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12(100).黒エルフ

西側の崖は、谷底に比べ朝が早い。

僕は、女性物の服を大小2着、中世的な服を1着、干し縄に掛ける。

風は、乾燥し衣服を強く叩く。

太陽は低く、日差しは部屋の中まで容易に届いた。

それでも二人の淑女の朝は遅い。

僕は、朝食を作り、師匠とラスティを起こしに向かう。

どうせと思い、ノックせず部屋の扉を開ける。

そこには相変わらずの師匠の姿、そして傍らで丸くなるラスティ。

師匠の寝顔は何処となく笑顔だ。

僕は、以前の様に師匠を揺すり、彼女の起床を促す。

会話にならない会話が続く中、ラスティは起き、毛繕いを始めた。

僕は、ラスティと部屋を後にして、3人分の朝食を作った。

そしてラスティに、師匠を頼み配膳をする。

ラスティが向かってから少し経つと叫び声が聞こえた。


「こら! 痛いじゃないか。 お前はよく咬みつく奴だな!」


僕は、彼女たちのいる部屋に視線を送り、胸をなでおろす。

今日は、早く片付きそうだと。

食事を終え、僕は剣術の鍛錬に外へ出る。

師匠も同じように外に出て、田畑に水を与えていた。

ラスティは、師匠について畑を散歩している。

師匠は、畑仕事を一通り終えると、また不思議な唄を歌いラスティをじゃらす。

そしてまた、師匠の悲鳴が谷に木霊する。


「お前は急なんだよ! 咬みつきすぎだぞ。」


些細ないざこざと平穏の中、僕はミーシャと踊る。

剣を感じ、それをいなす。

そして、軸をずらしつつ、お互いの位置を変える。

ゆっくりと円を描くように僕は移動した。

そこに静かな拍手が聞こえる。


「ラトゥール西部の剣術だな・・・ミーシャ嬢か。」

「良い腕だったのだろうな。」


僕は、師匠の声に反応し頷く。

彼女は、剣を抜きながら、僕に声をかけた。


「私もミーシャ嬢の元を訪れなければな。」

「ルシア、久しぶりに組み打ちしようか。」


師匠は、スモールソードを抜く。

刃渡りは、レイピアより短い。

僕は半身で脇を閉め、剣先を向ける。

彼女は、それに合わせる様に、腕を伸ばし剣先を合わせた。


「では始めようか。」


互い剣先が、互いの剣を絡め取る軌道を描く。

彼女は、ボサボサな髪でだらしない服装だが、その瞳は鋭い。

僕は、誘う様に、ステップを踏む。


「うむ。いいサークリングだ。」

「・・・しかし、まだ甘い。」


師匠は素早く軸を外し、体を沈めた。

僕は、後方に下がり、軸を合わせる。

想定通りの刺突が、僕の腹部を襲う。

僕は、突きを受け入れるように刃を合わせる。

そして、スモールソードの刃にレイピアの刃を一瞬立てる。

流れに逆らわす、刃を戻しつつ、腕を捻りその刃をいなす。

師匠は、体制を変え、僕の追撃を防いだ。

そして僕に声をかける。


「いい動きだ。 またミーシャ嬢に伝えることが増えたよ。」


師匠の口元は緩み、その瞳も明るい。

僕は、今までの成果を伝える様に、脇を閉め二の腕を立てる様にして刃先を向ける。

そして体勢を落とし、遊ばせていた右手で拳を作り強く握りしめた。

その動きに合わせる様に、師匠はスモールソードを鞘に納める。

そして少し半身になり、体勢を沈めた。

それは、師匠の使う技では初めて見る型だ。

僕は、無意識に後ずさった。

その姿に、師匠は不敵な笑みを浮かべ声を飛ばす。


「ルシア、たまには攻めてこい。」

「お前は、守りすぎる。」


僕は、その言葉に応えるように動く。

僕は、師匠を中心に反時計回りで円を描き間合いを詰める。

そして、重心を前足に変え体を沈めた。

その瞬間、師匠の瞳は険しさを増す。

僕は全身のバネを利用し、刺突の体勢に入った。

それを予想していたかの様に師匠は動く。

一瞬抜刀の体勢に入り彼女の肩が若干下がる。

僕は剣の軌道を遮る様に刃を走らせた。

もう体勢を変えることは出来ない。

しかし、師匠は柄から剣を話し、伸びきった剣閃を躱す。

そして鞘が少し前にだたまでは、目で追う事ができた。

しかし、次の瞬間、僕の背中には師匠の刃が止められている。

動作すらわからない斬撃。

それは、魔導士の所業ではなかった。

師匠は、その表情を変え、いたづらな笑顔を向ける。


「ルシア、強くなったな。」

「だが、挑発に乗ってはダメだぞ。」


僕は、まだ届かない実力に悔しさを覚える。

しかし、師匠のこの表情を待ち望んでいた。

僕は、レイピアを鞘へ戻し、師匠に頭を下げる。

彼女は、やさしく頭を軽く撫で声をかけた。


「どうした。 そんなに悔しかったのか?」

「前にも言ったろ、500年は伊達ではないぞ。」


師匠はもう一度、僕の頭を撫で家に戻っていった。

髪はボサボサだが、その背中には師匠然としたモノがある。

彼女が家に消えると、煙突からは煙が上がる。

そして、暫くたつと芳ばしい香りが辺りを包んだ。

僕の足の上には、ラスティが佇む。

強かった風は、その力を抑る。

そして、日の温かさを乗せて僕たちを優しく包んだ。

家の中からは、師匠の呼ぶ声が聞こえる。


「さぁ、昼餉にしよう。」





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