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28(116).北国の家族

雪の国の朝は、真夏の様に明るい。

スコップ(両手で使う大きい物)で雪かきする者や、魔導具を使う者。

中には、術式を展開する者さえいた。

宿の庭は、主人が淡々と雪をかく。

僕は、その作業に引かれる何かを感じた。


「おはようございます。 良かったら僕にやらせてもらっても?」


「んっ、 お客さんかい。 おはようさん。」

「・・・あぁいいぜ。 ただな、妻には口裏を合わせてくれよ。」


「あぁ・・・。 わかりました。」


「おぉ、話の分かる嬢ちゃんで助かるよ。」

「洗濯モンが干せる程度に掻く国の朝は、真夏の様に明るい。

スコップ(両手で使う大きい物)で雪かきする者や、魔導具を使う者。

中には、術式を展開する者さえいた。

宿の庭は、主人が淡々と雪を掻く。

僕は、その作業に引かれる何かを感じた。


「おはようございます。 良かったら僕にやらせてもらっても?」


「んっ、 お客さんかい。 おはようさん。」

「・・・あぁいいぜ。 ただな、妻には口裏を合わせてくれよ。」


「あぁ・・・。 わかりました。」


「おぉ、話の分かる嬢ちゃんで助かるよ。」

「洗濯モンが干せる程度に掻くいてくれりゃいいよ。」

「んで、あっちに積んでおいてくれ。」

「朝飯は期待してろよ。」


「はい。 終わったら連絡しますね。」

「あっ・・・」


主人は笑顔で手を振り、厨房へ戻っていく。

僕は、一部訂正を忘れたが、いつもの事でもあった。

サクサクと気持ちのいい音、そして全身運動が心地よくもある。

半分ほど終わると、ラスティを抱いた師匠が顔を出す。


「師匠、今日は早いですね・・・・」

「外に出るんなら、髪ぐらい梳かしてくださいよ!」


「フフッ、お前は母親だな。 ガサツな髪形は嫌いか?」


「・・・」


師匠の表情はいつものアレだ。

好きな表情だが、今日はそのイタズラ度合いが高い。

彼女の手から、モコモコになった小猫が飛び出す。

そして、白い海は飛び込んだ。


「ラスティ、何をやっているんだ。 淑女が泣くぞ。」


「今のウチは淑女じゃなくていいの!」


ラスティは視線を返すことなく、白銀の世界を駆けまわる。

半分以上埋まりながら進む姿は、苦笑いしか浮かばない。

それでも、小さな者が無邪気に遊ぶ姿は心を和ませる。

そうこうしていると、小悪魔は、新造された白い山を登りだす。


「ラスティ、ダメ!!」


彼女は天性の敏捷性により、雪山の頂上から飛び、安全圏へ避難。

雪山は、小さな雪崩を起こし、作業を巻き戻した。

彼女の視線は、僕に向けられている。

その表情は、怒る気をそぐには十分すぎた。


「ラスティ、大丈夫?」


「ウチ・・・ごめんなさい。」


僕は彼女に付いた粉雪を払い、師匠へ優しく返した。

師匠の表情も苦笑い以外には何もない。

師匠は、イタズラ猫の頭を軽くポンポンと叩き諭す。


「ラスティ、ルシアの仕事が無駄になってしまったな。」

「次は、気を付けるんだぞ。 では、部屋に戻ろうか。」


師匠は、僕の顔を柔らかい布で優しく包む。

そして軽く汗を拭うと、その布を僕の首にかけた。


「お前も、無理はするなよ。」

「外は寒いんだ。 鍛錬もいいが体を気にしろ。」


彼女の優しさを感じ、外気で冷えた体とは裏腹に心は温かい。

僕の視線は、この場を離れる彼女の後ろ姿をおっていた。

そして現実は無情だと知る。

振り返った空間は、半分ほど作業が戻っていた。

気持ちよさなど遠に過ぎ、ただ粛々と雪を掻く。

朝食は、主人のサービスで必要以上の満腹感があった。

部屋に戻り、3人で話し合う。

その結果、町を散策するとこになった。

ラスティは、昨日と違い元気だ。

いつもの通り、僕か師匠のフードから世界を眺める。

町行く子供たちは、彼女を見ては声を掛けたり手を振ったり。

その姿は何処ぞの姫君の様だった。

太陽が天辺から少し西に傾いた頃、食堂へ入った。

静かな店内には、紳士淑女が紅茶を嗜んでいる。

僕達も席につき、注文をして時間を過ごす。

優雅な空間は影響を与え、食事が終わったのはだいぶ後だ。

食事を終え、僕達も周りの様に茶を楽しむ。

すると落ち着いたのか、ラスティは昨日の事を話し始めた。

それは彼女の過去話、僕と会うまでの彼女の旅だ。



彼女の生まれた町は判からない。

それでも、ヴァンタヴェイロ領のどこかなのは判った。

彼女には、たくさんの兄弟がいたという。

しかし親の事は憶えていないという。

生まれて間もない彼女は、姉に抱かれ日々を過ごした。

ある寒い日の夜の事。

それは、あの歌の様な日の事だ。

外は雪は吹き荒れ、低い唸り声が静かな町を覆う。

兄弟姉妹は、小さな暖炉の火を頼りに、体を寄せ合いその寒さを凌ぐ。

翌朝、違和感を感じた兄弟は、姉妹の一人がいないことに気づいた。

消えた姉妹の事は、トイレに部屋を出た後は誰も見ていない。

その日、日が沈むまで彼女を探しても、どこにもいなかったという。

時間は無情にも過ぎた。

同じように寒い日を越える度、兄弟姉妹は減っていったという。

そして、深く重い雄たけびが聞こえる吹雪の夜。

ラスティは、姉に抱かれどこかへ連れ出された。

彼女は、生まれて半年と少し経つ程度。

夢か現実かもわからない中、姉との船旅は始まる。

虚ろな記憶は、姉の表情を隠す。

二人は、ヘルネ領のある街で大きな檻がいくつもある天幕にいたという。

そして、姉とはそこで別れた。

彼女は、船に乗せられ何処かへ向かう。

しかし、海は荒れ、気が付くとリヒターの海岸。

運がいいのか悪いのか、ヒューマンの冒険者に拾われた。

そして、その目を利用され、ダンジョン攻略へ。

あとは、僕の知る限りだ。



昨日の彼女の恐怖はココにあった。

寒い夜の悲劇、彼女の最初の記憶は明るいモノではない。

深層にこびりつくソレは、彼女に重く圧し掛かる。

兄弟姉妹が、なせ消えたのか真相は、予想は出来ても分からない。

僕は、俯くラスティを抱きしめ、彼女に呟く。


「もう大丈夫だよ。 君は一人じゃない。」

「僕達は、ラスティを一人にしないよ。」


小さな淑女は、頭を強く僕の胸に押し付ける。

師匠の視線も温かく彼女を包んだ。

暖炉の薪だけが、その爆ぜる音を響かせる。

優しい時間は、長いようで短く感じさせた。

ラスティが落ち着き、温かいミルクを啜る。

その表情を優しく見つめる師匠は、彼女に唄の説明を始める。


「ラスティ、あの話にある物は、怖いモノではないだ。」

「それは、美しい自然の現象だったりしてな。」

「どうだろう、興味はないか?」


彼女は、優しくラスティを撫でる。

その手に頭をこすりつけるラスティ。

そして尻尾は元気よく立っていた。

師匠の問いかけに彼女は、心配そうに頷く。


「大丈夫だ、私もルシアもいる。」


ラスティは温かいミルクを飲み干し、師匠の胸に飛び込んだ。

そして彼女に視線を送り、話を聞く準備ができた意を表す。

そこには、淑女の姿はなく、母に甘える子の姿があった。

師匠は、ラスティを撫で、話を始めた。

それは、童話を話すものではなく、彼女らしい説明だ。


「そうだな、まずは、夜に鳴り響く唸り声だな。」

「こいつは、吹雪きによるものだ。」

「あとは、少し山奥に行くと巨人族の末裔がいると聞いたことがある。」


僕は、彼女の話に眉を顰めた。

それは、ラスティが怖がるのではと。

しかし、彼女は小猫を撫でながら話を続ける。


「アイツは、見た目のわりに意外と知的でな。」

「悪い奴ではないし、滅多に人の前には出てこない。」

「まぁ、ヒューマンよりは気のいい奴だ。」


師匠の表情は、イタズラ好きな女性のそれだ。

昔よく、いじられた記憶がある。

ラスティの表情から強張りは消えたが、僕の元へ移動する。


「なんだ、ラスティ。 怒ることは無いだろ。」

「そんなつもりじゃなかったんだがな、まあいい。」

「次だな。 」


静かな食堂は、3人の話を気に留める者など誰もいない。

ゆっくりとした時間が其々が思う様に過ぎていく。


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