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9話 冒険者資格試験

  





 第一講義室。そこは机と椅子が並ぶ講義をする為に用意された部屋だった。

 暁の元の世界にあった講義室と比べてみると、木材や石材が多く使われている事を除けば遜色(そんしょく)無く見える。


 暁が中に入ると、数人ほど席に座っており、どれも暁と同い年くらいの若者だった。

 冒険者と言う職業柄、男性が多いイメージをしがちだが思ったより女性が多い、いやむしろ女性の方が多かった。 その女性たちの殆ど(ほとんど)が杖を持っている事から、魔術師なのだろう。


『アカツキ、すごいよあの子』


 暁の影が少し揺らめくと、メアが念話で感嘆の声を上げた。


ーーメア、誰の事?


 彼がの視界には“すごい”と思える人は見えなかった、


『違うよアカツキ、見た目じゃない、“魔力”さ』


ーー魔力?


『修行の成果を見せて?』



ーーあぁ


 暁は自身のうちに宿る魔力を意識する、これは魔力を操る為の訓練として彼が毎日してきた事であり、これをすると(おぼろ)げにだが周りの魔力を感じられようになるのだ。


「、、、、、、、、ぇ」

『ね、言ったろ?』


 確かに凄かった、この部屋にいる複数の魔術師はそれぞれが確かな魔力を持っていると感じた、だがその中で1人、頭一つ抜けて魔力を持った人物が居たのだ。

 その人物は暁に対し背中を向けている為、顔は見えないが深い青色の髪は腰まで伸びていてとても美しい。


ーー髪の手入れは欠かさないのだろうな、


 そんな事を思っていると第一講義室の扉が開き人が入ってくる。その人物は2人いて、1人は右腕が肘から無い筋骨隆々な大男、もう1人は白いローブを身に纏い左目に眼帯をした聖職者のような女性だった。


 2人のうち、大男の方がそのまま壇上へ上がり話し始めた。


「俺は元A級冒険者ダングステンだ、今からお前たちには俺の試験を受けてもらう、頑張れよ」


「はっ?A級冒険者!?」「ダングステンて、あの有名なっ」「『重硬』のダングステン、、」


 彼の肩書きや名前を聞いただけで部屋の中が騒がしくなる。もちろん暁は知らないがA級冒険者とは冒険者のほぼ頂点と言える位であり、元A級であっても、その肩書きの価値は然程変わりは無い。


ーーA級冒険者か、、、、でも


 暁は目の前のA級冒険者を見て思った「師匠の方が強いな」っと、



 

 ここは鍛錬場、普段は新米冒険者や中堅冒険者で賑わう修練の場であるが、今はある試験が行われていた。


「さぁ!臆するなっ、かかって来い!!」


 まるで猛獣のように吠えるこの男の名はダングステン、この試験の試験官だ。

 

 この猛獣のような男に対するは暁と同じ位の体格の青年だった。


 この試験の内容はダングステンとの1対1の戦闘。元とはいえA級冒険者と戦おうと言うのだ。彼にかかるプレッシャーと恐怖は測り知れない。



「っお、仕掛けた!」


 彼は最初、様子見に徹していたのだが(つい)に仕掛ける。

 その手には実践(じっせん)と同じように使える直剣が握られている。

 そして彼は直線軌道で一気に近づき、手に持った直剣を横薙ぎに振るう。すると「ーーガツンッ」と金属音が鳴り響いた、これはお互いの剣を打ち合わせた結果だったが、剣と剣での押し合いでは明らかに不利であり、青年は押し負けて5メートル程吹き飛ばされてしまった。


「合格っ、次だ!」


 たった数秒の出来事だった。勇気を胸に突撃して行った彼は真っ向から立ち向かい見事に散った。その実力差は圧倒的であり、勝てるはずもなった。


 だが試験官のダングステンはたった今吹き飛ばした相手を合格にした。

 この事実に先ほどまで絶望していた他の連中が息を吹き返す、「これ負けても大丈夫じゃね?」と、もちろん落ちる者もいるだろう、ただ負けても実力を認められれば問題ないだけであって、結局は実力を測っているのだから。

 それからは流れ作業の用に向かっては倒され、向かっては倒されを繰り返すようになった、落ちるものは落ち、受かるものは受かる。暁の順番もついに回って来る。


 ちなみにだが今回に限らず“勇者の剣”は使えない。これはシュウバからの指示であり、彼が言うにはその剣を使うと素の力量を鍛える事ができないから。と言う事だった。



『もうアカツキの番か、思ったより早かったね』


ーーうん


『1人で勝てるかい?力を貸そうか』


ーーメアの実力は未知数だ、今のうちに試すのもアリかもしれない、、、、なら少しだけ



「さぁ次だ!」


 ついに暁が呼ばれる。

 今この鍛錬場に近接戦の得意な冒険者は暁しか残っていない、後は魔術師などの後衛だった。

 ちなみに後衛であってもこの試験は逃れられないようだった、暁の次に試験を受けるだろう人は明らかに顔色が悪い。


「はい、今行きます」


 

 暁はダングステンに呼ばれ歩みを進める、

ーーティフォン師匠に教わった魔法の中で今の状況に使えそうなものはなんだ?


 彼は歩きながら考える、ここ数日の魔法の鍛錬による成果は暁にいくつかの魔法を覚えさせた。

 その殆どが彼の特殊体質のせいで台無しになってはいるが、そこはうまく工夫するしかない。


「ダングステンさん、よろしくお願いします」


 手短に挨拶を済ました暁はそのままの流れで構えを取る、直剣を持つ右手を前に前傾姿勢を保つこの構えは彼の我流だ。


「、、、、、、、、奇抜な構えだが、それなりに洗練(せんれん)されて見える。ハッ面白い、お前の剣を俺に見せてみろ!」

「、、、、、、、、」


 暁の独特な構えにダングステンは興奮しているようだが、暁はそれに一切反応せず動きだす。

 右へ左へ、相手の隙を探すように一定の距離を保ちながら走る。


ーー相手をよく見ろ。

 格上のA級冒険者、正面からでは勝ち目は薄いだろう、だが多少は油断している筈。


 

 数秒様子見した後、彼は素早く駆けるとダングステンの喉元へ剣を挿し込む。その動きは単調で直線的だった。



「、、、、、、、、っ甘い!」


 流石は元A級冒険者、暁の鋭い突きは見事に弾かれていた、、、、、、、、だが


ーー“想定内”だ。


「、、、、、、、、なっ」


 ダングステンは驚いた。

 だがそれもそうだろう、暁は自分の攻撃が弾かれた直後、その手の力を緩めそのまま得物を手放したのだ。

 ダングステンの目線の先に1本の直剣がクルクルと宙を舞う、そんな得物を捨てる判断は彼にとっては“想定外”であって、たった一瞬だせ暁から視線を外してしまった、、、、、、、、故に。


黒鍵(くろかぎ)


 メアが唱えたこの魔法は、不意を突くため詠唱こそしていないものの、最低限剣としての本懐(ほんかい)は果たせるだろう。

 


ーー決めるっ  


 ダングステンの不意を突いた暁の渾身(コンシン)の一撃は確かに彼の体に当たりーーその硬さに弾かれた。


「直線的な動きで油断を誘い、搦手(絡めて)で仕止める。いい作戦だったぞ、俺には効かなかったけどな」



 ダングステンの二つ名は『重硬』その名の示す通り彼の体は重くて硬い。


ーー魔力?それとも特殊体質なのか?、、、、


 原理は分からないが、途轍(とてつ)もない硬さと重さ、魔物の鋭い牙や名工の鍛えた刀剣ですら薄皮一枚も切ることは出来ない。これがダングステンの重硬たる由縁だった。



 そんなダングステンが余裕の笑みで暁を見据え言う、


「一応合格ラインは既に超えているがどうする?まだやるか?」


 この言い方は明らかな挑発だった、彼も一線を退いたとは言え一端の冒険者、血が騒いだのだろう「こいつとヤリ合うのは楽しい」と。


『、、、、諦めるの?』

ーー現状、手が無いわけではないけど流石に相性が悪い、それにこれは“命のやり取り”じゃないんだからな?

『それもそうね』


 

 「参りました」と口にしようとダングステンの方を見ると、聖職者のような白いローブ纏う女性が彼の直ぐ背後まで来ていた。


ーーあの人は確かダングステンさんと一緒に居た人だった筈。


「おいダン、これ以上怪我人を増やすな、治すのが大変だっつーの」


 左目は黒い眼帯、右目は切れ長で薄い青色の瞳、腰まで伸ばした黄金色の髪はとても美しい。だが意外にも、その言葉遣いは悪かった。


「、、、、、、、、何言ってんだヘレス、お前なら大丈夫だ、仮にも現役のA級冒険者だろ」

「私は歴が短くて手馴れてないからね、一人一人時間かかるって言ってんの!」


 

 言い合う2人だが険悪な感じはしない、むしろ仲が良いのだろう。



「、、、、、、、、って事だから、あんたは合格。次の人もいるからさっさと()けな」

「あ、はい」


 暁は有無を言わさぬ圧力を感じて、気付いたら返事をしていたのだったーー。



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