お屋敷ストラグル
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──お屋敷ストラグル
私とロッティは馬車に飛び乗ってロアーキッチン地区からマクスウェル候の屋敷があるツインゲート地区を目指す。
「飛ばすよ! 急がないとどうなるのか分からないから!」
「ええ。最大速力で行きましょう!」
私は馬を走らせ、全速力で通りを駆け抜ける。
馬車はロアーキッチン地区を瞬く間に抜けて、次の地区に入り、そして急速にツインゲート地区に近づいた。
『ルーシィ。マクスウェル候を監視している連中によれば、まだ何の動きもないそうだ。だが、なるべく急いでくれ。情報が正しいならことは一刻を争う。俺もそちらに急いで合流する』
「了解、先生!」
ツインゲート地区に滑り込むようにして私とロッティを乗せた馬車が入り、そのままマクスウェル候の屋敷を目指す。
「あの屋敷ですよ、ルーシィ!」
「オーケー! このまま突っ込むよ! 準備して!」
「了解!」
私は馬車をマクスウェル候の屋敷に向けて走らせ、ロッティは刻印を光らせたのちに刀を抜いて構えた。
「そこの馬車! 止まれ!」
『ルーシィ。マクスウェル候の屋敷の警備はアーチャー・インターナショナルの連中だ。そいつらには攻撃許可が下りている。好きにしていい』
私たちの馬車を止めようとマスケット銃で武装した男たちが出てくるのに、リーヴァイ先生からそう連絡が入ってきた。
「ロッティ! 殺さないように無力化して!」
「努力します」
ロッティは馬車から身を乗り出し、刀を構え、そして振るった。
「うおっ!?」
「気を付けろ! 敵は刻印持ちだ!」
男たちが装備していたマスケット銃──エンフォーサー小銃の銃身が切断され、男たちは慌てて逃げ出した。
「ナイスだ、ロッティ。さあ、いよいよお屋敷に突入だよ!」
「次はゲートを切断しますので、そのまま!」
「りょーかい!」
ロッティは次にゲートに向けて斬撃を放ち、お屋敷のゲートが切断される。その切断されたゲートを私たちは馬車で突破!
「オーケー! 今のところ、敵の抵抗は軽微だ! このまま踏み込むよ! ──武装」
私は刻印の力でソードオフショットガンを召喚し、ゴム弾ではなく、一発弾を装填。
「お邪魔します!」
それによって正面扉のカギを吹っ飛ばし、扉を蹴り破って突入。
「侵入者だ!」
「応戦しろ、野郎ども!」
私たちの侵入を受けて、屋敷の中のあちこちから傭兵たちが次々に現れて行く手を塞ぐ。手にはエンフォーサー小銃を握り、私たちに向けて銃口を向けてきた。
「これでもまだ誰も殺しませんか!?」
「殺さないよ!」
私は再び武装の刻印を使い、今度は使い慣れたコルト・ガバメントを召喚して構える。それから可能な限り正確に、自分にもっとも脅威となる目標に向けて引き金を引く。
「ぐあ──っ!」
「クソ! 撃て、撃て! 殺してもいい!」
エンフォーサー小銃が大砲みたいな銃声を響かせて火を噴く。
「ルーシィ! 危ないですよ!」
「だーいじょうぶ! 任せておいて! ロッティは敵の武器を無力化してね!」
ロッティはすぐさま遮蔽物に飛び込むが、私はマスケット銃の精度の悪さを信じて攻撃を続ける。引き金を引き、45口径のゴム弾を傭兵たちに叩き込む。
そう、今は守っていては追い込まれる。恐れず攻めることが重要だ!
「分かりました。援護します!」
ロッティも攻撃に加わり、エンフォーサー小銃の銃身をぶった切っていく。ロッティの能力は彼女が思っている以上に、敵を殺傷することなく無力化できるいい能力だ。
「に、逃げろ! こんなのやってられねえ!」
「待て! 逃げるな、臆病者!」
武器を失った傭兵たちは遁走を始め、次第に戦列が瓦解していく。
「このまま踏み込むよ、ロッティ! 援護よろしく!」
「無理しないでくださいね!」
私が先陣を切って突入していき、ロッティが後ろから続いた。
屋敷の中にバリケードが作られ、傭兵たちが立て籠もり、そこから発砲してくる。私たちも遮蔽物を利用しながら、確実に傭兵たちを無力化して押し進む。今は圧力をかけ続ければ敵が崩れる状態だ。
「来たぞ! 起動しろ!」
と、思っていたのだが、どうやて敵にも手はあったようだ。
「あれは……」
「ゴーレム……!?」
灰色に塗装された人型の機械。大きさは成人男性1.5人分ほどで、左手には巨大な火砲を、右手には鋭い刀剣を装備している。
これはゴーレムだ!
いわゆる魔術で生み出された魔道兵器であり、軍隊の中でも一部の部隊しか装備していないような代物である。
地球で言うならば武装した無人地上車両に相当するものと、普通に人間が乗り込んで操作する戦車のようなものが存在する。いずれも強力な火力と分厚い装甲に守られた厄介な兵器だ。
「とりあえず遮蔽物へ!」
「はい!」
私とロッティは素早く近くにあった部屋に飛び込む。
「吹っ飛ばせ!」
同時にゴーレムの火砲が火を噴き、屋敷の調度品や壁が叩き壊される轟音が響いた。火砲はどういう仕組みか連続して放たれ、砲声が何度も響き渡る。
「さてさて。ゴーレムは以前にもやり合ったことがある。ロッティは?」
「ありません。これが初めてです」
「では、私の言うとおりに行動して。舐めてかかれる相手じゃないよ」
「了解です」
ゴーレムは当然ゴム弾なんか効かないので実弾を使用する必要がある。それもゴーレムを完全に無力化しようと思ったら、威力の低い拳銃弾ではなく、貫通力の高いライフル弾が必要だ。大口径ライフル弾なら文句なし。
「武装」
私はコルト・ガバメントを腰のベルトに差し、刻印の力で新しい武器を呼び出す。
「じゃーん。対物狙撃銃!」
様々なメディアに登場していることでミリタリーにそこまで詳しくない私でも知っている有名な大口径狙撃銃──バレットM82だ。
「それは?」
「口径12.7ミリNATO弾を使用する凄い威力の狙撃銃だよ。前に確かめたけど、これならゴーレムの装甲を貫けた。よってこれで相手のゴーレムを撃破しようと思う」
以前、ゴーレムとやりあったのはゴールドフリートというマフィアを相手にした時だ。その時はコルト・ガバメントの拳銃弾は容易に弾かれ、他の小銃弾を次々に弾かれてしまい、最終的にこのバレットM82を使って撃破した。
ロケットランチャーを使えばもっと簡単に撃破できるのかもしれないけど、ロケットランチャーの爆発に人が巻き込まれると困る。
「これは確かに強い武器なんだけど、使用するのは実弾だし、狙うのも正確に狙わないといけないしで隙が多い。だから、そこをロッティには援護してもらいたいんだけど、できるかな?」
「私が直接ゴーレムを叩くというのは?」
「恐らく刻印の直接影響を阻害する魔術阻害装甲を装備してるから無理だと思うよ」
「厄介ですね……」
魔術阻害装甲は厄介な代物だ。ロッティのような刻印の力で対象を引き裂くというようなダイレクトな影響を阻害して無力化してしまう。
だが、私が刻印で武器を生み出し、純粋な化学エネルギーで生じた銃弾の運動エネルギーをぶつけるのは有効だ。だから、以前の戦闘でも同じようなゴーレムを私は撃破することができたわけで。
「3カウントで仕掛けよう。間違っても私の射線には出ないでね」
「了解です。可能な限り援護します」
「よろしく! では、3カウント!」
私はバレットM82をしっかりと抱え、ロッティはいつでも部屋から飛び出せるように身
構える。部屋の外からは男たちの警戒する声が聞こえ、さらにはゴーレムの駆動音も聞こえた。
「3──2──1──ゴー!」
まず私が滑るようにして身を乗り出し、バレットM82を構える。そして、装着された光学照準器を覗き込んで、ゴーレムを捉えると引き金を引いた。
ガン、と激しい衝撃を受けたゴーレムがよろめき、私はさらに銃弾を叩き込む。
「援護します」
ロッティも私を援護する位置に進出し、ゴーレムに随伴している男たちの装備しているエンフォーサー小銃や先込め式ピストルを切断し、彼らを無力化した。
「オーケー。トドメだ。くたばれ!」
3発、4発の大口径ライフル弾を叩き込み、ついに──。
「ゴ、ゴーレムが!」
ゴーレムがよろめいて地面に倒れ込み、もう起き上がらない。
「撃破!」
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