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41(129).砕氷船

エドモストンの港は、幻想的な光のカーテンで美しい。

トナカイの橇はゆっくり止まり、僕達を降ろす。

気のいい御者は、後方で手を振り見送った。

翌朝も同じような寒さで、僕は目が覚める。

隣のベットでは、小猫とソレを抱きしめる女性。

数刻が過ぎると、ベットは空になる。

陽も昇り、大地の白を輝かせた。



港では、船体の前面を、魔鉱石と金属の合金が覆う。

この時期のファルナウス行の客船は値が張った。

その理由が、この船体だ。

船首の金属に魔力を込めることで、船正面の氷を容易く砕くという。

それには、相応の魔力が必要である。

その為、魔術師が必要になり人件費がかさむ。

その結果、船賃が上がるわけだ。

僕達は納得し、3人分の船賃を支払った。



船は、太陽が東にある内に出港する。

帆は風を受け、氷が浮かぶ海を滑るように進む。

遠くの氷上には、白い獣。

極寒の海に入っているモノすらもいる。

水面は、角の様な物が何本も上下するす。

そして何事も無く数刻は静かな海を進んだ。



太陽が西に傾く頃に、船の真価が発揮される。

最初の1度は、船体を少し揺すった。

僕は、バランスを崩す師匠の手を取り、彼女を抱きとめた。


「大丈夫? アリシア。」


「ありがとう、ルシア・・・」


彼女は、そのまま寄り添う。

フードでは、その姿を笑顔で見つめる小猫。

その後の船は、魔力の刃に守られ、氷海を砕き進む。

何処までも氷と寒々しい海だ。

波一つない海は、北に進むにつれ獣の種類は減っていく。

朝方見た角は見られない。

しかし、自然の雄大さは変わることは無かった。

目の前では、氷山が崩れ海に消えていく。

巨大な水飛沫が船を襲う。

船員は気にも留めず、それそれの仕事をこなす。

フードからは、ギラついた視線がソレを眺めていた。



僕達は甲板を後に食堂へ移動する。

流石、旅客船だけのことはある。

外見は、デイヴィの船にも劣らない。

僕達は、食堂で席につき、給仕に注文を頼む。

他の客も、それぞれの時間を楽しんだ。

しかし、どこにでも、碌でもない奴はいる。

それは陸だけの事ではない。

談笑を楽しむ客たちに、物色する様な視線を飛ばす輩。

服装は冒険者だろうか。

腰には短いロッドの様な物を下げている。

男達は、周りに聞こえる様に声を張った。


「ッハー、疲れたわー。」


「そうですよね。エリクさん。」

「俺たちのお陰で、船は安全に氷海を進めるんですもんね。」


「"俺たちのお陰"じゃねーよ。"俺たちのお陰"なんだよ。」

「でもよー、誰も労わっちゃくれねーよな。」


彼の会話は、僕の頭では理解できなかった。

否定しつつ肯定する、その言葉に僕は困惑する。

僕はため息と共に、師匠に視線を飛ばす。

しかし、彼女は横に首を振り、すまし顔で食事をする。

その関わりたくない空気の中、ラスティは、玩具を見るような視線を向けた。

その視線に気づいたのか、遠くからソレは近づいてくる。

僕はラスティに顔を寄せ、彼女に呟く。


「ラスティ、見ちゃダメだよ。」


「んん、面白いよ。」


彼女は首を傾げ、視線を師匠に飛ばす。

やはり、師匠は僕にした様に首を横に振る。

昔のラスティならこうではなかっただろう。

良くも悪くも、警戒心が無くなっていた。

想像の上を行く魔導士たちは、僕らの机で立ち止まる。


「へー、女だけでの旅行ってか?」

「オレたちとチャーシバかねぇ?」

「ねぇ、エリクさん。」


「"エリクさん"じゃねえよ。"エリクさん"だよ。」

「なぁ、ねぇちゃん達、どうだよ。ちょうど3:3だ。」


僕は、そのエリクさんを睨みつける。

師匠は珍しく、すまし顔で食事中。


エリクさんは、僕の表情を鼻で笑い、師匠に視線を向ける。

その反応に、ぼくは虫唾が走った。

そんなことを気に留めないエリックさんは額に手を当て調子づく。


「ははーん、アンタ魔法使いだな。」

「俺たちと話が合いそうだ。どうだよ。チャーシバこうぜ。」


そして、エリクさんの手が師匠へ延びる。

彼女は、手に持つフォークでそれをいなす。

その鮮やかさに、エリクさんは声を失う。

師匠は、依然としてすまし顔で料理を食べていた。


「何気取ってんだよ。」

「ねーちゃん、あんま調子に乗んなよ。」


エリクさんは、魔力を高め詠唱を始めた。

ひたすらに、食事を続ける師匠にため息を漏らし僕は動く。

ゆっくりとエリクさんに手を当て魔力を発散させた。

自慢げなエリクさんの術式は、魔力不足で不発に。


「ハー? まな板娘、何しやがった!」


エリクさんの手は、目標を変え僕に伸びる。

僕は、貴族剣術を応用し、その腕を左手で外へいなす。

そして、背を向けるエリクさんへ魔力を込めた掌底見舞う。

一瞬だけ、恍惚な表情を浮かべたエリクさんは壁際に沈む。

僕は取り巻きに、エリクさんを片付けさせた。

静まり返った食堂からは、拍手が湧き起こる。

すまし顔の師匠は少し嬉しそうだった。

食事を終え、僕達は雑魚寝できる大部屋へ移動。

大部屋の端で僕達は横になる。

目の前には師匠の顔。

それは悪戯な笑顔だ。

彼女は自分の手前をポンポンと叩く。


「ルシア、もっと寄れ。」


彼女は、ラスティと僕を抱きしめ寝息を立てた。

冬の船室は寒い。

それでも、僕達は温かく過ごした。


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