め、顔を赤らめる2人。
杖の男の表情は全く変わらない。
そして、杖の男は何かを探す様に顔を動かす。
「口だけじゃぁ、足りないとおっしゃるなら・・・」
「あっしが買いますよ・・・アンタらの喧嘩をですがね。」
2人の男は気圧され、捨て台詞を吐き店を出る。
店主は、盲目の旅人に礼をするも、彼は静かに店を後にした。
そして店内には、静かな時間が訪れる。
僕は、彼に声を掛けようと立ち上がるも師匠はそれを諫めた。
「ルシア、やめておけ。」
「彼には、彼の想いがある。」
僕は師匠の言葉に従い席につく。
静かな時間は、嵐の前触れの様にも感じられた。




