表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/325

47(135).二人の時間、血のつながり

修道院の朝は早い。

静かだが、せわしなく動く修道士達。

小さな淑女は、初めての環境に困惑する。


「ラスティ、起きなさい。」

「お祈りの時間よ。」

「人は、毎日生きられることに感謝するの。」


眉を顰める姉は、丸まろうとする妹を窘める

そして、当然の様に小さな修道服を彼女に与えた。

ラスティは、しぶしぶソレに腕を通し、姉に付き従う。

礼拝堂では、姉に倣い手を合わせ、空へ祈りを捧げた。

理由もなく行う行為は、彼女にストレスを与える。

その姿に、姉はため息をつき、また彼女を窘めた。


「ラスティ、それではダメですよ。」

「立派な司祭にはなれません。」


「ウチは・・・」


「さぁ、ラスティ。 掃除の時間よ。」


修道士たちは、箒や雑巾で室内の埃を落としていく。

姉に与えられた雑巾で拭き掃除をするラスティ。

慣れない作業は、他者に比べて時間がかかった。

そんな彼女を、またかと姉は窘める。


「ラスティ・・・」


「お姉ちゃんの言う事がわからない・・」

「ウチは、修道女になんてなりたくない・・・」


「ラスティ、今はそう思えるかもしれない。」

「それでも、いつかは感謝するわ。」


姉は、彼女をつれ食堂へ向かった。

そこには、静かに彼女たちを待つ修道士達。

そして祈りから始まる食事。

静かに粛々と進む。

ラシティは、その食事の味を感じることができなかった。

そして。また祈りの時間が始まる。

今までの生活とは真逆の様に時間が過ぎる。

そこには、彼女に優しく微笑む顔は1つもない。

その夜、彼女は3人と旅する夢を見た。

翌朝の目覚めは、彼女をつらい現実に引き戻す。

変らない1日、笑顔の無い風景。

望まない時間は、彼女の表情を暗くする。

そこには、彼女の想い描く家族像は無かった。

そして、心休まる夜がやってくる。

静かに眠る瞳は、涙を湛えた。


「ルシア・・待ってよ・・」

「ウチは・・アリシア待って!」


彼女は、うなされ目を覚ます。

夜風は、彼女の髭を優しく撫でた。

項垂れた小猫は、ポツポツを歩き、修道院の中庭に出る。

そこには、一人の吟遊詩人。

銀色の髪が美しく、耳は横に長く尖る。

肌は浅黒く、それは月明かりを反射させた。

夜風に髪を流す黒いエルフは竪琴を奏でる。

優美な指使いは、ラスティの視線を奪った。


「君は、何に囚われているんだい?」

「君の詩は、誰でもない君の物だよ。」

「君が望むように謡えばいい。」


黒いエルフはそう告げると、彼女をそっと抱き上げ肩に乗せる。

月明かりを見つめながら奏でる音は、侘しいさと美しさが共存していた。

彼女は、音に包まれ、彼らを想う。

心の揺らぎに、彼は優しく彼女を癒す。


「人の繋がりは、単純なものではないよ。」

「想いを大切にしなさい・・・」

「それが繋がりなのだからね。」


黒いエルフは、彼女を膝の上に置き、優しく謡う。

それは、珍しくも聞き覚えのある、あの子守歌。

二人の女性が、彼女の為に謡い聞かせた優しい歌。

彼女は夜風の中、黒いエルフの膝の上でゆっくりと眠りについた。



朝の陽ざしが、髭をくすぐる。

気づくと彼女は、自室のベットで眠っていた。

幻想的な夜の思い出を想う小さな小猫。

彼女は、黒エルフに感謝し、希望の朝を迎えた。

しかし、それは姉の言葉により、それは叶わなかった。

老司祭と姉は、この出会いに、血のつながりを尊重したのだ。

彼女は、夢にまで見た二人の笑顔を見ることは無かった。

灰色の世界で過ごす1日は、短いようで長い。

周りに合わせ、気乗りしない祈り。

静かで、彼女にとって喜びの無い食事。

雑巾を絞る、その小さな手には、無意識に涙が落ちる。

誰に気にされる事なく過ぎていく光景は、その感情を深く落ち込ませた。

何をするにも彼女の大きさでは時間がかかる。

それは、誰の目にもわかる事。

それでもなお、窘める姉の心に彼女は困惑した。

孤独だけが、彼女の心を癒す。

それは、ルシアと出会う前と同じだ。

誰も信用できない世界では、それも1つの答え。

彼女の心は、日増しに弱っていく。

姉は、口を開けば「貴方の為」と窘めるのみ。

そしてまた、1日が過ぎてしまった。

その日、夜の祈りの後、1人の少女がラスティの前に現れた。


「こんばんわ。わたしナナイ。」

「あなたは、ラスティちゃん?」


彼女は、時々見ることがある修道女の一人だ。

ラスティは、眉を顰め頷く。

笑顔の修道女は、それを確かめると中庭へ誘った。


「いっしょに、おにわいこ。」

「ここだと・・・うるさいひとが、おおいから。 ねっ。」


ラスティは、笑顔の修道女に付き従う。

夜風が気持ちい中庭には、あの時のエルフはいない。

笑顔の修道女は、ラスティに手紙を手渡す。

彼女は、小さな手で受け取るとソレにゆっくりとした視線を送る。

そして、彼女に礼を告げた。


「ありがと。ナナイちゃん。」

「ウチ・・・頑張るね。」


自室に戻る彼女を幼い修道女は、優しく祈りを捧げる。

ラスティの進む先に幸多かれと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ