12.王都
3日間は馬車の揺れがひどい。だが、その後4日目からは快適な旅になった。
ライザは街道が石畳に代わり揺れが少なくなったからだと教えてくれる。
王都に着くと、リカルドの別邸に部屋と衣服が用意されていた。
僕は体を拭き、ベットに入ると涙がこぼれている自分に気づく。
翌日、登城し一室で褒賞の話を受けた。
ルーファスとライザ、それにミランダは、軍入隊の打診がされた。
僕を含めた奴隷たちは報酬を受け取り解散。
僕は3人より早く部屋を後にした。
途中で聞き覚えのある声の主に襲撃される。
それはファルネーゼだ。
「ルシアちゃーん!」
だが逃げる気力が起こらなかった。
僕はそれ以上にライザ達との生活を失うことに恐怖を感じていたのだ。
ファルネーゼに抱き上げられ吸われるも、どうでもよくなっていた。
「んんっ、どうしたの、ルシアちゃん。私でよければ相談にのるぞ。」
ファルネーゼは咳払いし表情を引き締めて、僕に不安な視線を送る。
僕はポツポツと状況を説明した。
彼女はたまに歪んだ笑みを見せることもあるが、概ね親身に話を聞いてくれた。
「そうだな、ハッキリ言ってみてはどうだ。一緒に居たいと。」
彼女は意外なまでにまともな答えを用意していた。
この行動は正解だったかもしれない。
僕はファルネーゼに話したことで気分が少し楽になった。
彼女にお礼を言い城を後にする。
リカルドの別邸で一人で過ごすこと半時、ライザ達が帰ってきた。
彼らは打診を受けるという。
僕は想定してはいたが、やはり心が締め付けられる想いだった。
ファルネーゼの言葉は簡単な様で難しい。
僕は彼女たちに自分の想いを伝えることができない。
そして話ができないまま、僕たちは馬車に揺られリカルドの領地へ戻った。
僕たちはリカルドに呼び出され、進退の返答を求める。
ルーファスたちはリカルドに王都での話をし、私兵の話を断った。
そして話は僕へと移った。
「ルシアちゃん。君には私の妻になる道もあるのだよ?」
そこにいたのは以前の領主だった。
僕はライザを振り向くと、彼女は僕に一言告げる。
「一緒においで。」
僕の瞳は涙で溢れた。
僕は領主に向き返り、泣き顔で提案をすべて断る。
しかし、リカルドは落ち込むことなく僕の涙を拭う。
そして、今までにない覇気ある顔で僕に伝えた。
「今は君を引き留めることはできないが、見ていてくれ私の領地を。」
領主の後ろに控えるリナリアは口を手で抑えて顔を紅潮させていた。
僕はライザに手を引かれ、執務室を後にする。
そして翌日、僕たちは王都へ立った。
陽気はここに来た時と同じよう肌寒く感じが、心はあの時よりもずっと軽い。
僕は王都につくとライザに引き取られることになっていた。
僕とライザの2人生活が始まる。
彼女は朝から夜遅くまで軍部の技術開発局へ仕事に行く。
僕は部屋を掃除し、ご飯を作って待つ。想像していた事と何か違う。
軍部は6日ごとに1日休みが来る。これは法王庁が定めた暦に合わせているそうだ。
月の満ち欠けを元に1月とし、ひと月は28日になる。
季節とズレが生じる年があり、それは神の月とし各地ではお祭りが開催されるとライザは教えてくれた。
僕はライザの2度目の休みに違和感を相談した。
「ライザ、僕はこのままじゃだめだと思うんだけど・・・」
「家に居れば安心なんだけどな。ルシアって危なっかし。」
彼女の言うことはもっともだが、そうじゃあない。
僕は彼女にジトッとした視線を向けると、頭を数回ポンポンと叩かれ諭された。
「じゃぁ、次の休みにみんなで会って相談しようか・・・ねっ。」
僕はルーファスやミランダに会えることが嬉しかった。
しかし、何か話を変えられただけにも思えた。
それでも多少の進展に納得した。
次の休みにライザに連れられ街の食堂を訪れた。
そこでは、懐かしい顔ぶれが温かく迎えてくれる。
僕は食事をしながら彼らの近況を聞く。
ルーファスは騎士団で小隊の長として登用されていた。
彼は結果を出して家名を得ると意気込んでいる。
ミランダはというと2人とは違う道に進んでいた。
彼女は趣味の料理の道に進むんでいるという。
まずは王都の食堂で下働きから始めたそうだ。
彼女も2人の様に軍官から話は来ていたというが、貴族や軍に嫌気がさしたという。
二人の瞳は先を見据えているように思えた。
話は進みライザから僕の話が上がっる。
しかし、彼女は一緒に居れば安心だと話しまとめにはいってしまった。
僕は、ミランダに悲しい表情で訴える。
「ライザちょっとまって、ルシアちゃんはどうしたいの?」
僕はミランダの言葉に真っ白になる。
生活に何か違和感があったが、彼女たちと違って何も考えていなかった。
それでも、心には彼女たちと一緒に過ごしたい気持ち。
そして、薄れていくアノ男への復讐心がジレンマを生んだことに気が付いた。
僕が自問自答していると、横では三人が僕の進退を議題にしている。
ライザの中では一緒にいることが前提の様だ。
彼女としては、家で家事をしながら先を考えて欲しいらしいが、それでも可能性を考える。
彼女は腕を組み悩みならが投げかける。
「魔力はすごいのよ、問題は属性操作なのよね。」
「今のままだと、魔術師や魔導技師としては厳しいだろし・・・」
「ん~・・・魔力操作を極めれば可能はあるだろうけど・・・」
「私が教えるとしても、属性ありきで勉強したから感覚的になっちゃうっていうか・・・難しいのよね」
「ねぇ、ルーファスは騎士としのルシアってどうかな?」
彼女は魔法の師としては向かないという。
そしてルーファスはというと、彼もまた腕を組み悩み始めた。
「そうだな・・・立ち回りもいいし、盾の使い方は十分だろ。ただ他がな・・・」
「体つくりも、剣術も、時間さえあればどうにでもなるが・・・」
「平民出では簡単に入団できないからな・・・」
「5年前なら俺が国に推薦できたが、今は少隊長でも新人だろ。」
「戦争でもあれば、引っ張れるんだが・・・難しいな。」
ルーファスもライザ同様に悩み始めた。
そんな2人の横で、ミランダが胸の前で手をたたく。
「じゃあ、ルシアちゃんはあたしと来る?給仕さんしちゃお!フリフリのスカート履いてね。」
「可愛いじゃない!・・・うん、それがいいよ。ねっ。」
二人は合わせたかのように、ため息まじりでミランダに言う。
「「それはない。」」
三人は腕を組み唸る。
みんなが僕の為に悩んでいることがうれしかった。
そうしているとライザが手を叩き閃く。
「師匠なら魔力操作とか余裕じゃん。師匠もルシアみたいな奴探してたし。」
「ルシア、帰ったら師匠に手紙書いたげるからさ。」
「絶対それがいいよ。それしかない。・・・うん、決まりね。」
僕は強引なライザは嫌いじゃなかった。
僕のことを考えてくれた末のそれだからだ。
僕はライザに彼女の師匠についてどんな人か質問をした。
「そうね・・・ズボラでガサツね。」
ルーファスは笑い出すが、ソレを見るライザの表情は怖い。
それはこの後の言動が予測できるためだ。
「ハハハッ、さすがお前の師匠だな。弟子と一緒だ。」
「ルーファス、ぶつわよ」
一瞬空気が凍るがいつものことだ。
ミランダが取り持つとライザは話をつづけた。
「師匠に会ったのは、私が10歳くらいの時だったかな。」
「私の家で、住み込み家庭教師として3年間お願いしてたの。」
「元は、お爺様の師匠だったのよ。」
その後は彼女がどれだけすごいのかを、彼らの失った国の魔法使いを指標に話が続いた。
僕は疑問がわいた。ライザも言うように僕は属性操作ができない。
そこのことを確認するとライザは言う。
「そう、そこなのよ。私の使っている現代魔術ってね。」
「術式に使用魔力量とか出力量なんか色々を含めて構築するのが基本なのよ。」
「これだと、魔力操作って、-----------------」
ミランダは混乱しだし、ルーファスは話を止めた。
「ライザ、まとめてくれ!わからん。」
「ごめん。つい熱くなっちゃったか。」
「現代魔術は魔力操作が最低限出来ればいいのよ。」
「で、今のルシアは、この最低限はできているの。」
「これ以上教えるとなると師匠を頼るしかないかなって・・・」
「私の知る中で、魔力操作で"変な事"できるのは師匠とお爺様だけなのよ。」
この意見に二人は賛同した。僕も強くなれば3人の力になれる。
ようやく僕の進む先が見えたのだ。
日も傾き空が茜色に染まった頃、食事会は解散した。
いつぶりだろうか、心から楽しめた。しかし寂しさも感じる。
僕はライザと一緒に家に帰った。
その夜、ライザからライザの師匠に当てた手紙を受け取る。
そしてライザの師匠が10年前に居た場所を教わった。
翌朝、僕は仕事へ出かけるライザと共に彼女の家を後にする。
そして商店街の入り口で彼女と別れた。
最後にライザは、「なんでもいいから連絡しなさい」と強く念を押す。
僕は彼女を見つめお礼をした。
すると彼女は少し屈み、顔を近づける。
静かな時間が過ぎ、僕の額には彼女の唇の感触が残った。
「がんばれよ。ルシア。」
僕の瞳には涙がにじみむ。
ライザのやさしさに胸が苦しくなった。
それでも彼女の笑顔に、僕は笑顔を返しその場を後にする。
王都は今まで目にしたどの町よりも活気があり綺麗だった。




