表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/325

8(146).山脈の大穴

闇の中では,日の変化など分からない。

岩壁は、人の手により美しく整えられている。

水気をおびた壁を紫の光が輝かせた。

魔法王国の衰退以降、魔導と言えばドワーフと言われる程。

美しく規則正しい光の列は、人々を次の町まで導く。

そして、洞窟の中は風すらも不快無く流れる。

行きかう人日の姿は、ヒューマンよりも白く小さい。

とは言え、弱々しくは見えない。

僕が、彼らに視線を向けていると師匠は話す。


「ルシア、彼らはあまり日に当たらない。」

「だから、肌が白いのだという話だ。」

「光から身を守る必要が無いからだと言われている。」

「黒色は、光を吸収するんだというが、白色は反射するんだといったか・・・」

「モノを返すってのは、力を使う事だからな。」

「そんな事を、ドワーフのジジイが言っていたな。」


師匠は、どこか遠くに視線を送る。

それを聞くアインも同じような表情だ。

オヤジは頷き聞くが、どことなく分かってはいない。

それを見るトーアは、その姿を微笑ましく見ていた。

洞窟に広がる最初の町アイオラ。

ドワーフ王国の玄関ともいえる町だが、通行許可は不要。

流通があり、税もそれなりに掛るが、ここの領主は健在だ。

その為か、行商の姿も多く見かけた。

露天には様々な鉱物を売るドワーフの姿。

中には、大隧道特有の薬草を売る者もいた。

町に広がる話は、ここでも領主惨殺。

町の人には、死んだ領主も、ここの領主も変わらないという。

話に詳しい者に聞けば、ここの税は上から数えた方が高いと話す。

それでも、僕が言えた義理ではないが、人が人を捌くなどおこがましくも思えた。

周りからどう映っているだろうか、僕には自分の表情が分からない。

良くも悪くもドワーフの国は薄暗くそれを隠す。

フードからは、場の空気を換える様に声がした。


「ルシア、おなかすいた!」


僕は、彼女を撫で、師匠と共に店を探す。

賑わう商店街のとある店で、立ち止まる夫婦の姿。

品の良い女性は優しく微笑み提案する。


「アリシアさん、一緒にどう?」

「私、大勢で食べる方がおいしいと思うのよ。ね。」


「アッシは、失礼いたします。」

「皆様のお邪魔は出来ません。」

「それでは、ありがとうございました。」


アインは、頭を下げ、何かに導かれるように路地へと消えた。

僕達は店に入り、大きな机に案内される。

5人で囲む机には多くの料理が場を賑わす。

野菜や肉、そしてチーズをパンに乗せ釜で焼いた物。

それは、トマトソースをバジルが引き立て、よりチーズの旨味を高める。

香草で臭みを消した羊の肋骨肉を骨付で豪快に焼いたステーキ。

様々な料理が運ばれるが、生野菜はそれほど多くはない。

食事を楽しむ中で、見た目の割に繊細に野菜をどけるオヤジ。

僕は、その横からの冷たい視線を彼に伝える。


「あんまり野菜は出ないんだね。」

「・・・オヤジ、野菜も食べた方がいいんじゃないか?」


トーアは手を止め、僕の疑問に答える。

それは単純だった。


「ここは光が少ないでしょ。」

「だからね、野菜は高価なのよ。」

「ラトゥールとは真逆よね。フフフッ。」

「あなた。お行儀が悪くてよ・・・」

「野菜も食べましょうね。」


「あぁ、コイツは高価だからな、後て食うんだよ。」


「・・・あなた。」


オヤジは、嫌々ながらも妻の笑顔に気圧された。

談笑の中で殺意を彷彿とさせる圧力。

それを見るラスティは、一瞬、師匠を見る。

そこには、すまし顔の師匠。

彼女は、オヤジの様に寄せた野菜を静かに口に運んだ。

笑顔とは、何かと考えさせる場になった。

5人の食事は和気藹々と過ぎていく。



一方、5人と別れたアインは、また一人で酒場に身を寄せる。

ちびちびと啜る酒。その表情は何処か優しい。

店主もその表情に声を掛ける。


「旅の方。何かいいことでもありましたか?」


「そう見えますかい。 懐かしい声を聴きましてね。」

「長く生きた甲斐がありましたよ。」


「それはいい話だ。」

「最近じゃ、人誅だとかで物騒なもんですよ。」

「私たちは、ロイドエルのエーヴィッヒ様のお陰で生活が楽になったというのに・・・」

「はぁ・・・何処の国の手の者でしょうね、その人誅は。」


「そうですかい。 賢者様の・・お陰ですかい。」

「国が栄える事はいいことですなぁ・・・」


「ハハハッ、賢者様とは面白いたとえですね。お客様。」

「確かに、私共にとっては英雄譚の賢者様と同じかもしれませんね。」


「店主さん。今日はいい酒が飲めそうでさぁ。」


盲目の旅人の目には強い意志があった。

そして表情も柔らかいが、どこか暗く重い。



翌朝、日の出すら分からない大隧道の町。

爽やかな風と共に、魔導の光が辺りを包む。

僕は宿の外で鍛錬を行う。

その樋鳴りの音に導かれた盲目の旅人。


「アインさん。おはようございます。」


「ほう、ルシアさんでしたかい。」

「・・・いい音をさせなさる。」

「聴いていてもよろしいかな?」


「フフッ、大したものじゃないですよ。」


僕は、ミーシャと円を描く。

そして彼女の知らない動きで、その鍛錬を終わらせた。

終わる頃には、疎らな人だかり。

手を叩くアインに流され同じ様手を叩く人々。

それは、僕の顔を紅く熱くした。


「ハハハッ、大したもんですよ。ルシアさん。」

「アンタは、良い音をさせる。」

「・・・あのお嬢さんを大切に・・アッシは行きますよ。」

「ここまで引いてくれてありがとう。ルシアさん」


「アインさん・・・」


彼は、手を振り、薄暗い闇の中に消えていった。

僕の声は、その薄暗い闇の中を空しく追い駆ける。

部屋に戻ると、準備を終えた2人の姿。


「ルシア、早くしろ。」

「トーアを待たせると怖いぞ。」


師匠の言葉は、急かすだけの効果がある。

その結果、僕達は二人のドワーフよりも早く、待ち合わせの場所に着いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ