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46(134).二人の時間、心の繋がり

ぺータの朝は、静かで厳かだ。

町の彼方此方で法王庁へ向け祈りを捧げる人の姿。

静かな祈りが終わると、町を掃除する町民と修道士達。

その中には、小さな修道女。

体より大きな箒を引きずる様に進む。

今日もピョコピョコと走っていく姿は微笑ましい。

彼女は、持ち場に着くと、体全体で箒を操る。

暫くたつと、虚空に何かを囁く。

すると、優しい光が箒を包み彼女の手を離れる。

楽団の指揮者の様にソレを操る少女。

その姿は美しく見えた。

太陽が東の空に昇り、法王庁の鐘が鳴る。

修道士達は、それを合図に修道院へと帰っていく。

彼女もそれに倣う。

宙に浮く箒を手に戻し、掃除を終えた。

そして、昨日の様に肩で息をしながらピョコピョコと走る。


「君、大丈夫かい?」


「フゥ。お兄ちゃん。おはよ!」


「おはよう、僕はルシア。 ちょっと待ってね。」


僕は、彼女の頭に手を置き魔力をゆっくりと渡す。

昨日よりも総量を増やした彼女へ魔力は注がれていく。

その量は、年相応とはいえない。

周りの修道士に比べても、かなり多いだろう。


「よし、気持ち悪くなったりしなかったかな?」


「お兄ちゃん、ありがと・・・あたし、ナナイ。」

「シュウドウインでオツトメしてるの。」


遠くから、彼女を呼ぶ声が聞こえる。

彼女は僕へ向け体全体で手を振り、またピョコピョコと走りだす。

小さな修道女の姿が消えた頃、同じような表情の女性の姿。

香草の利いた甘いミルク紅茶に舌鼓を打つ師匠だ。


「ルシア、おまえの分だ。」


彼女は、何処か寂しそうな笑顔で朝餉を手渡す。

いつも通りの量を買ったのか、それはやや多い。

彼女はソレに苦笑する。


「少し寂しいな・・・」


好物を飲む表情は、あまり明るくはならない。

それでも、気丈に振る舞う姿は彼女らしい。


「いつ以来かな、師匠と二人きりなんて。」


「んっ? そうだな。」


彼女は視線を向け微笑む。

そして、彼女は僕の隣に座り声を掛ける。


「なぁルシア、お前はどうしたい?」

「お前の母の事を知って、その後どうしたいんだ?」


師匠は言葉を終わらせ、パンを頬張る。

僕は、頬張ったパンを飲み込み、お茶で喉を湿らす。

そして、視線を落とし眉を顰める。

師匠も食べ終わり、質問の先を話し始めた。


「昔、復讐なんてやめろと言ったことは覚えているな。」


彼女は、空に視線を向ける。

その視線は、空の向こうにあった。


「はい。復讐しても誰も幸せにならないから・・ですよね?」


彼女は、頷き視線を向ける。

そして、僕の答えに続く様に話す。


「そうだな。復讐は遺恨を残すだけだからな。」

「遺恨など残れば、また復讐に繋がるだけだ。」

「なぁルシア、お前はお前の父親に対してどう思う。」


僕は、その質問は想定していた。

しかし、感情はそれを邪魔する。

そして視線は地面に落ち、感情は体も支配する。


「なぁ、ルシア・・・」

「お前のオヤジの足跡を追ってみないか?」

「オヤジの行動原理が判れば、お前の気持ちも少しは・・・」

「・・・」

「すまん、私は、優しい言葉など言える人間じゃない。」

「それでも、お前の力になりたい。」


僕は、彼女に視線を向ける。

そこにある表情は、少し悲しみを孕んでいた。

僕は思い出す。

感情は伝染することを。


「アリシア、ありがとう。」

「ただ、追うにしたって何もわからないよ。」

「僕が最後に見たのは、帝国の渓谷だった・・・」

「知っているのは、帝都で何かを奪った事だけだし・・」


師匠は、僕の頭に手を置く。

そして、ラスティを撫でる様に動かす。


「うむ・・ラスティの方が心地いいな・・・」

「ルシア、それだけ判れば調べ様はあるさ。」

「お前は、母の過去を探ってくれ。」

「私は、図書室で帝都の情報を探る。」


「アリシア・・・初めからそのつもりだったんじゃ・・」


「なんだ、その顔は、年を取ると感が働くんだよ。」


彼女の表情は、少し明るく変わる。

しかし、彼女の思考の先は伺い知れない。

それでも、僕を想う気持ちは本物の様に思えた。

僕達は、ぺータの町をゆっくりと散策する。

露天の店主の反応は様々だ。


「よぉ、姉ちゃんたち、寄ってけよ。 まけとくぜぇ。」


師匠は、ヒューマンの男性店主を値切る。

戦果は上場、7割程度の値段で焼きもろこしを2本。

悪戯な笑顔の女性は、1本を僕に手渡す。


「兄ちゃん、美人な姉さん連れてんなぁ、男気見せて買ってけよ。」

「綺麗な姉ちゃんも言ってやれよ。私の為にって。」


僕は、白いカリスト(熊の獣人)の男性店主の言葉に乗せられた。

イカを東方の調味料に付けて焼いたイカを3本売りつけられる。

それでも、僕は彼女の笑顔に救われた。

太陽の下で食べる昼餉は、それだけでも良い調味料だ。

広場の椅子に座り、二人で頬張った。

日の下で過ごす時間は、言葉無くゆっくりと過る。

二人で過ごすだけでも心は安らいだ。

心地よい時間は、長いようで短い。

気が付くと、太陽は紅く染まり西の空に沈んでいた。


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