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7(145).盲目の旅人

空は澄み渡り、風は轟音と共に全てを薙ぎ払う。

川から水を汲み村へ向かう人の集団。

その先の小さな村には活気があった。


「オヤジ、ここは?」


「ここはな、ヒューマンの最後の村だ。」

「まぁ、この前の町に比べりゃ、雰囲気は良いな。」

「金にならねぇ町や村は襲わねえのか・・・」

「何が人誅だよ。」


ため息をつくオヤジを、トーアは諫める。

それは、彼の為だろう。


「あなた、感情を口にするのは、あなたの良さだけど。」

「誰が見てるか分からないわ・・・だめよ。」


オヤジは、苦笑いでそれに答える。

強い男は、強い女に引かれるのだろうか?

オヤジ夫婦にライザ夫婦が重なって見えた。

僕は、視線を師匠に向ける。

彼女は、優しく視線を返すが、そこに答えは無かった。

僕達は、宿をとり翌日からの旅に備える。

昼食をとり、ゆっくりと村を散策。

前を歩くラスティは、宙に舞う蝶を追う。

その先には、人だかり。

そこは嫌な笑いに包まれていた。

1人の杖を持つ男性が、屋台で飯を買う。

横からは、それを摘まむガラの悪い冒険者。

杖を持つ男は、椀に手を付けるも、そこに在る物はわずか。

僕は、村でのことを思い出す。


「おい、ルシアどうした?」


僕は、屋台で同じものを買い、その男の椀へよそう。

彼には、ソレがわかったのか頭を下げた。


「すいやせん、ありがとうございます。」


その光景に周りの空気は白けた。

そして、人だかりは疎らとなり消えていく。


「おじさん。目が見えないのかい?」

「・・・どこまで行くの?」


彼は僕の問いかけに、静かに答える。

その姿は、何処にでもいる気のいい男だ。


「あっしはね、ドワーフの国に行く途中なんですよ。」

「物好きと笑ってやってください。」


「じゃあ、僕達と一緒だね。」

「一緒に行かないかい?」


僕は、その年上の男性に自分を重ねていた。

眉を顰め悩む男性は、表情崩し礼をする。


「旅は道ずれってやつですかい・・・」

「ぁあ、ありがてぇ話だ・・・」

「あっしは、アインていいやす。」


「僕はルシア。 よろしく。」


それを見る師匠の表情は柔らかい。

しかし、どこか一歩引いている様だった。

男の名は、アイン・グラディアートル。

その姿は、師匠と同じ様な肌の色と髪の色。

彼は元騎士だが今は目が見えないという。

実際に彼は、音や魔力で相手を判断している様だった。

彼は、旧知の男に会いに行くそうだ。

それが、この旅の目的なのだと言う。

男の名はエーヴィッヒ・ノスフェラー。

僕の知識にあるソレは、2つ該当する。

一つは、ドワーフ王国の領主の一人。

もう一つは、英雄譚にある"国を憂う賢者"。

またの名を、不死の賢者だ。

普通に考えて前者だろう。

彼は、出自を隠す様に礼儀を尽くす。

それは、嫌味にも見える程ではある。

僕達は、その日は別れ宿へ戻った。


「ルシア、急にどうしたんだ?」

「あの者は、悪人ではないが・・・危険だぞ。」


師匠は、柱に背を預け腕を組む。

表情は、何処か心配そうだった。


「師匠・・・僕は、無視することができなかったんだ。」

「あそこで無視したら、僕が僕で無くなってしまう気が・・・」

「ごめん・・・勝手に決めちゃって。」


「・・・ルシア、そうじゃないんだ。」

「謝るな・・お前はお前だよ。」

「私は嬉しかったぞ、ルシア。」


彼女の表情は戻り、僕の隣に座った。

窓から見える、夜空は静かに月明かりを湛える。

膝に乗るラスティもまた、同じように月を眺めた。



翌朝、村にはあの冒険者達の屍が転がっている。

アインは、足元を杖で確認しながら現れた。

僕は彼に駆け寄り杖を曳く。


「アインさん、じゃぁ行こうか。」


山肌を一行は進む。

風は横から殴りつけるように吹く。

斜面には、人がすれ違うだけの道がある。

すれ違う者の中には、盲目の者を連れる姿に笑う者もいた。

その度に、アインは謝る。

僕はそのことが悲しく思えた。

笑う者は、皆ヒューマンだ。

その日は、日が沈む前にドワーフの町に着いた。

オヤジは笑顔で声を掛ける。


「なつかしいな。 ルシア、知っているか?」


「オヤジの故郷はもうすぐだね。」


「あぁ、明日からは、大隧道に入る。」

「道案内はできっけど、守ってくれよ。」


「うん、約束だからね。」


僕達に手を振る品のある女性は、オヤジを連れ部屋へ向かう。

僕達は、オヤジ夫婦の様に部屋へ。

アインも同じように頭を下げる。

しかし、部屋へは行かずどこかへ足を運んだ。

杖を頼りに酒場に向かうアイン。

相変わらずの杖使いで、見えているかの様に進む。


「失礼しやすよ。」


アインはカウンターに座り、酒を飲む。

それを追う様に入る冒険者達。


「オッサン、良いご身分だな。」

「可愛いねぇちゃん達にチヤホヤされやがって。」


「男の妬みは、みっともねぇですよ。」


「んんだと!・・・まぁ、目が見えねえんじゃ面白くもねえよな。」

「まぁ、そんなことはどうでもいい、アンタだろ俺のダチ()ったの?」


「・・・目の見えねぇ者に、人殺し何てできやせんよ。」


ドワーフの町は静かに暮れていった。

1人の盲目の男は宿で酒を煽る。


「飲みたくねぇ酒ってのは、酔いが遅ぇや・・・」


翌日、僕達は大陸を東西に隔てる大山脈の中へと足を進める。

世間では、新たに領主殺害の噂が流れるのだった。


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