表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

5話 影に潜む少女

     





 “囲まれた”そう思った時に、死の一文字が脳裏を過ぎる。

 鬱蒼(うっそう)と茂る森の中、複数の狼に四方八方を囲まれた暁は今にも襲われようとしていた。



ーー逃げ場なんてないんだが!?!?


 

 鋭い爪と牙が近づいてくる、その殺傷力は暁の肉を抉り骨を折るだろう。

 逃げ場の無い状況に一瞬、走馬灯が流れかけたが諦めるわけにはいかない。

 

「ーー諦めるかよ」

 

 一か八かで暁は跳ぶ、狼の攻撃をギリギリで避け、頭上の木の枝に着地した。ほっと胸を撫で下ろすが彼は直ぐに驚愕する事になった。その目に映るは空を跳び迫り来る狼の姿。彼同様に木の枝に跳び映って追いかけてきていた。

 暁は枝と枝を跳び回るように逃げる、その直ぐ後ろには上にも下にも狼の群れで溢れている。


「はっ!?、、、、、、、、っ」


 不運にも暁の踏んだ枝はへし折れる。よく考えれば当たり前だったろう、今まで折れなかった方が不思議なくらいだ。


「痛っ、、、、、、、、、、、、ぁ」


 地面に不時着した暁に受け身を取る余裕は無かったーー地面に叩きつけられ強烈な痛みを感じる。

 寝ている暇は無い、急いで立ち上がろうと顔を上げたが遅かった。


「ーーっぐぁあああああああああ!!」


 背中に突き刺さる鋭い爪、初めて感じる強烈な痛みに絶叫する。頭がチカチカし、流れ落ちる熱い血に命が失われる感覚がして恐怖する。


ーー痛いイタイいたいイタイイタイ痛いぃい!!

死ねない、死ねない死にたく無い嫌だいやだイヤダイヤダ嫌だぁああああ!!


 絶望の淵で彼は慟哭(どうこく)する、力いっぱい手足を動かし、どうにか逃げ出そうとするが狼の爪が彼を縫い(ぬい)止める。どんなに抵抗しても痛みは増えて行く一方で、全身を齧られ(かじられ)流れ落ちる血は抵抗する気力を奪いとって行く。


ーーこんな所で死ねない、茜にまた会いたい。俺に力があれば、力さえあればっ、、



 そんな彼の願いは虚しく、命の灯火(ともしび)は薄れて行く。徐々に薄れて行く意識の中で”それは聞こえた”


『どうやら危機的状況ってやつみたいだね君』


 直後、暁の影が蠢く(うごめく)と彼を包み込んだ。その影は深く先を見通せない程に暗い深淵であった。


『ありゃ、気を失ってるねこれは』


 その声は少女の声で暁の影から聞こえてくる、喋る度に影は蠢き、大きく広くなっていった。


『まぁ、後のことは任せてね』


 そう言って彼女は詠唱する。


「ーー『昏昏、昏昏、(こんこん、こんこん、)宵闇ヨ(よいやみよ)』『薄暮冥々(はくぼめいめい)幽幻の如く(ゆうげんのごとく)』ーー」


 彼女の詠唱はどことなく不気味で、それに反応するように影は揺らめく。



「ーー『斜影よ穿て(しゃえいようがて)』ーー《影魔法・濡烏(ぬれがらす)》ーー」


 蠢く影は烏の群れになった。その烏の色は黒より尚黒い漆黒で、周りを囲むヴォルフの群れへと向かって行く。

 その(くちばし)は槍のようであり、瞬く間に奴らを蹂躙(じゅうりん)しその贓物(ぞうぶつ)を喰らう。だが飢える烏の群は止まらない、その雑食性を表すかのように近辺にいる全ての魔物を喰らい尽くしたのだった。








『ーーここはどこだ?』


 暁が目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だったどんなに目を凝らしても見通す事は出来ない。

 匂いもなく音もない空間に自然と恐怖を感じる。


『何を怖がっているの?ここは影の中だ。敵はいないよ』


 ふと声が聞こえたが、その姿は暗闇に紛れ見てない。


『ーーお前は誰だ?』


 っと暗闇に呼びかける。


『私?それは私にも分からないかな。ただ人間達の中ではこう呼ばれてた時時もあった“影に潜む者”ってね」


 「成る程、良く分からない」これが暁の感想だった。

 さっきの狼の群れと言いこんな空間と言い、何となく彼も勘付いていたが、今の言葉の中にあった魔力という単語から確信へと至る。


『ーー“影に潜む者”の事はいまいち分からないけど、この世界があの異世界ってのだけは分かった』

『へぇ〜異界人か、気づかなかったよ。普通は直ぐに分かるんだけどね』


 この女性の形をした影は、暁と同じ異世界から来る存在の事も知っているらしい。


『まぁ、それはさておきさ。そろそろ”本題”といこうか』

『ーー本題?』

『まぁ、そう身構える事はないよ。これは取引であり制約でもあり、私と君の契約なのだから』


 そう言いった直後、真っ暗な空間に光が見え始める。

 その小さな光は文字となり文章を構成する。そこには、



『これは、契約書か?』

『まぁね、気に入ってもらえたかな?」



 そこに書かれていた事は3つある。


 1つ目は魔力の供給についてーー彼女は魔力を糧に生きているというし当たり前だろう。


 2つ目はその見返りについてーー定期的に貰う魔力とは別に魔力を吸わせる事で、それに見合ったサポートをしてくれる。

 

 3つ目は契約の期限についてーー基本的には、どちらかが死ぬまでが期限になっている。




暁は契約書を見ながら、

『ーーなぁ、1つ聞いておきたいんだが、そもそもお前は何が出来る?』

『大体のこと事はできるよ。私は長い時を生きていてそれなりの知識を持っているし、攻撃も守りも回復も、索敵だって出来る。それがちょっとの魔力を払うだけで仲間になるんだ、お買い得だろ?』


 暁はこの世界の事を何も知らない。さっきの狼の様な敵が出て来た時、戦う力の無い彼には辛い事だろう。いつ死んでもおかしく無い。

 茜にもう一度会う為にも、戦う力は喉から手が出るほど欲しい。


ーー元の世界に帰る為茜に会う為だ。だから、


『ーー分かった、お前と契約しよう。俺は俺の目的の為にお前を利用する、だからお前の力を貸せ』

『もちろんだよ、私も私の目的の為に君を利用するんだ、いくらでも力を貸そうーー』


 彼は再会の為に、彼女は生きる為に、お互いがお互いの目的の為に利用し合う。そしてここに契約は成立する。あとは、、、、

 


『ーーさて、私と君の魔法的な契約もしようか』

『魔法的な?』

『うん、魔力の供給路を作らないとだからね。さぁ始めるよう』


 そう言って、彼女は詠唱を始める。それは世間一般で言う契約の魔法とは似ても似つかない呪いの魔法。


「ーー『昏昏、昏昏、(こんこん、こんこん、)宵闇ヨ(よいやみよ)』『逢魔時ノ(おうまがときの)(まにまに)』ーー」


 黒一色の空間に更になお深い漆黒の何かが生まれ揺れる波の様に広がって行く。


「ーー『我と汝を結ぶ呪と成れ』《宵闇ノ契り(よいやみのちぎり)》ーー」


 この魔法により現れし漆黒は影であり闇でもある。その両方の性質を持つこの魔法は、暁と彼女の間には良く言えば魔法的な繋がり、悪く言えばお互いを縛り合う呪いを付与した。その証拠に漆黒の何かは2人の体に染み込んでいき首筋に黒い痣を残す。痣には模様があったが滲んで良く分からなくなっていた。



『お前名は?』

『名は遥か昔に捨てたさ、強いて言うなら”影に潜む者”とでも呼んでくれよ』


 長い時を生きる彼女は名を捨てたと言う、


ーーそれは色々と面倒だ


 今後とも長く共に生活するのなら呼称は必要、彼はそう考えたのだろうか。


『なら、俺が名前をつけてやる』

『いや、余計なお世話だよ?』


 暁は目を閉じ考えている、それを見ている彼女からは何とも言えない迷惑そうな雰囲気が伝わって来ていた。



『ーー”メア”でどうだ?いい名前だろ?』

『メア、、、まぁ悪くは無いかも』


 ナイトメアのメアから取った安直な名前。これを彼女、改めメアの反応は以外にも良かった。


『そう言えば、君の名前をまだ聞いていなかったね。教えてよ?』

『なら改めて。俺は水面月暁(ミナモヅキアカツキ)、水の表面で水面と空に浮かぶ月で水面月、夜明けを意味する暁で水面月暁だ、呼び方は好きにしてくれ』

『りょーかい、それならアカツキと呼ばせて貰おうかな』



 そこで暁は、女性の形をした影を見る。それはついさっきまで、全身に(かすみ)がかかり、形しか認識出来ないでいた。だが契約をした今はとても鮮明にその形を表しており彼を驚かせる。


ーーやっぱり女性だったのか、しかもかなり若いし見た目は中学生くらいに見える。


『ーーどう?可愛いでしょ?』


 メアは暁に自慢する様に暗闇の中を舞う、その身に纏う影はまるでドレスの様に見え、暗い空間にも華やかさを飾るのだった。そんな彼女の舞を見ながら暁の意識は現実へと覚醒していくーー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ