表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/147

4(142).繰り返される関係

馬車は、ヘルネ港から東へ進み山を沿うように北上する。

村や町をいくつか越え、リーア領へと入った。

季節は初夏を目の前に、青々と茂る小麦畑が美しい。

藁で編まれた帽子をかぶり、面倒を見る人々。

表情は見えないが、その背中には活気が感じられた。

リーアの町に馬車は止まる。

町は、以前より発展を遂げていた。

道は石畳が敷かれ、魔導のランタンがそれを照らす。

広場の中心には、日時計も設置されている。

そこに咲く花は、ライザの好きな花だ。

商店街には、甘い香りが漂い賑わいを見せる。

その香りに誘われた僕は眉を顰め、次の瞬間目を見開いた。

師匠とラスティがいない。

そこに残されたのは僕のため息のみだ。

ラスティは、意図的に何処かへ行ったわけではない。

それを運ぶ者が持ち去っただけだ。

僕は、甘党の足取りを追った。

1件目には、彼女はいない。

そして3件目でようやく発見した。

そこには、椅子に座り、笑顔で焼き菓子を頬張る師匠の姿。

そして、ラスティも同じようにカリカリと音を立てる。

僕は、その幸せそうな表情に、ため息と笑顔がこぼれた。

ドアベルの音が店内に響く。

店主は視線を向け、笑顔で店内へ誘う。

僕は、椅子に掛ける2人と同じものを頼み2人の元へ向かった。


「ルシア、待っていたぞ」


「まっていたぞ」


やはり二人は似てきている。

僕は、ため息と共に空いた席に座った。

二人は焦げ色のついた、焼き菓子を頬張る。

甘い香りは、その焼き菓子からしていた。

店主は、席に焼き菓子を運ぶ。

そして、アンダルシアのパン屋で出されたアレを置く。


「サービスだよ。姉ちゃんのお陰で客が増えたからね。」


それは、餌付けに使われたスポンジ菓子だ。

僕は店主に視線を向けると、彼は店内に視線を促す。

そこには、先ほどまでいなかった客が疎らだが入っていた。

紅茶を飲みながら菓子を頬張る師匠。

かたや、ミルクを飲みながら菓子を頬張る小猫。

絵面だけならいい客寄席だ。

中に入ると判る残念さ。


「んッーーー! 旨いな!」

「どうだ、ラスティ。」


「うん、おいしい。」


それを見る女性客は、口を隠し微笑む。

苦笑だろうか、最近僕は羞恥心と縁がある。

それでも、二人の笑顔は好きだ。

僕は、二人に焼き菓子を譲り、紅茶を飲む。

静かではない店内で、穏やか時間を過ごした。

別腹を満たした二人を引き連れ店を後に、領主館へ向かう。

坂を越え、建物が見えた当たりで、後ろから明るい声が聞こえた。


「師匠にルシア、あとラスティね。 いらっしゃい。」


御者台に乗るライザは、少しお腹が大きく。

本来そこに座る筈の男性は、ソワソワとしている。

そして、荷台からは、元気のいい声が聞こえた。


「ルシア先生。お久しぶりです!」

「俺のこと覚えてますか?」


そこには、背の高い少年が爽やかな笑顔を向ける。

その姿は、どことなくルーファスに似てきた様にも見えた。


「イ・・・イオリアだね。」


「ひでーよ。先生。」


それを見る、2人の女性はクスクスと笑う。

そして、彼女たちの荷馬車で領主館まで運ばれた。

そこでは、屋敷よりも値が張りそうな離れが目に入る。


「ライザ、大したものだな・・・」

「魔導具研究か?」


「わかりますぅ?」

「師匠を越えちゃいますよ私・・・なんて。」

「旦那がいない時でも、なんとかしないとって思って。」

「どうですか・・・基本的なモノは揃えたつもりですけど・・」


「うむ、良いんじゃないか・・・」

「私の教えを守っているな。」


それは彼女の研究所だという。

その結果が、町の状況だそうだ。

それを聞く師匠の鼻は何処までも高い。

僕は、そんな彼女の笑顔を残し、イオリアに庭へ連れ出された。


「先生、俺と組み打ちしてください。」


僕は、彼の言葉に頷き、木剣を借りる。

そこに相対するイオリアは、昔の僕のスタイルだ。

それはルーファスとは異なり、利き手で盾を構える姿。

僕は少しうれしかった。

それでも、彼に質問する。


「イオリア、君のお父さんと同じ型じゃなくていいのかい?」


「俺は、先生に憧れてるんだよ。」


そこには、彼のはにかんだ笑顔がある。

しかし、その瞳の奥に光る信念は本物だった。

僕は、彼の言葉に態度で返すことにした。


「イオリア、さぁ打ってきて。」


「はい!」


彼は、正確な剣閃を放つ。

以前とは比べ物にならない程に洗練されている。

だが、それは逆に読みやすい。

僕は、彼の剣閃を躱す事なく、全て受け流す。

時間が経つにつれ、増える大小さまざまな魔力の数。

それでも、彼は僕しか見えていない。

真剣な表情は、僕の心を引き付けた。

そして、彼は肩で息をする様に変わっていく。


「先生、これならどうですか!」


彼は、両手で正面に構える。

それは、ルーファスの型だ。

僕は、迫り来る剣閃に合わせ、剣を絡ませる。

力の方向を変え、一方の木剣は天高く舞う。


「ッハーー、全部だめだったーー」


その場で、仰向けに頃あるイオリア。

それを叱るライザ。

その二人のやり取りを笑顔で見つめるルーファス。

そして二人の我が家族。

僕は、イオリアの手を取り立ち上がらせる。


「うん。うまくなったね。」

「この調子で励めば、君はまだまだ強くなるよ。」

「だた、良くも悪くも剣閃が真面目過ぎるかな。」


「ハハハッ。」

「ルシアも言うようになったじゃねか。」


ルーファスは、挨拶替わり茶々を入れる。

それは、むしろ感謝の言葉にも聞こえた。

僕は、フーファスに勧められるまま湯舟を借りた。

昔は、付いてきたイオリアは”後でいい”と、どこかへ姿を隠す。

ゆっくりと、浸かるお湯は久しぶりだった。

湯を出ると、外には、はにかむイオリア。

その手には、何故か牛乳。


「先生、これお礼な・・・明日も頼むよ。」


彼は、強引に渡すと、またどこかへ駆けていく。

僕には年頃の少年お気持ちは判らなかった。

以前の様に、僕はイオリアに稽古をつけ10日程リーアに滞在。

それから僕達は、目的の山脈を目指した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ