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29(117).人間の想い

昼下がりの食堂は、様々な想いに耽る客たちが集まる。

静かな空間で、僕は師匠の話を聞いていた。


「では続けよう。」

「あの歌には3つの自然現象が登場するんだ。」

「一つ目は、"雪の巨人が群れを成し"だな。」

「これは樹氷というものだ。」

「原因がわからない時代は、恐怖の対象でしかないがな。」

「二人は氷がどうできるかは知っているか?」


師匠は紅茶を口に運び、のどを潤し話を続ける。

僕は、ラスティを撫でながらその話に聞き入った。

彼女が告げる内容は、そういうモノなのかと思うモノもある。

そして彼女が、原理を説明する姿は生き生きとしていた。

それは、ライザやミーシャに通じる部分がある。

彼女は最後を締める様にまとめた。


「どうだ? 怖いものなどないだろ。」

「・・・では、3人で見に行ってみようではないか。」

「わかってしまえば怖くないモノだぞ。」


僕達は、旅の寄り道を楽しむ事にした。

これはラスティの為でもあるが、良い思い出にもなる。

静かな食堂を後に、商店街を目指す。



商店街への道すがら、詩歌以外の声が耳に入る。

それは、公園から聞こえた演説だ。

声の主は、綺麗な格好で仰々しい手振り。


「大人は、子供に向き合うべきだ!!」

「私ケニス・メーアは、未来を支える子供達の為に政治を行う!」


その場には、真剣に耳を傾ける人や、馬鹿にする人、反発する人、様々いる。

それがこの国の民の考え方であり、国の在り方そのものなのだろ。

男は、自身に満ちた表情で、愛想を振りまく。

その主張に僕は疑問を感じた。

それは、政治以前に親自身が子供に向き合う必要があるのではと。

政治は国民の生活を豊かにする為ものだ。

その結果、国が豊かになれば、親にも時間ができる。

想うことは多々あった。

しかし、人の考えは、その人のモノで批判するべきではない。

ただ、それに賛同するのは、その人の勝手である。

師匠は、僕の悩む顔を見て一つ忠告をした。


「お前もよく考えるんだ・・・」

「言葉には魂が宿る。だから責任は持てよ。」


僕は、論議をぶつけ合う人々に視線を残し、師匠の言葉を心に深く刻む。

それは、彼女を連れだした僕へ向けた彼女の本心なのだから。



静かに過ぎる街の時間は、幸せを感じさせる。

戦争は、もう昔の話なのだろう。

大通りを歩く家族の顔は明るい。

それでも、目抜き通りを曲がり、路地を2・3本奥に行くと闇はある。

数年前では、目抜き通りにさえ闇はあった。

僕達は、数日の食料を買い込み、旅の準備を進める。

一通り旅の荷物が揃う頃でも日が陰ることは無い。

師匠は、店やの主人に質問を投げる。


「店主、この街には天気に詳しい学者はいるか?」


「はぁ、そうですな・・・」

「ギルドの隣にある家を訪ねると良いですよ。」

「家主はハーレって変わった学者ですよ。」

「まぁ、その分彼女は、先の天気を外したことはありませんな。」


「それは、すごいな。」


僕達は、主に僕が大量の荷物を抱え、ハーレという学者の家に向かった。

ギルドの隣には、それなりに立派な屋敷がある。

一見すると貴族の屋敷にも思えた。

門を開け敷地へ入って行くと、小さなゴーレムが雪を掻いている。

しかし、魔力不足なのか雪を押しきれていない。

中には、埋まったまま動く気配すらない物もある。

師匠の顔に不安がよぎる。

しかし、目的は天気であって、魔導ではない。

雑に掻かれた雪をかき分け玄関に辿り着く。

僕はノッカーを強く叩いた。

すると、悲鳴と共に罵声が返ってくる。


「うるさーーーい!! アンタ、扉を壊す気かよ!」

「人が来たことぐらい・・・」

「ノッカーを軽く叩きゃわかるんだよ、まったく。」


扉が開かれ、そこで怒鳴る女性。

見た目は僕よりも小さく、幼く見える。

僕は、睨みつける彼女に質問を投げた。


「ノッカーの事はごめんね。」

「君のお母さんは留守かな?」

「僕達、ハーレさんに会いに来たんだけど。」


彼女の怒りはさらに上昇。

そして、僕の脛に蹴りをくれた。


「誰がお母さんだ!! 私は結婚なんてしてないよ!」

「お前、今、胸見ていったろ・・・」

「胸が無くたってアンタよりお姉さんなんだよ私は!!」


僕は、悪手を引き続けた様だ。

どうにもならなくなった空気を師匠は宥めた。


「すまんな、ドワーフの学者先生。」

「こいつは、まだ幼いから言葉を知らないんだ。」

「私たちは貴方に会いに来たのだ。 少し時間を貰ってもいいか?」


師匠は、激怒する女性に手土産を渡し、機嫌を取る。

そして、僕にも視線を送るが、それは諭すものではない。

それは、申し訳生そうな表情だ。

一方、彼女の表情もまんざらではない様だった。


「わかればいいんだよ。 寒いだろうから入んな。」


機嫌を直した女性は扉を開け僕達を家に招いた。

家の中は静かで、他に人がいる気配はない。

しかし、大き目の犬が暖炉の正面に陣取っている。

ドワーフの学者は、椅子を勧め、お茶を用意した。


「なぁ、その猫はミルクでいいか?」


「すまんな、温めてもらってもいいか?」


「アンタ、魔法でできるだろ。」


僕は、二人の会話にタジタジだった。

師匠は、ラスティの為に出されたミルクに魔力を込め暖める。

その、スムーズな所作にドワーフの学者は感心した。


「アンタ凄いね。 何処かの国仕えか?」


「いや、違うよ。」

「で、貴方がハーレでいいのだな?」


彼女は、ない胸を張り、自己紹介を始める。

その光景は、何か微笑ましい。


「エッヘン! 私がハーレ・ノイマン。」

「ヴァンタヴェイロの天才・天文学者だ。」


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