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2話 新しい世界

      

      





「ーーへ?、、、、、、、、どこだよここ」


 暁の視界を覆う濃い霧が晴れた時、そこはもう暁の知る景色では無かった。

 見渡す限りの全てが森、とても深く広く生い茂っている。

 葉の揺れる音、羽虫の飛ぶ音、鳥の囀り(さえずり)や獣の呻き声、そこかしこから聞こえる自然界特有の音は、この森の豊かさを証明している。


 ここがどこなのか?何故こんな場所にいるのか?沢山の疑問が脳裏に浮かぶが暁には何もわから無かった。


ーー体が軽いのか?いや、それだけじゃない?


 体が軽く感じ、いつもの何倍も動ける。

試しに軽く垂直飛びをすると2メートルは飛べている。


「すごいっ、何だこの感覚」


 心なしか五感も鋭くなっている。その目はいつもよりも遠くを見通す事ができ、顔を横切った小さな虫の羽の模様まで見分けられた。


「いや、キモいって、、、、そこまでは見たく無いし」


 感覚の鋭くなった暁の目は見たくないものまで見せてきたが、感覚が鋭くなったのはなにも目だけではない。


「、、、、、、、、女性の悲鳴?」



 感覚の鋭くなった耳はその微かな音も聞き逃さない。

 木々の揺らぐ音や風が通り抜ける音、他の多種多様な自然界の音に混じり聞こえたのは、女性の悲鳴と打ち付けられる金属音だった。



ーー茜なのか?いや、、、、、、、、でも


 そうじゃないと分かっていても、さっきの今では意識してしまう。



ーー行ってみる、しかないな


 元々待つのは得意じゃ無い暁は、悲鳴のした方向に走り出した。


 ここはただの森だから道なんてない、木の根や石をうまく避け足場を選ぶ、不均等に立ち並ぶ木の幹を左右に避け走り、低い枝や倒木を飛んだりしゃがんだりして避ける。


 走って避けて走って避けて走って避けて、この繰り返しだった。


「ははっ、何これ楽しい!!」


 やりたい動きがそのままできる感覚が楽しすぎてつい口に出してしまう。普通なら、体の感覚が急に変わった場合、違和感を感じうまく動けなくなる。だがむしろ、今は呼吸をするのと同じくらい自然に動ける。


ーーは?


 興奮と全能感に周りが見えなくなっていた暁、そんな暁を現実に引き戻したのは目の前を鋭い爪が通過したからだった。


「ーーーーっ」


 驚いた勢いで地面を転がる、受け身を取れず転んだ所為で呻き声が漏れた。背中に感じる地面の感触は硬く、酷く冷たい。


ーーまじかよ、、、、、、、、


 暁を襲った元凶は鋭い爪と白い毛並みをもつ狼だった、その大きさは見知った狼の二回り以上も大きい。その狼は縦長の瞳孔で暁を見やり、もう一度襲いかかった。


「ーーあぶっ」


 間一髪、狼の噛みつき攻撃を転がり避ける、


「日本に狼ってまだいたのか!?」


 あたりまえだが狼は喋れない、よってその返答は次の攻撃により返された。噛みつき、引っ掻き、体当たりなど、はっきり殺意を持って放たれた攻撃は、一つ一つが相当な威力を持っている。


ーーどうする?


 おおよそ狼ができる攻撃は予測できるため、余裕を持って避ける事ができている。だからこそ彼は迷っていた、逃げるべきか、戦うべきかを。


ーー逃げるにしても、逃げ切れっかな?


 ここは森の中だ、狼にとって庭も当然だろうし、獣に足の速さで勝てるのかが不安だった。逃げるか、戦うか、次の行動に迷った時間は一瞬だったが、状況は常に変化して行く。元々、狼は群れを作る生き物なのだから、最初1匹だった狼も3匹、4匹と増えて行くった。


「、、、、まじか」


 気付いたら、暁は四方八方を囲まれていた。

合計で20匹ぐらいの狼が包囲しており、凶悪な牙を見せ、ジリジリと間合いを詰めてくる。


ーー戦うは無理、ならどうやって逃げる??


 ここがどこの国でどんな森なのか彼は知らない、どこに逃げれいいのかなんて、余計に分からないだろう。この状況は余りにも絶望的であった。





 生い茂った森の中、周りに護衛を連れて走るその馬車は、機能性と造形美、相反する二つの要素を最大限に引き出されていて、その塩梅(あんばい)は完璧だ。此処までの馬車を持っている商会はこの世界の中でも数少ない。掲げられた紋章を見るに、あの馬車の持ち主は風の国でもトップに君臨するレヴァール商会である事に間違いなかった。


 この商会は数年前から急に名を上げてきた新興の商会であり、風の国アネモスのなかではどの商会よりも規模が大きい。そして今日はその大商会の1人娘が専属の護衛を連れて、とある任務に赴いている所だった。



「リゼお嬢様、”迷いの森”に入りました。戦闘になるやも知れませんがご安心を、その時は命に代えてでも我々がお守りいたします故」


 この、顔の堀が深くオールバックが似合う男の名はデッケン・ハーデン、彼はリゼ嬢様の幼少期から専属の護衛をしていて、今では護衛部隊の隊長に任命される程の実力を持っている。



 リゼお嬢様と呼ばれた少女の名はリーゼ・レヴァールと言い、その綺麗な翡翠色の眉を困ったように曲げて、


「デッケン、今の私には命を捨てる程の価値はありません」っと自虐的な言葉を吐いた。


ーー私はただお父さんに用意された席に座るべくして座っているだけ。商人になる為に努力した事も無く天に願った事も無い。お父さんや周りの人にたくさん助けられて今まで生きて来た。



「リゼ嬢様っ、そんな事はありません!何故そのような」

「デッケン、貴方の命は貴方の物です。貴方の為に貴方の愛する家族に使いなさい」


 愛する家族。その言葉を聞きデッケンは笑みを浮かべ、


「私はお嬢の小さい頃から仕えております。そんな私からすれば、リゼお嬢様も私の家族なようなものです」

「ーーふふっ、これは一本取られましたね、、、ありがとうデッケン、貴方にそう言ってもらえると私もなんだか嬉しい」


 馬車の中では、何だか暖かく優しい雰囲気が漂っていた。

 

 そこで、「隊長!魔物の群れです!!」っと言う声が聞こえ。周りでは慌ただしく動く音、獣の唸り声と人の大声が聞こえ始めた。

「リゼお嬢様、魔物が来たようです。馬車から出ないで待っていてください!」


 そう言い馬車から離れていくデッケンは、その腰に納める直剣(ちょっけん)を抜き放ち、


「総員!迎撃体制ー!1匹たりともここを通すな!!」

 

 最低限の護衛だけ残した残りの全員で魔物との戦闘が始まろうとしていたーー。



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