15話 非力
冒険者ギルドにて、
「Dランク・レッサーベアの討伐依頼、Dランク・ゴブリンリーダーの討伐依頼、Dランク・レッサビートルの討伐依頼、Eランク・ゴブリン5匹の討伐依頼、全部で4つ分の依頼達成報酬と各魔石の買取額の総額です。ご確認ください」
その総額35万円相当。これを暁たちは1日で稼いでみせた。
そもそもな話、EランクDランクの魔物は彼らの敵では無い。それがパーティを組み連携力を高めた事で安定性が向上し、より効率的に討伐出来るようになった結果がこれだった。
「これなら、私たちがC級へ昇格する日ももう直ぐですね。C級からはパーティ名が決められるらしいのですけど、アカツキさんは何か候補はあります?」
「候補はいくつかあるから、後で2人で決めよう。今は何より飯だ飯」
「えぇそうですね。私もお腹が空きました」
報酬を受け取り冒険者ギルドを出てその帰り道。暁たちは夕飯を共にする為、大通りを歩いていた。
暁の前を歩いていたディアが振り返り言う、
「私今、海鮮系の気分なのだけれど」
「海鮮系か、、ならあの店かな」
早い、リクエストされてからの返答があまりにも早かった。
ディアはそれを怪しむように見やり、
「この辺のお店事情に詳しいみたいですけれど、初めて来たのでしたよね?」
「あぁ、初めて来たよ。ただ一緒に来た知り合いが詳しくて」
知り合いとはもちろんリーゼの事だ。
「知り合いですか、、女の匂いがしますね」
これは何の根拠も無い女の勘だった。だが、
「へぇ〜、たまたまかも知れないけど。女の勘ってやつか?凄いな」
「へ、、、?」
感心している暁を他所よそにディアは目を白黒させ、
「女性なのですか?その人との関係性は?何故別行動をしているのですか?、、、、」
止まらない質問に暁は困惑する、
「し、質問が多く無いか?どうしたんだ急に」
「はっ、、、いえ、何でもありません」
ディアは少し恥ずかしげに歩を進める、咄嗟の疑問が声に出てしまったのだろうか。
ーー本当にどうしたんだ?
そんな疑問を浮かべながらも彼女の様子を伺っていた時、それは起こった。
「は?、、、、、」
地面が小刻みに揺らいだ。そこに少し遅れて鳴り響く衝撃音。その何かが爆発したような音は1つだけでは無い,この町のいたる所から聞こえてくる。
ーーいったい何なんだ?
暁は周りの状況を見て次の行動を選ぶ。こんな異常事態にも慣れてきていた。
『これは、酷い』
メアの呟きの通り、周りの状況は酷い有様だった。爆発音のした辺りからは火の手が上がり、建物や商品に燃え広がっていく。あちこちて火が物を焼く音と子供の鳴き声が聞こえてくる。こるはまさに地獄絵図だった。
「アカツキさん、助けに行きましょう」
そんな声が聞こえ暁はディアを見やる、
この状況にディアも少なからず動揺していたはずだが、すでにその瞳には動揺の色は無かった。
「もちろん、そのつもりだ」
それからディアの索敵魔法を頼りに住民の救出を始めた。
1人また1人と、危なそうな人を見つけては安全な場所へ誘導する。だが逃げ遅れたのだろうか、逃げる手段がなかったのか、すでに焼け死んでる者もいてその残酷で非情な現実を物語っていた。
そして今、彼らの前には物言わぬ焼けた死体が1つ、そしてその死体に抱きつき泣いている幼い女の子が1人いた。
ーーもっと早く来れていればっ、、、
暁もディアも同じ気持ちなのだろう,その表情に悔しさが滲んでいる。
『後悔は全部終わってからでしょ』
メアのその言葉にハッとした暁は、そっとその女の子を抱き上げる。周りを囲む炎は刻一刻と迫ってきていた。
「ここは危ないから、俺たちと一緒にきてくれ、、」
このままでは、いつまでもこの場をを離れられないだろう。そう思い半ば無理やり抱き上げるとそのままそこを離れる。
「いやぁ!お母さんが起きないの!!置いてっちゃだめぇ〜!!!」
ーーごめんよ、、
そんな幼い悲鳴が悲しく響くが、この女の子の願いを叶える事は出来ない。残酷な話だが、この危うい状況化で死体を運べるほどの余裕は無かった。他にも助けなければ行けない人がたくさん居るのだーー。
※
次の日、
時が経てば炎は消える。それは燃やす物が無くなったからであり、燃やす意味が無くなったからだ。
あれだけ栄えていた風の通り道ウェンディアも燃える物が全て燃え、通る道すら残っていない。
残った物は冒険者ギルドと病院、そしてレヴァール商会の本部だけだった。
「私がもっと優秀な魔術師だったら、、」
“助けられたかも知れない”そう続くだろう言葉を途中で切った彼女は、辛そうな表情で目の前の光景を見ている。
そこには、今回の一件で亡くなられた方々の集団墓地があった。疫病などによる二次災害を防ぐ為、急遽簡易的きゅうきょかんいてきに作られたこの墓地では、1人1人を土に埋葬している。
最初、纏めて火葬する予定ではあったが、今回に限り火葬はトラウマを引き起こしかねないからと考慮している。
そしてこの墓地には時間が経つにつれて、1人また1人と埋葬されていくのだろう。
そんな場所で1人、ディアは自身の不甲斐なさに打ちひしがれていた。
彼女は蒼炎魔法以外の魔法に適性が無い。
今回、彼女は基礎魔法である索敵魔法以外では活躍できていなかった。
「ディア、こんなとこにいたのか」
暁が来た、
「アカツキさん、、用事は済んだんですか?」
今日、暁たちは別行動している。それは暁が雇い主であるリーゼの安否を確かめる為だった。
「まだ、済んでない。その前に冒険者ギルドの方から集合要請が来ててディアを探してた」
「冒険者ギルドからの集合要請ね、、用事の方は大丈夫なの?」
暁は大盾を持ったある男を脳裏に浮かべ、
「大丈夫、頼りになる人が付いてるから」
そう言って冒険者ギルドへ向かう暁、その背中を片眼鏡の爺さんが見つめていたのだったーー。
※
傷だらけの大盾が高価な石畳を転がる。その大楯の上に大きな足が乗せられ、それを粉々に割った。
「おいおいおいおい、いくら何でも弱すぎやしねぇか?」
その男はただただ大きい。その体躯たいくは人間の限界を超えており、体は硬質な鱗で覆われていた。
「レセプッ!」
「だ、大丈夫すよ。俺が守るっす」
そう、さっきの大盾はレセプの物。得物を壊され、体はすでにボロボロだったが彼はリーゼに笑顔を見せ強がる。
「その心意気は認めるが、主人を守れぬなど護衛失格だな」
「ぐはっ、、ぁ、、」
その男はレセプに止めの一撃を入れる。猛烈な勢いの拳をもろに喰らったレセプは、面白いくらい吹っ飛ぶと奥の壁に激突し意識を失った。
「そんなっ、、、レセプ?」
リーゼが彼を心配してその名を呼ぶが返事はない。完全に気を失っていた。
もう彼女の味方はいなくなった、だがここで絶望する程彼女は柔くない。気丈にも敵を睨み返していた。
「この見た目でこの強さっ、この国の者ではないですね?何のためにこんな事をっ」
彼のような目立つ見た目の実力者など、この国には数える程しか居ない。
「あぁ、そうだ。俺たちはこの国の者ではない。俺たちは“暗邪苦あんじゃく”その目的はお前だリーゼ・レヴァール。お前を使い勇者を誘き出しその息の根を止めてやる」
「“暗邪苦”、、、ぁ」
その男は自分たちの目的を話した後、リーゼが次の言葉を発するよりも早く彼女を気絶させた。
気絶する程の腹パンを食らったリーゼは消えゆく意識の中思う。
ーー申し訳ありません、、、アカツキ様
これはレヴァール商会本部での出来事。突如として鳴り響いた爆発音の数々に状況を整理する為、慌ただしく動いていた所に彼らは急に現れた。
その圧倒的な強さに連れてきた護衛では歯が立たず。レセプが時間稼ぎをして援軍を待っていたのだが、、いつまで経ってもそれは来なかったーー。