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9(147).義勇の正偽

闇が包む街は、定期的に風が吹き、光が灯る。

それは、500年前から始まった国の事業。

二人の影は、宿の一室で書簡に目を通す。

そして、重い表情を落とす男の姿。

それは、どこか酔っている様にも見える。


「ナル、どう思う。」


「ヴァンジョンズの評価は良いかと思いますが・・・」

「このままエーヴィッヒを倒し、圧政から民を解放しましょう。」


疑問ではなく同意だと感じ取る女性。

彼女は、想いの為に意見を潰す。


「そうだな。しかし、エーヴィッヒには・・・」


妄信する者は、それが慕う心なのか、もしくは。

彼女は自身お想いをひた隠し、想い人を奮い立たせる。


「あの時は、護衛が多くいた為ですよ。」

「エルロック様が負けるはずはありません。」

「私たちは正義、義勇、人誅ですよ。」


「・・・そうだな。」

「なぁ、ナル。 俺たちは正義だよな・・・」


「もちろんです。」

「だって、私を助けてくれたエルロック様ですよ。」

「ヴァンジョンズが豪商で政治家とはいえ、ただの支援者。」

「彼女の意で動いているわけではないんです。」

「エルロック様の意志、民を想う意志じゃないですか。」


悩みに浸る男を、優しく包む女性。

彼の頭を抱き抱え、その葛藤を払う。


「・・・エルロック自信をもって。」


「エル・・・すまない。」


二人は部屋を出て闇へ消えていく。

その先にある都市は、ロイドエル。



ロイドエル、最も栄えたドワーフの街。

ある出来事によって、そう呼ばれる都市だ。

この街で生まれた技術は国を栄えさせた。

ふらりと現れた男は、ドワーフたちを先導する。


「鉱物は有限でしかない。」

「ならば、その限りある資源に更なる価値を与えよう!」


それは、自然界には存在しな高純度の鉱石を生む。

民は男を認め、男は王と共に国を導く。


「我らには、腕も魔力がある。無いモノは輸入しろ!」

「輸入したモノは、我らの力でより良いものに作り直せ!」


新たに生まれた技術は、輸入される薬品を自国の商品へと変えた。

それらは、この国に2大産業となる。

王は、その産業を生んだ男を讃えた。

他種族の賢者、エーヴィッヒ・ノスフェラーを。

彼は、大隧道に発生する魔力だまりすらも抑えた。

まるで、冒険譚の賢者の様に。

しかし、現実は、美談ばかりではない。

大きな利益には、それ相応の対価が必要だ。

だらだらと長期間従事した所で利益などでない。

それを解決させるには、それ相応に闇は生まれる。

しかし、その闇も同意の元では光に変わった。

ソレに価値を感じる者、家族の為ならば同意する者。

一方が栄えれば、それを羨む者も現われる。

聖人などではないエーヴィッヒも例外ではなかった。

彼を恨む者など星の数ほどいる。

光は闇を生む。長く生きればそれも多い。

彼と繋がる領主たちは、ここ数カ月で命を落とした。

最初に襲撃された街には、昔の姿は何処にもない。

領主を殺した者達は、それを知らされることは無かった。

今日もまた、エルロイドの町には、芥子の香が優しく漂う。

執事長がエルフの研究室への扉を叩く。


「エーヴィッヒ様。お食事はどうされますか?」


「私は後でいい。お前たちは食っておけ。」

「労働者達にも、しっかりとな。」

「死なれては困る・・・ 家族に顔向けができんからな。」


「仰せのままに・・・それでは失礼します。」


執事長が去った廊下は静かだ。

研究室からは、魔力の光と、男のひとりごとが漏れるだけ。

彼はその日、1食抜くことになった。

翌朝、彼は研究所の机で目覚める。

そこには、冷たい表情の執事長の視線。


「エーヴィッヒ様・・・」

「貴方がそうでは、私共の気も安らぎません。」

「どうか、おやすみください。」


「バカモノ! この研究は、国を安定させる。」

「私一人の体で済むなら安いものよ。」


「私共の気持ちはどうでもよいと・・・」


「・・・うるさい、食事だ。」


「はい。では此方へ。」


彼の重苦しい視線は、強情な主人お心を動かす。

表情こそ変えないが、執事長の足取りは軽い。

彼が廊下を進み、すれ違う労働者達は皆笑顔を投げた。


「お前ら、体に異常はないか?」

「少しでも違和感があったら言えよ。」


「領主さま、ありがとうございます。」

「お金をあんなに貰って、その上領主の愛情迄も・・・」


「貴様らドワーフは、鬱陶しいぞ。」

「泣く元気があるなら、家族を大切にしろ。」

「失っては、何もしてやれんからな・・・」


「はい。領主さま・・・」


涙ぐむ労働者達は、彼より与えられた食事と薬とる。

そして、日々の作業を続けた。



ロイドエルを散策する1組の冒険者。

辺りに咲く赤い花に興味を持った。

その姿を気にする者は何処にもいない。


「エルロック、これヤバい花じゃない?」


「どうしたナル。俺たちはタダの冒険者だよ。」

「花なんて見てもわからないよ。」


「でも・・・」


「ナル、わかっているよ・・これはケシだね。」

「アウトだろ。 だが、もう少し情報を集めてからだ。」

「三度はやりたくないからね・・・慎重にいくよ。」


「うん。」


二人は寄り添い、花を愛でる様にその場を歩く。

そして、領主館を後にした。

彼らは酒場に入り、情報を集める。

返ってくる言葉は、以前と変わらない。


「店主、調子はどうだい。」


「んっ、上々だね。 エーヴィッヒ様のお陰だよ。」

「アンタら外の人にはわからんだろうがね。」

「領主様のお陰で、街は豊かになったよ。」

「まぁ、国も豊かになってるんだけどな。」

「アンタらだって、見ればわかるだろ?」

「 他の町より活気があるんだからさ。」


「・・・確かにそうだね。」


彼は、果実酒を煽る。

隣の女性は、その姿を悲しく見つめた。

そして、店主が奥に行くと彼に声を掛ける。


「エルロック、彼らもわかるわよ。」

「真実は一つなんだから。」


「そうだね、エル。」


酒場には、他にも想いを擁く者がいる。

席を挟んだ先で、酒を飲む一人の男。

男は彼らの姿を捨てる様に視線を流す。


「ありゃあ、よくありませんね・・・」


悪酒に渋い表情の盲目の旅人。

彼もまた、領主館の周りを探っていた。


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