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22(110).想いの強さ

まだ、雪の時期には早いというのに山の頂きは白い。

風は強く吹き、その粉雪を運ぶ。

師匠は、その舞い散る粉雪を手に取り、視線を頂きへ向ける。


「ルシア、厚手の服は持ってきているか?」


僕は、その言葉に頷き、装備の下に着込んだ。

ラスティもフカフカなローブを纏い人形の様に姿を変える。

進む先は、次第に白さを増す。

山歩きから登山へ変わり、山は地肌をむき出しにした。

ゴツゴツとした岩が増え、そこは人の世界ではない。

上空の監視者は、僕らの上空を滑空し、吹雪の中に降りていく。

そしてまた、飛竜は飛び立つ。

僕達は、静かにその地へと向かった。

吹雪は、行く手を塞ぎ、体力も奪う。

後方に控える師匠の手を握り、互いを確認しながら白い闇を進む。

暴風の先には巨大な影があった。

師匠は僕の隣に立ち、顔を寄せ小さく耳打ちする。


「辺りを確認するぞ。 2頭とは限らないからな。」


僕は、その言葉に頷き、影を大きく迂回する様に山肌を上る。

風の音は激しく、全ての音をかき消していく。

世界は闇に包まれ、突風が地面を殴る。

そして、もう一つの影に合流。

しばらくすると、高い鳴き声が嵐の音に交じって聞こえた。

その声の主は魔力探知でも分かる。


「師匠、これは・・・」


「ああ、気が向かんな・・・」


そこに感じられる魔力は4つ。

巨大な魔力が2つ、その二つが守るように小さな魔力が2つだ。

それは家族をなしている。

僕達はその場を後に、林まで戻ることにした。

野営の空気は重い。

焚き火を見つめながら僕は悩む。

爆ぜる音は、心を締め付ける。

その炎の中に見えるのは飛竜達。

姿は違えど、彼らはそこで生きているだけなのだ。

師匠は諭す様に話す。


「生きるという事は、誰かの命の上になりたっているんだ・・・」

「だがな、自分が生きる為と思うなよ。 それこそ辛くなるだけだ。」

「少しでも寝ておけ。 お前には私がいる。」


師匠の横顔は炎に照らされ、言葉に重みを与える。

僕は先に休みを取った。

夜の闇は何処までも深く、そして静かだ。

それでも命は息づいている。

僕は数刻休み、師匠と変わった。

僕に寄りかかるように眠る師匠、そして足の上で丸くなるラスティ。

山頂では同じ様に飛竜達も休んでいるのだろう。

1人、答えのない問かけに悩み続けた。

白け始めた頃、ラスティと変わり最後の休憩をとる。

焚き火の光に影を落とす彼女の姿は、悩みを少しだけ和らげた。


「おい。ルシア、起きろ。」


そこには、凛とした彼女の顔がある。

暖められたスープ皿を頬に押し当てられ僕は起こされた。

彼女の作るスープは心から安らぐ。



僕達は準備をし、山頂を目指した。

空は晴れわたり、隠れる場所はない。

監視者は悠然と空を舞う。

正面の1頭は、殺気立ち咆哮を上げた。

それは、子を守る親の圧力に他ならない。

空は、低い咆哮と共に落ちてくる。

僕はその場から離れ、体勢を整えた。

遠くでは同じように師匠も距離を取っている。

大地を揺らす正面の1頭は、牙を剥き威嚇。


「ラスティ、師匠の元へ走れるかい?」


彼女は頷き、スルスルと僕の背中から下る。

そして、ワイバーンの視覚を避けながら師匠の元へ駆けた。

僕はレイピアを抜き、その刃に光を反射させる。

回転する刃は、ワイバーンを引き付けるのに十分だ。

首ごと此方を睨みつけるワイバーン。

ラスティが師匠の元へ辿りついた事を確認し、僕は剣を引き盾を前に出す。

流石に、獣は魔物程馬鹿ではない。

理性は、生存のために働く。

硬直する空気は永遠にも感じられた。

しかし此方は2人、師匠は静かに魔力を高め、術式を展開。

正面の空の監視者は、空へは返れない。

絡みつく大木の様な蔓。

それは存在を主張する様にワイバーンを包んでいく。

発動を終えた師匠は、その場にはもういない。

2つの獣を視界にとらえ、次の行動へと移っていた。

僕は、蔓にまみれたワイバーンの翼を狙う。

軋む蔓は、どちらが捕獲されたのかわからない。

暴れ狂う飛竜、その強大な膂力で草の様に引きちぎられた巨蔓。

口にくわえソレを首の力のみで振り飛ばす。

宙を舞う大木は、雑に狙うも、大地に弾かれ明後日の方向へ。

僕は、肝を冷やしつつも前衛を努める。

ワイバーンの間合いで命の取り合い。

巨顎が頬を掠め、間合いはさらに詰まる。

僕は、盾で次撃を制御。

飛竜の胸部に逆袈裟から袈裟切りへと連撃を続けた。

そこに舞う命の色は青黒い。

一瞬、思考が狂うも、その隙は空へ舞うのに十分な時間を与える。

圧し掛かられたかと思うほどに重い空気。

僕は片膝をつき、ソレに抗う。

しかし、盾は邪魔でしかない程、風に抵抗する。

そこには、死神が首筋を冷たい手で撫でる姿があった。

ワイバーンは高く舞い上がることなく中空で宙返りする様に後転。

師匠が放つ炎の巨球は、飛竜の次撃を逸らす事に成功。

しかし、ワイバーンは諦めることなく、その爪で僕を襲う。

盾を両手で抑え、防御に徹するも、重さは全てを物語る。

僕はその衝撃で、宙に舞った。

視界の中心には飛竜、背景には美しい麓の世界。

実際には後方に吹き飛ばされただけ。

しかし、絶対的に標高は高い。


「ルシア!!」


師匠の声が青空に響く。

遠くのはずなのに、その表情すら分かっる。

数秒の空中は終わり、鉄錆の味が口を染めた。

体はボロボロの様で、日ごろの鍛錬が功を奏す。

確かに口内は切ったが、体は動くし、気力にも余裕がある。

そのせいか、無駄に頭は動き、意図せず呟きが漏れた。


「感情を持つ魔物は、愛すらも理解するのか。」


書物には、魔物は感情無く欲望のみに生きるとあった。

しかし、目の前のソレは、家族を守る。

僕は、その考えを吐き捨てる様に叫ぶ。

頭の中から雑音を消し、そこで戦う大切な者達だけのことを考えた。

傾斜を駆け上がり、戦場に戻る。

未だに一対一の攻防は続いていた。

水の刃は、ワイバーンの鱗を飛ばし、青黒い鮮血が舞う。

目の前には巨大な尻尾。

バランスを取る様に首とは逆に動く。

ワイバーンの意識は、師匠にしかない。

僕は素早く迂回し、意識の外から伸びきった首目掛け、大上段から斬撃を放つ。

魔力により、鋭さと強度を増したレイピアは、簡単に鱗を飛ばす。

ザックリと開く傷口は、息するたびに泡を立てながら大量の血が漏れ出した。

ワイバーンの口からは青黒い血が溢れ、命の炎を弱める。

呼吸と共に風の流れる音が耳障りだ。

ワイバーンは、魔力を首へ集中させ氷結をもってその傷を塞ぐ。

その意志とは裏腹に体は左右に振れる。

僕は叫び、師匠に視線を送る。


「師匠!!」


予定通りと言わんばかりに、彼女の正面には完成した術式。

次の瞬間、岩漿がワイバーンの首を狙う。

急激に冷やされた岩漿は炸裂し、首の傷を大きく広げた。

水蒸気に包まれたワイバーンへ僕は飛び込む。

地面に倒れ込むも、牙を剥くソレを僕は断つ。

山頂にあった大きな魔力は1つ失われた。


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