表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/325

13(101).旅立ち

風は激しく扉を叩く、東の空はやがて明るくなった。

僕は、窓を開け優しい風を中に(いざな)う。

部屋の中を駆け抜けた風は、また外へと向かった。

暖められた空気は清められ、僕は眠気から覚める。

まな板を叩く音は、2人の淑女へと届き、小さな淑女は目覚めた。

温かいスープは、体の中から熱を与える。

スープの味を調え、僕はもう一人の淑女を起こしに向かう。

相変わらずの姿は、僕の心にも安らぎを与える。

日の昇りと共に会話が成立する女性をラスティに任せ、僕は部屋を後にした。

食事はいつも二人の喧嘩で始まる。

理由は考えるまでも無く、大きい子供が原因だ。

僕達は食事を片付け、今後について会話した。

ここ数日、師匠は僕らの旅の話を聞く。

彼女は、笑顔で頷きながらその内容を思い浮かべた。

だが、今日は違う。

旅の話は、アリシアとの遭遇で幕を閉じた。

師匠は、紅茶を一口飲むと僕に質問を投げる。


「ルシア、まだ故郷には帰っていないのか?」


僕は、その質問に少しの沈黙と頷きで返す。

僕の旅はソコから始まった。

気が付くと、最初の目的地を忘れ、大陸の西を冒険している。

僕は、ラスティに視線を送る。

彼女は、毛繕いを終え、僕の視線に返答した。


「ウチは、ルシアのアイボーだから付いてく。」


彼女の瞳に宿る光は強く、そして楽しそうな表情だ。

僕は彼女の頭を軽く撫で、師匠に自分の気持ちを伝えた。


「師匠、僕は故郷に、母の墓へ行こうと思います。」

「師匠も・・・師匠も一緒に来て欲しい。」


少し悩む師匠に、ラスティはヒョコヒョコと彼女の前に向かう。

そして、彼女が頬杖をする腕に頭を擦り付け声をかける。


「ウチ、ルシアだけじゃ湯あみできない。」


アリシアは少し俯くが、その意志を決め僕に返す。

その表情は優しく、ミーシャが見せた表情にも似ていた。

彼女からは目的地までの道筋について質問が上がる。

僕の知るラトゥールまでの道は1本しかない。

それを伝えると、二人の淑女は眉を顰め、もの言いたげな眼差しを向ける。

僕は腕を組み考えるが、答えは見つからない。

師匠はハッとすると、席を立ち地図を広げた。


「では北上し、海岸へ出よう。」


彼女は、指を地図に置き、そこから海岸まで動かす。

そして、海岸を西へとなぞった。

彼女の話では、その地域は旧ラガッシュ王国領だという。

そこは、以前ファラルドから聞いたライザ達の故郷であり失われた国。

今は、何処の国も介入せず、流民や野盗が跋扈する地域だ。

安全面からは怪しい地域だが、彼女たちは、あの村には行きたくないと目で訴える。

僕達は話をまとめ、旅の準備を始めた。

師匠の新居は、広さのわりに物はない。

何故あそこまで片付かないのかは聞かなかった。

それは、以前ライザに質問を投げ、えらく怒られた事があったからだ。

畑の麦は無駄になりそうだが、師匠は言う。


「無駄はないよ。ただ自然に還るだけだ。それもまた摂理。」


僕は師匠の言葉には納得するも、ラスティとジャレながらでは言葉の重みも違う。

集中力を上げた小猫の爪は鋭い。

ジャラスしように隙しかなかった。

一撃を喰らい、傷を舐める姿は普通の女性にしか見えない。

西の空を紅くする頃、ようやくひと段落。

片付いた家は広く感じた。

食材は持てるモノは背嚢に入れ、残りは夕餉のネタになる。

僕達3人では少し多い量の食事になった。

食事を終え、夜空を見上げるに師匠に紅茶を手渡す。

彼女は空を見上げたまま僕に質問する。


「ルシア・・・消えない記憶か・・・」

「フフッ、何を作ってくれるんだ?」


僕は、空を見上げるアリシアの手を握る

そして、同じように空を見上げ彼女に告げた。


「世界中を見て回ろう。一緒に記憶を作るんだ。」

「忘れられない程、楽しい記憶を沢山作ればいい・・・」

「そうすれば、何処にいても思い出せる。」

「アリシアはどこにいても一人じゃないよ。 僕はずっと一緒だ!」


彼女は、何も言わす僕の手を強く握り返す。

横目に見える彼女の視線は、輝く星空を眺める。

そして、その口元は少し震えている様にも見えた。

静かな星空を1つの光が駆け抜けていく。

ラスティは、アリシアの足に頭を擦り付け彼女に甘えた。

夜は静かに過ぎていき、また日は昇る。

朝の喧嘩は今日も起こり、静かな朝餉は無くなった。

僕達はベットに布をかけ、戸締りをして師匠の家を後にする。



既に雪が舞う時期だ。海から吹き上がる風は肌を刺す。

海岸線は、リヒターの様に彩りは無い。

だた風が強く吹き、波が岩を叩くのみ。

一行は、海岸を西へと進み、内陸へ入って行く。

道は朽ち、薄茶色が広がる世界には何もない。

僕達は、旧帝国領を目指し歩き続ける。

行く先は廃村ばかりだった。

それでも雨風ぐらいはしのげる。

残りの食料も怪しくなった頃、旧帝国領へ入った。

ザルツガルドの山麓を水源とした川がそこにはある。

僕達は川に沿って大陸を西に向かった。

旅路は3か月にして初めて大きな町に着く。

そこは、リーア領と呼ばれる静かな山間の土地。

畑では農民達が豪快に鍬を立てる。

どの農民もその目には生気が溢れていた。

僕には領主と領民の関係が良いように思える。

僕達は町の門をくぐり、酒場へ向かう。

活気はある酒場だが掲示板は逆だった。

金策を諦め、僕達は宿を探し1泊した。

久しぶりのベットは柔らかく、睡魔はすぐに襲い掛かった。

静かな町は、朝日と共に人は動き出す。

陽ざしに誘われるように僕は目を覚ました。

太陽は、既に東の半ばにあったが、淑女たちの起きる気配はない。

僕は、宿の庭を借り、少し遅い朝の鍛錬を始める。

刺す様な風は汗を冷やし、温まった体には心地よく感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ