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16話 諦めない





 物の焼けた匂いが充満し、焼け焦げた大地が広がるこの町には現在、明るい表情をした人は誰1人としていない。親しい物が死に悲しみ、たくさんの大切なものが燃え尽き、明日を生きる事に絶望する。町を歩く人々の表情は暗く悲しみを帯びていた。



 そしてそんな住民たちとは違った意味合いで、暗い表情になっている人たちが冒険者ギルドに集まっている。




「それは本当なのか、、ダングステン」


 そうダングステンに問いたのは、ウェンディアの冒険者ギルドで永らくギルド長を勤めている中年の優男、スウェル。

 彼は両手で頭を押さえ天を仰ぐ、昨日の今日でこの報告は経験豊富な彼であっても辛い。


「あぁ、、、、、、、、」


 ダングステンは重く深く頷いた。それに呼応するように周りにいた者たちからも深刻な雰囲気が(かも)し出される。

 

 そこにいる者たちは、この町に残っていたD級以上の冒険者たちだ。S級はいないが強者の集まりには間違いない。だが、そんな彼らですら目を背けたくなるような事実だった。


「クソッ、昨日の事だって何が原因で誰がやったのかなんて分からないってのに!何でこうも悪い事が重なるんだ?」

「この町には今、まともに戦える者も逃げられる者も少ない。このままでは、、、」


 怒りをぶつける者、状況を悲観し嘆く者、大体がこの2つに別れる反応をしていた。




 そんな冒険者たちの中に暁たちの姿もあった、


ーー話には聞いていたけど、まさかこんなタイミングでなんて、

死の大群(デスアーミー)か、こりゃあやばいね』


ーーメアは知ってるの?

『もちろん、何度か経験した事があるね。あれは災害だよS級の冒険者ならともかく、一般人に対処できるとは思えないね。ましてや今回はタイミングも悪ければ人も少なすぎる』


 暁とメアが念話にて会話している横で、急に強い魔力が生じた。


「今は怒りや悲しみに囚われる場合ではありません!少しでも対策を考えなければっ」


 それはここ数日一緒にいて初めて聞くほど感情の籠もった声だった。その声と発せられる強い魔力に全ての冒険者がディアを見ている。


「はっ、たかがD級がイキがるのも大概にしろ。お前には分からないだろうがもう詰みなんだよ、どうしようもないんだよ、この状況を覆す方法なんて無いんだよ!!」


「君、新人っぽいから分からないだろうけど。もうこの町は終わりだ、国から増援でも来ない限り我々に勝ち目はない。せめて動ける者だけでも逃がす、これが我らの最後の仕事となるだろう、、」


 ディアの意見に対し反対意見を出したのは2人、さっきの怒っていた人と嘆いていた人だ。


「そう言う事だ嬢ちゃん、すでに状況は詰んでいる。戦おうにもまず、この町の住民は先日の一件で心体ともに疲れ切っている。そこに死の大群かが来たとなれば戦う前にほとんどの兵士が心折られてしまうだろう。それが1番の問題だ」


 ギルド長のこの言葉は深く皆の胸に刻まれる。それは彼女も同じで、


「だから諦めろって言うんですか?それが私には分からないっ、目の前で母親を亡くした女の子に何て言葉をかければいいんですか?私たちは頑張った、あの状況は無理だった、しょうがなかったんだとでも言う気ですか?、、それなら私は1人でも戦いますよ。逃げる言い訳を見つけるのは不得手なので」


 彼女の心境を全て理解する事はできないだろう、だがその心の根本にはあの女の子の姿があってもおかしくない。何故ならこの町にはまだその女の子がいるのだから、、


ーーディア、、、君は


 ディアの皮肉を交えた発破がけはそれなりに効果があった様で、幾人かの冒険者の顔つきが変わっている。それは死を覚悟した者の様で、


 暁の心もまた揺らぐ、

『君の目的を知った上で助言しよう。今の君はどんな立場なのかな?』


ーーそれは、、


 “勇者”の2文字、これが暁の脳裏を過ぎる、



「あぁ、諦めろ無駄死にするな。俺たちが立ち向かった所で意味など無い。住民は絶対的な希望が無ければ絶望から逃れる事が出来ないのだ。ましてやS級冒険者や“勇者”ならともかく、D級冒険者のお前に希望を持つ奴なんて誰もいやしないんだ」



 そのギルド長の言葉に他の冒険者の意見がまた固まりかける。


 

ーーはぁ、ディアを1人で行かせるつもりは元々なかったし、仕方がないか、、



 


「あの、作戦が1つあります。聞くだけ聞いてくれませんか?」


 急に声を上げた暁にその場にいた全員が視線を向ける。“何だこいつ?”と思われているのが視線で伝わってくるが構わず続けるのだったーー。








 

翌日、




 

 冒険者ギルドの前には、生き残った人々が集まっていた。やはり皆、疲れ切った表情をしておりとても辛そうにしている。


 そんな住民の目線の先には冒険者ギルド2階にあるバルコニーに向いており、そこに今、1人の男が顔を出した。



「やぁ皆んな、僕はこの冒険者ギルドのギルド長をしているスウェルだ。今日ここに集まって貰ったのは他でも無い“死の大群”についてだ。今朝発表した通り、明日の午後にはこの町まで押し寄せる事だろう。先々日の原因不明の一件に,続きこの仕打ち、神様なんてものはいないのだろうと嘆いていたが、、、どうやらそうでも無いらしい」



 上手く話を切り、後ろへ退がるスウェル。それと入れ替わる様に暁は前に出た。


「どうも暁です。これでも一応勇者をやっています」


 今の暁は、赤い刺繍の入った白いローブを羽織り、勇者の剣を腰に携えている。とても勇者らしい服装をしているがイマイチ説得力が無い為に反応は薄かった。



 だから暁は勇者の剣を抜き、赤黒い刀身を空へ掲げる。その唐突な行為に人々がつい目線を向けたその時、暁の背後、冒険者ギルドの後ろから蒼い竜が現れると冒険者ギルドの真上で静止する。これはディアの《蒼炎魔法・蒼竜》だが、今までと比べられないほど大きくなっている。


 そしてそれだけじゃ無い、いつの間にか暁を始めとした全ての人が神々しい光に包まれている。この光の正体は聖属性の魔法の1つであり、それはこの場にいる者の心と体を癒す光だった。


「これが勇者の力です。ぽっとでの俺の事は信じられないかもしれない、、でも少なくともこの力は本物だから、だから俺にっ、この町を守らせて欲しい!!」


 こうして、粋な演出と彼の演説により。いつの間にか人々の目線は暁へと吸い寄せられている。そしてその表情には幾らかの希望が表れていた。



「いきなり自分が勇者だなんて言う者だから、こいつは頭の狂った可哀想な奴だと思ったがこれは、」

「、、、ペテン師の才能はあるみたいだな」


 前者は嘆いていた男、後者は怒っていた男だった、



 そこにギルド長のスウェルが来て、

「あらかじめ聞いてはいたが見事な演出だな。これを見た後だと本当に勇者だと錯覚してしまいそうになる」


 蒼竜を顕現させているせいか、額に汗を流すディアが言う、


「アカツキさんは勇者ですよ、少なくとも彼らの目にはそう見えている。もちろん私の目にも」



 暁が演説を終え引き下がる、ディアはそれを確認して蒼竜を霧散させた。藍色の魔力光が雪の様に落ちていく、それは冒険者ギルド周辺に降り注ぎ一時的にだが幻想的な空間へと作り変えた。周りから歓声が上がり士気は一気に上がったのだったーー。


 



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