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情報屋からの収穫

……………………


 ──情報屋からの収穫



「で、あんたらは今回はこのマクスウェル候のいちゃもんについて調べに来たの?」


「違う、違う。『黒猫』の仕事について情報を買いに来たんだ」


「へえ。『黒猫』の仕事であたしのところに来るなんて珍しい」


 何でも屋『黒猫』の仕事はそこまで緊迫したものではないから、エルシー姉さんを頼りにすることは少ない。


「どんな仕事の情報をお買い求めで?」


「今度、この人の護衛と観光案内を引き受けるつもりなんだけど、それについて情報がほしい。どんな敵がいるかとか、そういうのね。観光については調べなくていいよ」


 私はそう言ってエルシー姉さんにアルブレヒトさんの情報を渡した。


「ふむふむ。アルブレヒト・フォン・ホーエンシュタウフェン? これはそれなりの有名人じゃないか」


「そーなの?」


「このノーザンドックスを再開発したノーヴェンバー・エンターテイメントの最大の出資者だからね。共和国の方でもホーエンシュタウフェン・グループの会長だ。まあ、要は帝国にも共和国でもVIP待遇の大金持ちだよ」


「へえ。このノーザンドックスの再開発にもかかわってるんだ」


 となると、今回の観光はビジネスを兼ねているのかなと推測。


「この金持ちに敵がいるか言えば大勢いるだろうね。金持ちってのは妬まれ、恨まれするものだから。金銭目当ての誘拐を狙っている輩もいるだろうし、その影響力を排除しようとするライバルもいるだろう」


 敵じゃない人間から数えた方が早いかもなどとエルシー姉さんは言う。


「帝都で襲われるリスクはどれだけあるでしょうか? それから既にアルブレヒトさんが帝都を訪れるということは知られているのですか?」


「帝都でもリスクはあるだろうね。特にノーヴェンバー・エンターテイメントはここの再開発を巡って地元の犯罪組織と揉めてる。未だに恨んでいる連中もいるはずだよ」


「ふむ。犯罪組織ですか」


 ロッティは真面目にエルシー姉さんの話を聞いている。


「そ。いろいろと犯罪組織はいるし、連中は人殺しをためらわない。もっともそこまで危険な連中はオーウェル機関が積極的に排除しているけどね」


「そうそう。犯罪組織絡みの仕事は面倒なんだよね」


「何が面倒なんだよね、だ。あんたは殺さないせいでしょうが。いちいち連中を警察軍が牢屋に叩き込める証拠を集めたりするから」


「犯罪組織の人にだって人権がないわけじゃないし」


 反社というとどう扱ってもいいって人もいるけど、私はそういうのは好きじゃない。


「あんたはちゃんと仕事に金を払ってくれるから嫌いじゃないけどね」


 エルシー姉さんはそう言って、また新しいカクテルを注文した。


「話をアルブレヒトに戻すけど、帝都では他に営利目的の誘拐なんかもある」


「それはお金持ちには必ずあるリスクだね。でさ、アルブレヒトさんが帝都を訪れるって情報はもう流れていた?」


「いいや。まだ流れていないと思うよ。あたしもさっき知ったからね」


「それはいい知らせだ」


 予定が漏洩していなのならば、待ち伏せなどは避けられる。護衛する上でのリスクがひとつ減るというわけだ。


「他に知りたいことは?」


「ああ。そう言えばアルブレヒトさんって共和国の革命前は公爵だったんでしょ? やっぱり偉い貴族だったの?」


「ホーエンシュタウフェンは共和国成立前の王家の血筋だ。ホーエンシュタウフェン公爵というのは王族の一族が名乗る爵位だからね。で、革命起きると王族そろって国外追放になった」


 エルシー姉さんがそう語り始める。


「今も国王一家とその血筋は共和国に入国することすら拒否されている。だが、このアルブレヒトってのは金の力で共和国に戻ったという話を聞いている。それからはさも共和国の大物顔をしてるわけだ」


「貴族は別に追放されていないんだよね」


「貴族も革命に参加していたからね。革命の原因は王族の浪費と植民地での戦争による財政悪化だ。だから、貴族たちにも革命に参加する意味はあった」


「そうなんだ」


養成機関(ファーム)で教わったはずだよ。さては、あんた寝てたね?」


「どうでしょー?」


 うーん。養成機関(ファーム)の座学が言語以外あまり記憶にない。


「やれやれ。帝国最強の暗殺者様も随分とずさんなもんだね。で、アルブレヒトだけど追放から戻ってからはいろいろとスキャンダルが多い。人間関係や問題発言やらでね」


「スキャンダル?」


「政治家の妻との不倫だよ。この御仁は随分なプレイボーイで知られてて、女性関係のスキャンダルが山ほどある。特に人妻が好きらしい」


「へえ。それはまた難儀な人だ」


「私も人妻なら、金持ちと付き合えたのになあ」


「ははは。ナイスジョークだね」


 呆れたようにエルシー姉さんが言い、私も肩をすくめた。


「後は公爵位請求者って立場から物申すところかね。共和国には未だに王党派政党というのがある。その政党の支持者であり、共和制を否定した発言をしてる。当然、共和国にしては面白くない」


「共和国の公安機関にマークされてもおかしくないですね」


「事実、ある程度は見張られてるだろうね」


 ロッティもだんだんアルブレヒトという人を疑問視し始めているようだ。


「ま、こんなところだね。他に知りたいことはある?」


「大丈夫。ある程度は分かった。その上でお願いだけど」


「ああ。動きそうな犯罪組織をマークしておいてくれってところかい?」


「そ! よろしくお願いできるエルシー姉さん?」


 動きそうな犯罪組織を事前にマークできていれば、護衛もやりやすくる。


「分かった。調べておいてあげるよ。その代わり報酬は弾んどくれ」


「オーケー。けど、あんまりお酒ばっかり飲むのはやめなよ。体に悪いよ」


「はん。子供に言われる筋合いはないよ」


 もう、エルシー姉さんはいつもお酒飲んでるんだから。絶対にγ-GTPの値やら何やらは酷い数字になっているはずだ。


「じゃあ、そろそろ帰るね。情報が入ったら『黒猫』までよろしく!」


「あいよ。気を付けて帰りなよ」


 そして、私たちはエルシー姉さんに別れを告げて、ノーザンドックスを出る。


「もし、アルブレヒトさんが帝都で殺害されるようなことがあれば、帝国と共和国の間の外交問題になりかねません。今回の仕事はオーウェル機関の任務と同等として扱うべきであると進言します」


「いつだって私は真剣に依頼を果たしているよ。どんな依頼も困っている人がいて、大事なものだからね」


「しかし、下着泥棒と捕まえると今回の任務ではやはり」


「違わない。どっちも重要だよ。比較してどちらかを軽く見るなんてことはしたくないし、重要じゃないから手を抜くこともしたくない」


「ふむ……」


 私の言葉にロッティは少し考えているようだ。


 私は自分たちに頼まれたことは下着泥棒の逮捕だろうと、迷い犬探しだろうと、あるいは大金持ちの護衛であろうと、どれも重要であると思っている。


「そうですね。常に緊張感を持ってことに当たらなければ、いつ不意を打たれるのか分からないですからね」


「そういう意味じゃないんだけど……。ま、いっか」


 そして私とロッティは『黒猫』の社屋に帰宅。


「エルシーには会えたか?」


「うん。会えたよ、先生。相変わらず酔っぱらってたけど」


「本当に相変わらずだな」


 私がエルシー姉さんのことを報告するのに、リーヴァイ先生は肩をすくめた。


「しかし、情報は手に入ったのだろう。よければ俺にも共有させてくれ。いざという場合は援護に回るからな」


「了解。後でエルシー姉さんがアルブレヒトさんを害するかもしれない犯罪組織について詳しい情報を持って来てくれるはずだから、その前にアルブレヒトさんについて情報を共有しておくとしましょう!」


 私はエルシー姉さんから得た情報をリーヴァイ先生と共有。


「ふむ。いろいろと個性的な人間だな。しかし、依頼である以上は客だ。ちゃんともてなしてやるとしよう」


「うんうん。帝都へようこそ、ってね!」


……………………

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