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14話 ディア・マーキュリー



 私は、炎の国アグニエストの辺境にある村に生まれた。その村の名はフネラル。ここは代々、葬儀屋を担う者達の集まりだ。

 もちろん、他の職についているものもかなり多いが1番多い職業はやはり葬儀屋だった。

 何故葬儀屋なのか?その本当の理由は誰にも分からなかった。


 ただ分かっていることもある。

 

 それは炎の国アグニエストの法律において、葬儀は火葬により行わなければならない事、この村の出身でないと火葬をしてはいけない事だった。 

 

 これは炎の国アグニエスト固有の伝統であり拘りであり法律。




 そして、様々な炎魔法が存在するこの国でも火葬屋が使う炎魔法は他と比べても特別なものだった。


 私たちの炎魔法は死人の魂を葬る葬炎。

この国では魂を浄化する聖炎より、魂を葬る葬炎が好まれていた。理由を気にした事はない、ただ生まれた時からそう言うものだった。




 そんな村に私は生まれた。


 両親はとても喜んでいたと思う。どこに行くのにも一緒でとても大切にしてもらっていた。


 そんなある日私が6歳の頃、父が死んだ。死因は魔物によるもの、葬儀屋は仕事で国中を行き来する、その往来の末の不運だった。


 父の体は慣例に従い母が焼き、その魂は葬られた。感情を押し殺した母が父を火葬する光景を6歳ながら見てしまう。

 そして私は思ったのだ、本当にこれで良いのか?と。

 そしてその疑問を思った時、私は“葬炎”に目覚めた。

 6歳と言う若さで葬炎に目覚めた者は今までの歴史上確認されていない。村の皆も傷心中の母も私の才能に喜び期待した。


 私は頑張ったと思う。母や皆の期待に応える為に幼い体に無理を重ねた。


 頑張って、頑張って、頑張った結果。私の葬炎は紫色から蒼色になった。

 だがこれがいけなかった、私は知らなかったのだ。この蒼色になり蒼炎となった私の魔法が葬儀屋としては致命的だと言う事に。

 

 正直な話、くだらない事だ。葬炎ではなく蒼炎となった事により火葬屋としての条件から外れてしまった。期待に応えようと頑張った結果、期待を裏切る事になってしまったのだ。


 これがちょうど15歳の時。この時の村の皆の反応は酷いものだった。皆が皆、態度を一変させ私から離れていった。彼らにとって葬儀屋に成れない私に価値などなかったのだ。


 

 私はショックに打ちのめされた。何もやる気が起きず自室に篭り、ただ生きているだけ。

 部屋の中には私の9年間の成果が乱雑に散らかっていて。これは燃やそうにも燃やせなかった。



 だがそんな時に、部屋の扉が1人でに開いた。



「ディアごめんなさい、あなたは何も悪くないわ」


 そう言うって、泣きながら私に謝ってきたのは母だった。


「勝手に期待されて、勝手に背負わされて。大変だったわよね?辛かったわよね?私たちは幼いあなたに理想を押し付け夢を見てしまっていた。でもこんな事、あなたには関係ないわ。好きに生きてディア、あなたの意思は誰にも縛られてはいけない。あの人もきっと同じ思いの筈よ」


 “あなたの意思は誰にも縛られてはいけない”私はこの母の言葉に救われた。周りにだけでなく、私は、私自身でさえその身を縛っていたのかもしれない。この時から私は自由に生きると決めたのだ。


 それからの1年間、外の事について勉強した。

この村の事しか知らなかった私には必要な事だ。


 村を出て国をでて、隣国である風の国アネモスで冒険者資格を取った。自由に生きると決めたあの時から、私の目標は冒険者だった。


 国に縛られず、人に縛られず、自由に冒険ができる冒険者は私にとって転職に思た。



 一つ問題があったとしたら。今まで我慢して頑張ってきた反動なのか、自由に生きろと言われたからなのか、自然と私の言動は傲慢になっていた。


 そのせいで、私とパーティを組んでくれる人は誰もいなかった。それが私であり私の生き方だがら、もちろん私はこの傲慢な態度を治すつもりはない。



 そんな時ウェンディアの冒険者ギルドで彼と出会った。その人は赤っぽい黒髪をした青年で、冒険者資格試験で私と同じく試験官に善戦した人物。魔法を当てるだけだった私と違い、元A級冒険者に純粋な剣術で喰らいついた彼の事は直ぐに思い出せた。


 そしてなんだかんだあって一緒に依頼を受け帰ってきた。私は1人宿屋で考えていた。


「ありかも、、」


 今日一日中彼と過ごして分かったことがある。

彼の実力はもちろん、私の背中を任せるのには十分な、いや傲慢や私でも称賛したくなる程の実力者だった。そして私の中で最も印象に残ったのはその態度だ。

 私と出会ってから最後まで、この傲慢な態度に嫌な顔一つしなかった。

 そしてなにより“楽しかった”。こんな事は始めてで困惑していたが、私は決心する。


「彼と冒険がしたい」


 ちょうど明日の昼に、依頼報告と魔石の換金を行う為に集まる事になっている。その時に誘ってみよう、そう思った。




 そして、、、


「アカツキさん、もしよろしければですけども、私とパ、パーティを組みませんか?昨日の様な限定的な関係ではなく、せ、正式で永続的なものです」



 何故か私は緊張していた。今日は何故か落ち着かない、きっと私には珍しく不安に思っているのだろう。



ーー断られたくない

っとそう思ったから、



 でも、その緊張や不安は次の彼の一言で吹き飛んでしまった。それは、、



「えっと、俺としては全然こちらこそよろしくって感じかな。そもそも“初めて見た時からディアを欲しい“と思ってたし」



ーーはい?彼は何を言っているのでしょう、

わ、私が欲しい?欲しいって、そう言う、、

いや、でも



 頭の中を埋め尽くす疑問は、巡り巡って答えを出そうとするが、頭の中を空回りしてしまう。


 気づけば何も答えが出ないまま、私の顔は真っ赤になっていて、その心臓の鼓動はうるさく今までで1番の活躍を見せていた。



 その後、焦った様子で彼は誤解を解こうとしていましたがもう関係無い。偶然にも私は気づいてしまった。いつまで経っても止まないこの胸のトキメキは本物で、私ディア・マーキュリーは彼に恋しているのだと。



 そして、私はこの初めての気持ちを誰かに共有したくて手紙を書きました。


 “母へ、私は今、風の国アネモスで冒険者をしています。不安もいっぱいでしたが、本日から信頼できる方とパーティを組む事になりました。何とかやっていけそうです。

 

 追記・私は今、恋をしています。初めての事で酷く戸惑っていますが、必ず射止めて見せますので期待して待っていて下さい。 

   あなたの娘、ディア・マーキュリーより”


 こんな手紙を近況報告も兼ねて母に送りました。きっとこの返事が帰って来るのは今より2週間程後でしょう、返事が待ち遠しいですーー。


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