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3話 迷いの森


 

 


 ここは迷いの森と呼ばれる森、この場所には謎が多く、かなり昔から存在しているのにその神秘を解明できた者はいない。

 その由縁の一つとしては、この森に普通の生き物はいない無い事、生きているのは魔物と呼ばれる不思議な生き物だけ。普通の土地であれば生息する生き物が魔物だけになる事はほぼ無い。


 そしてこの森には、「迷いの森」と呼ばれ始めた要因がある。

 それは時たまに現れる異界人と呼ばわれる存在。また彼らがこの森に迷い込んだように現れる事から「迷いの森」といつからか呼ばれる様になったーー。







ーー外では魔物との戦いが始まっている、初めて聞いた魔物の咆哮、その(おぞ)ましさに堪らす悲鳴が出でしまった。


「リーゼお嬢様大丈夫っすよ、、、、我らが隊長は鬼のように強いっすからね!」

「そ、そうね、、、ありがとう。もう大丈夫」


 悲鳴を出したリーゼに気を使ったのだろう、安心させるような笑みを浮かべている。彼の名はレセプ、大盾とショートソードを持った守りに特化した戦士だ。


「このシュウバもお忘れなく!どんなに魔物の群れが襲って来ようとも、お嬢には指一本触れさせません!!」


 やけに騒がしく存在を主張してくる彼の名はシュウバ、これも彼なりの気遣いなのだろう、自信溢れる笑みを浮かべている。二振りの剣を両手にそれぞれ持っていて、この辺では珍しい双剣士だ。


「その時はよろしくお願いしますね」

「お任せください!」


 護衛に残ったのは2人だけだが、守りに特化したレセプと、攻撃に特化したシュウバ、この2人を残したデッケンの判断は理に適っていた。


ーーこの2人なら安心できますね、


 リーゼは頼もしい2人に安堵していたーーだが、「魔物の群れが来ようとも」とシュウバが放ったセリフが体現されるのは、かなり早かった。



「シュウバ、これはちょっと骨が折れるかも知れませんね」

「骨ぐらいなら、いくらでも折ってやるさ!」



 周りから集まってくるのは魔物の気配、複数の鋭い眼光がこちらを覗いている。それは一様に唸り声をあげ、口元からは鋭い牙が覗いている。


「あれは確か、ヴォルフ・ヴァンガードの下位種族であるヴォルフ!、、、、、、、、もしかしてこれは、、、、」

「ええ多分、お嬢の思ってる通りっすよ、こいつらの狙いは最初から俺たちっす」


 ヴォルフ・ヴァンガードと言う魔物は群れを作る、そしてヴォルフは群れに所属する下位種族の事だ。つまり、このタイミングで部隊の後方に群れが現れたと言う事はヴォルフ・ヴァンガードの方が囮であり、本命はヴォルフの群れの強襲だと言う事。もっと言えば守りの薄い後方から挟み込む事なのだろう。


「正直、戦わないのが1番なんすけど、引くに引けないっすね、、、、」

「レセプ!もう考えるだけ無駄だっ、逃げきれないのならば、ここで全部倒すまで!!」


 ここで食い止めないとデッケン達が挟まれてしまう、ならここで全て倒して終えばいい。シュウバらしい単純明快な答えだった。


「さぁ、いつも通りにやるだけだ、、、、出きるよな?」

「もちろんっすよ、そっちこそ油断しちゃダメっすからね?」


 周りを囲むのはヴォルフの群れ、こちらを鋭く睨む狼たちは、いつまでも待ってくれたりはしない、1匹また1匹と少しずつ近づいてくる。今見えているだけで50は超えるであろうヴォルフの群れが彼らに襲いかかろうとしていた。


「こんなの所詮は犬っころさっ、、、、、、ーー風魔法《突風(ガスト)》ーー」


 襲いくるヴォルフの群れを横目に彼は得意魔法を唱えた、その魔法名は風魔法《突風(ガスト))》風の国アネモスでは、魔法を修めた者が序盤で身につける初歩的なもので、その威力はーー、

 先頭にいた5匹のヴォルフを後続ごと吹き飛ばす、合計で10匹ほどのヴォルフが木や地面に衝突し肉塊へと姿を変える。


「ーーすごい、、、、、、」

「ほんとっすね、初歩魔法であの威力は異常っす」


 通常の《突風(ガスト)》は初歩魔法と言われるだけあって殺傷能力はほぼ無いと言って良い、出来るとすれば人を数メートル移動させる程度だ。


「まぁ、この使い方をすると魔力の消費が激しいから気軽に使えないのが泣き所だけどね!」


ーーあと、3発打てるかどうかかな、


 彼の本業は、魔法使いでは無い、剣士だ、

だから魔法と言える魔法はこれしか使えない。


「レプス!こっからは持久戦になる、お嬢を頼むぞ!」

「言われなくてもっすよ!」


 今の魔法で倒せたのはたったの10匹、今見えるだけでもその5倍の数はいるだろう。少し倒したぐらいでヴォルフ達の勢いは止まらない。


ーーほんとに、骨が折れるくらいで済むと良いっすけどね、でも、


「俺っちも、負けてられないっすからねーー風魔法《下降気流(ダウンフォース)》ーー」


 レセプは手に持つ盾を掲げ降ろすーーそれは魔法を起動する為の合図であり、風の塊が落ちてくる合図でもあった。勢いを殺す事無く迫って来ていたヴォルフの群れ、その勢いは吹き下ろす風によって完全に止まった。


ーーちっ、、、、、、キッツイすねぇ!


 彼を中心に広がる半径15メートル程の風の領域。これは内側にいたヴォルフのみを繊細に拘束している。

 

「持っても5秒っす!」

「それだけあれば充分だ」


「たった5秒で何ができるのか?」リーゼは思ったが、彼女がシュウバの本気を見た事は無い。


 地に伏せる大量のヴォルフを見据え、彼は腰に刺す二振りの剣を抜いた。


“右手に持つ剣は父親の形見”

古びた直剣

“左手に持つ剣は亡き親友の形見”

柄が半分欠けた白い直剣


 彼の持つ剣は特別な素材で作られている訳ではない。だが、かけがえのない大切な人の意志が宿った剣である。


ーー見てろよ親父!



”そう言い彼は詠唱する“


「ーー『吹けよ!春風』『芽吹けや!花々』

『我が剣風は(やかぎ)を分かつ』ーー」


「ーー俺流(おれりゅう)模倣(もほう)剣術・剣技《吹花擘柳(すいかはくりゅう)ーー」


 左手に持った父の剣で、かつての父の技を放つ。

 横薙ぎに放った伸びる斬撃は、春の風のように優しく暖かい。だがその優しさとは裏腹に、もたらした結果は残酷だった。


「嘘っ、、、、、、」

「ははっ、さすがっすね、、、、」



 一刀両断、この状況を表すにはその言葉が適当だろう。彼の放った一撃はヴォルフだけを見事に両断して、その血肉を晒した。


「ーー今だに完璧な再現はできないな」

「ふふっ、持たざる者からしたら、ただの嫌味に聞こえますね」


 こんな芸当が出来るのは指折りの実力者に限られる、そこには努力だけでは覆らない才能と言う確かな差が存在していた。



「おいおいおい!キリがないぞっ」

「いや〜ちょっとこれは、マズイかもっすね」


 最初の大きな群れは、魔法と剣技の連発で対処できたが、生き残った少数の群れがこちらを休ませないようなねちっこい攻撃を繰り返して来ていた。


「隊長達はまだ終わらないのか!?」

「向こうも苦戦してるみたいっすよ!」


 このままでは物量で押し込まれる、彼らの体力と魔力は有限なのだ。時間が経つにつれて不利になって行く状況に、焦りを覚える2人だったーー。




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