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25(113).語られる母の過去

暖炉の炎は、時折薪を爆ぜさせる。

辺りの闇に優しく包まれる橙色の光。

ゆっくりと語られた母の過去。



それは僕の生まれる前の話。

彼女は法王庁で修行をし、この領地には派遣された司祭だった。

もちろん、話をする叔母もそうだという。

しかし、二人の階級は違う。

司祭と助祭。

それは、能力の高さだけではない。

彼女達は、山の修道院に派遣され、そこで修道女たちを指導していた。

その姿は、優しく時に厳しい。

嫌味なく、誰にでも分け隔てない性格は、院内外でも評判が良い。

彼女を慕う者は、日々増え、民達からは聖女と言われるまでになった。

それを裏付ける様に彼女には光の精霊と交信もできる。

ある時から、修道院には住み込みの庭師が2人入るようになった。

叔母は、その一人と恋に落ち、逢引するようになったという。

母はソレを諫めることなく見守っていた。

評判のいい修道院には、花嫁修業で娘を預ける貴族も多い。

その結果、お布施も多くなる。



しかし、良い時もあれば、悪い時も必ずある。

光を妬む深い闇は、いくらでもいるという事だ。

修道院は、金目当てに野盗集団に襲われ火を放たれた。

世間的には、修道女たちの命は失われた事になっている。

貴族達は手のひらを返し、法王庁を批判した。

それでも、事は悪い方へと転がるばかりではない。

運よく逃れた、母と叔母、そしてそれを救った2人の庭師。

新天地の生活は、厳しくもあり時として互いの仲を深め合う。

身近な幸せを二組の夫婦は謳歌する。

そして、このまま時が流れることを祈った。

しかし、悪夢は終わらない。

出稼ぎから返る姉の夫は、ある時からその人柄を変貌させた。

しかし、それは元に戻ることもある。

症状を抑える為には高い薬が必要だ。

僕が生まれる2年ほど前から母は体調を崩すことが増えた。

日々の苦労は増すばかり、それでもそこには幸せもある。

小さな命が彼らの生活に幸せと活力を与えた。

それは、日が増すごとに膨らむ腹の様に。

しかし、僕を生む頃には母の属性消えた。

それは、魔法が使えなくなった事を意味する。

僕が13歳になる頃に、父は二人と借金を残し蒸発。

それでも彼女は、神を恨むことなく母親として最後まで生きた。



叔母は、どちらが本当の彼なのかは分からなかったという。

義叔父は俯き、兄を擁護する気はない様だった。

話を聞く、ラスティは、布を離さない。

それを見つめる師匠は、何かを考え俯いた。

僕は、師匠に視線を向け疑問を投げる。


「師匠、属性は受け継がれるモノなのですか?」


彼女は、その言葉に反応し、僕に視線を向ける。

そして、腕を組み頬を撫で考えをめぐらす。


「私の知る限りでは、それはない筈だがな・・・」


回答はするが、まだどこか上の空。

それから話が進展する事は無い。

分かったことは多少あるが、むしろ謎が増えた。

話を終え、ラスティは僕を慰める様に首に絡みつく。

フワフワな体は温かいが、時折当たる髭はこそばゆい。

横で思考を巡らす師匠は、いつになく真剣だ。

少なからず、彼女の思考の中に法王庁があるのだろう。

僕達は、次の目的地を相談する。

そして僕達は、法王庁のあるファルナウム島を目指すことにした。

静かに闇は辺りを包む。

ここぞとばかりに眠気は僕達を襲う。

気が付くと、窓から入る朝日が頬を叩き、目覚めを促した。

ラスティは、僕の目覚めに反応し、大きな欠伸から伸びをする。

僕は、朝の挨拶を投げ、眠りの姫君を頼んで庭にでた。

朝日は美しく、遠くの海からは、塩気を亡くした風が吹き上がっている。

僕は、いつもの鍛錬をはじめた。

冷えた空気は、肌に触れ少しずつ温かくなるが、それを自然は許さない。

吹き付ける風は、そのすべてを奪う。

指先は紅くなり、動作の全てを阻害する。

それでも、ミーシャとの鍛錬は、僕に絆と自信を与えた。

町人達は、日々の生活を始め、町は活気だす。

僕は、話と宿泊の恩義にと薪割りの手伝いをかってでた。

魔力の通らない手斧は勝手が違う。

それでも数回振れば、それにも慣れる。

気持ちの良い木の割れる音が、町に響き渡った。

半時もすると、周りの家々からの視線も増える。


「アレーラさんちの子じゃないわよね?」


「叔母がお世話になってます。」


「あら・・・えっ・・・ルシアなのかい?」


皆一様に会話が同じだ。

確かに、そうなるだろう。

しかし、見知らぬ町で僕を知る者が多い。

むしろ僕には、その方がおかしく思えた。

薪割りを終え、叔母の元に戻り出来事を話す。


「そうね。私達と同じように逃げ延びた人達ね。」

「ここの町の人は良い人達よ。」


僕は納得し、部屋へ戻る。

そこには、姫君が2人に増えていた。

深いため息は、彼女達には届かない。

後で控える叔母は、微笑む様に笑う。

僕は着替え、彼女たちを起こす。

何気ない日常は、嫌な感情にひと時の蓋を被せる。

早い昼食を取り、僕たちは叔母の家を後にした。

叔母は最後に、ある物を僕に手渡す。

それは、あの時売りに出された母の形見だった。


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