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内務省事務次官

……………………


 ──内務省事務次官



 私たちはオーウェル機関が寄越した増援とともにヴィリアーズ伯を見張ることに。


 その監視の現場にやってきたのはデイヴィットさんだった。


「よう、お嬢さん方。いい情報が入ってるよ」


「何々?」


 私がデイヴィットさんが言うのにそう尋ねる。


「ヴィリアーズ伯について調査したが、こいつは浮気をしている。それもお相手も既婚者で、結構な身分の奥方様だ。あのホテルには最初はそういう目的で通っていたらしい。使えそうだろう?」


「まさに。ヴィリアーズ伯には何としてもマクスウェル候との関係について聞き出さなくちゃいけないから。こちらからも使えるネタがあれば使おう」


「オーケー。じゃあ、後は頑張ってな」


 デイヴィットさんは私たちに情報の書類を渡すと立ち去った。


「フィルビー大佐は娼婦に入れ込み、ヴィリアーズ伯は既婚者と浮気。帝国の責任ある立場の人間からモラルというものは消えてしまったのでしょうか?」


「ロッティは大げさだなあ。浮気ぐらいでそんな国の終わりみたい言わないでよ。結局は個人の相性の問題なんだらか、いつの時代でも、どんな統治体制でも、浮気ぐらいは普通に起きるよ」


「ですが、こういう小さなモラルの崩壊が……」


 ロッティは何か言いたそうだったが、今はこんなことで議論をしている場合ではないと口をつぐんだ。


 現在オーウェル機関から動員された工作員が私たちを含めて常に8名で監視している。これらの工作員は2名1組でチームを組み、ローテーションで監視を行っており、常に何かしらの監視の目がヴィリアーズ伯を見張っていた。


『ルーシィ、ロッティ。ヴィリアーズ伯が動いた。人気のない場所に向かっている。内務省の監視もない場所だ。確保しろ』


「了解。ロッティ、ヴィリアーズ伯を拘束するよ」


 私たちはリーヴァイ先生の合図で行動を開始。


『現在、ヴィリアーズ伯は内務省庁舎を出ようとしている。向かう先はレストランだ。レストランに入る前に押さえろ』


 内務省のあるライオンズホール地区のレストランにヴィリアーズ伯は向かっている。


 私たちは馬車で移動し、通りを進んでいるヴィリアーズ伯に接近。


「準備は?」


「オーケーです」


「では、やろう」


 私たちはヴィリアーズ伯の前方に馬車を止めてから馬車を降りた。後方からはオーウェル機関から派遣されている別の工作員が近づいている。


「失礼。ジョージ・ヴィリアーズ伯ですか?」


「そうだが。何だね、君たちは……?」


 ヴィリアーズ伯は事務次官に相応しい立派なスーツを身に着けていた壮年の男性だ。彼は私たちを見て怪訝そうな態度を取った。


「内務省のものです。御同行願います」


「何だと。そ、そんなことは聞いてない」


「下手に抵抗されない方がいいですよ。私の相棒(バディ)は気が短いですから」


 私がそう言う横でロッティが刻印を光らせ、刀を抜いた。


「わ、分かった。同行する……」


 ヴィリアーズ伯を確保。彼を馬車に乗せて、私たちはオーウェル機関が有する帝都内の施設まで護送した。施設はロアーキッチン地区にあり、普段は寂れて客がいない食堂に偽装されている。


 そこでヴィリアーズ伯を下ろし、地下室に案内した。


「ヴィリアーズ伯。あなたはフィルビー大佐を脅迫していましたね?」


「……どこまで調べはついているのだろうか?」


 ヴィリアーズ伯は観念した様子でそう尋ね返した。


「フィルビー大佐が脅迫されて国家保衛局の情報を盗んでいたこと。フィルビー大佐と接触していた傭兵があなたに雇われていたこと。あなたがマクスウェル候と接点があるということ。少なくともこれらについては断言できます」


「そこまで分かっているのに私にまだ聞くことが?」


「ええ。マクスウェル候には脅されているのですか?」


 私は問いを繰り返すヴィリアーズ伯にそう尋ねる。


「ああ。脅されている。私が既婚者と不倫していることをネタにして。私の不倫のことがばれれば私の首が飛ぶのはもちろんとして帝国議会議員2名の政治生命が終わりか、終わったも同然になる」


「なるほど。それで国家保衛局の情報をマクスウェル候に渡していたのですね」


「そうだ。どうして彼が国家保衛局の情報を求めているかは知らない。だが、彼は私を脅迫し、情報を盗むよう強要した。だから、私はフィルビー大佐を使って国家保衛局の情報を漏洩させたのだ」


 それからヴィリアーズ伯はどのようにして情報をやり取りしたかを自白し、それがオーウェル機関が事前に調べおいた内容と一致することが確認された。彼は嘘をついてるわけではない。


「そのことを法廷で証言してくれますか?」


「法廷で証言? この手のスパイ行為を働いた人間が法廷に立つ権利を与えてもらえるとは知らなかった。少なくとも私は私のような卑劣なスパイが、法廷で争うこともなく消されているのを知っている」


「権利はもちろんあります。我々は法治国家です。スパイであろうと法廷で戦うことはできるし、そもそもあなたもまた脅迫されて使われた人間のひとりに過ぎない」


「ありがたい限りだが、君たちの狙いはマクスウェル候の排除か?」


「彼を拘束し、法廷で裁きを受けてもらいます。それだけです」


「それならば協力できないことはないが……」


 そう言ってヴィリアーズ伯は考え込んだ。


「急いだ方がいいかもしれない。マクスウェル候は次の接触日を指定しなかった。取引はもう終わりだというように。私が最後に渡した情報を持って、どこかに逃亡する可能性がある」


「最後に渡した情報は?」


「……国家保衛局の潜入捜査官の情報だ」


「それは不味い」


 これまではまだ人が死ぬような情報は漏れていなかった。だが、潜入捜査官の情報が洩れれば、いよいよ人が殺される事態になってしまう。


 どんな組織でも潜入捜査官は敵視している。潜入捜査官の仕事は死と隣り合わせであり、大きなリスクを背負って行動しているのだ。


 彼らの名前や顔が彼らが潜入している犯罪組織の人間に知られれば、間違いなく裏切り者として報復を受け、惨殺されてしまう!


「急いで阻止しないと!」


 私は一度ヴィリアーズ伯を収容している地下室から出る。


「先生。マクスウェル候がヴィリアーズ伯から渡された情報が分かったよ。国家保衛局の潜入捜査官の情報だって。急いでマクスウェル候を拘束しないと、この情報が洩れたら大変なことになっちゃう」


『了解した。マクスウェル候の屋敷に踏み込む許可を申請する』


 リーヴァイ先生に連絡し、応援に来ていたオーウェル機関の工作員にはヴィリアーズ伯をブラックサイトに移送させる。


「ルーシィ。潜入捜査官の情報が漏洩したら大勢が死にます。私たちで阻止できるでしょうか……?」


「阻止するんだよ。何としてもね」


 しかし、分からないのはマクスウェル候がどうして潜入捜査官の情報などを求めたのかだ。首相経験者でもあり、保守党の重鎮である彼がこのような危険な情報を漏洩させることにどんな意味を持っているのだろうか?


 それが分からない。


 もしかしたら、オーウェル機関の工作員の情報が手に入るとでも思ったのだろうか? そして、それで私のことを知ろうとした?


 いや。スパイ行為はラッセル伯の事件の前から起きている。ラッセル伯の事件が原因というわけではない。


 そうなると理由がさっぱりだ。マクスウェル候が政治生命どころか、自分の人生を棒に振るリスクを冒してまでスパイ行為をする理由が分からない。


 政治的な思想だとしても、彼は保守党に属し、長年そこで政治家として活動してきた。今やその保守党の有力者にもなっており、さらに言えば保守党は与党だ。反政府的な活動に従事する理由もないと思う。


「うーん。理由がさっぱり分からない」


「動機は拘束してから聞けばいいんですよ。今はマクスウェル候の拘束に専念を」


「そうだね。いくら考えても妄想の域を出ない」


 ロッティの言葉に私は頷く。


『ルーシィ、ロッティ。許可が下りた。マクスウェル候の屋敷に踏み込み、マクスウェル候を拘束、また排除しろ』


……………………

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