11話 リーゼ・レヴァール
ーー私の名前はリーゼ・レヴァール。
優しくも厳しい母さんと偉大で寛大な父さんの間に生まれた風の国のただの女の子。
私の生まれた頃はまだ父さんの商会も大きく無かったから、貧乏だったし大変な事もあった。
それでも、十分幸せだったし私はそんな日々も子供ながらに満足していたと思うし満足させて貰っていたと思う。
一つだけ辛かった事は、母が色々と厳しい人で、私に自由をくれなかった事。
何をするにもどこに行くにも許可が必要で、
一回だけ、、確か6歳ぐらいの時に、唯一の護衛だったデッケンの目を盗み、1人で街を出歩いた事があったけど、あの時はもの凄く怒られたっけ。今思えば母さんなりの優しさだったのだろと思う、まぁ、その後一週間もの間、部屋に監禁されたけれど、、、、、、、、。
それから年月がたって私の身長も伸びてきた頃。その頃には既に父さんの商会もかなり大きくなってきていて風の国アネモスでも有名な商会になっていた。
“きっとこれからは何もかもが上手くいくだろう”そんな事を思ってしまうくらい順調な私たちだったけど、、、、ちょうどその時期に、私たち家族にとって、1番最低で最悪な悲しい事件が起きてしまうーー。
ーーあれは激しく雨の降る日。その雨は朝から止む事なく降っていて、風の唸る音の合間に時々雷の落ちる音が聞こえる程には激しく荒れている。
いつもより何時間も遅い両親の帰りに不安になっていた時、この時だったーー今にも泣きそうなデッケンと血相を変えた父さんがすっかり弱り切った母さんを連れて帰ってきたのは。
「今すぐっ、医者を呼べぇ!!!」
後にも先にも父さんの怒鳴り声を聞いたのはこれが初めてだった、、、、、、、、。
ーー結果だけを言うなら母さんは死んだ。死因は毒によるもの、それも解毒がほぼ不可能な毒が使われていたらしく、悲しいけれど仕方のない事だった。
「レ、レゼっ」「レーゼ様ぁぁ!」「、、、、母さん?」
いつも冷静で感情の変化の少ない父さんが誰が見ても分かるほどの動揺を見せ、いつも頼りになるデッケンが泣きそうな顔をしている。幼い頃の私は、あまりの事態に呆然と立ち尽くしている。
こうして母さんは死んでしまった、けれど最後にある言葉を残した、、、、それは、
『、、、、、、、、私は世界が憎い』
この言葉が母さんの最後の言葉だった、私はこの言葉の意味を今だに理解できていない。
それからと言うもの、父さんはいつにも増して仕事に取り組むようになった。朝起きてから寝るまでの間、そのほとんどを仕事に費やし、私と話す時間も徐々に少なくなっていく。それはまるで辛い現実から逃れる為の現実逃避、父さんなりの逃げだったのかも知れなかった。
それから、父さんの商会はあっという間に大きくなり、いつしか国でも有数の商会へと成り上がった。そんな商会の成長に合わせデッケンも成長していた、風の国アネモスで年に1回開催される武闘大会にて優勝、レヴァール商会専属の護衛部隊を創設など、彼も商会の為にやれる事をやっている。けれど、この時の私は今だに何もしていなかった、母さんが亡くなった事実をいつまでも受け止める事が出来ず、塞ぎ込む。
自室に篭りただ生きているだけ、死んでいないだけだった。
あの出来事から今まで、私が望むものは父さんが用意し、私の行動指針は父さんが決めていた。意志の無い人形のような日々を送り、年月がまた過ぎて行く。
そんな私にも転機が訪れる。それは父さんが私を商会の一員として起用し始めた事だった。
デッケンを始めとして護衛隊の方々にも手伝ってもらったけれど、慣れない私は失敗ばかり。
だけど、そんな失敗から私は徐々に成長していく。
ーーこれは私の今までのお話、今だに父さんと話す機会は少なくほとんど話せていないけれど、私は父さんに感謝していたし信頼していた。
だからこそ、私は油断していたのだ、
ここはレヴァール商会本部、リーゼの父、ノルデの部屋。部屋の中には無駄を排除したシンプルな家具ばかり、利便性に特化していてお金持ちの部屋と言うには少し質素だが持ち主の趣味趣向が見て取れる。
「リゼよ、迷いの森での調査は見事だった。それでその勇者について興味がある、詳しく教えてはくれないか?」
父さんに褒められるのはいつぶりだろうか、私はその嬉しさもあり、つい言ってしまったのだ。私の知り得たアカツキ様の情報を全て、国から箝口令がでていた内容までもーー。
※
風の国アネモスの首都である風都エア。そこから歩きなら1週間、馬なら2日程かかる場所にある“風の通り道ウィンディア”それは風の国アネモスへ訪れるなら必ず通るであろう道、その道を中心に栄えた縦長の町の名だった。
何故、元々ただの道であったこの町が、ここまで栄える事になったのか、それを語る上で、レヴァール商会の事は切っても離せない程に欠かせないものだろう。
では何故そこまで重要視されるのか?それはこの土地の立地が関係している。高低差が比較的激しいアネモスでは珍しく平坦な土地が広がっており、魔物の生息地からは離れている。
そして1番の要素はその位置だった。国の中心から少し離れた位置にあるにも関わらず、多方向から人が集まりやすく、尚且つ人が移動しやすい。
つまり貿易の中心になり易い土地であったのだ。
その点に目敏く気づいたリーゼの父親であるノルデ・レヴァールはこの土地に人を集め始める。
元々それなりの集落があったのもあり、直ぐに人は集まりその規模を大きくしていった。
これがこの町が生まれた由縁であり、レヴァール商会が大きくなった一つの要因だった。
そして今、暁はリーゼからの護衛依頼でこの町へ共に来ていた。
「それでは、ウィンディアに到着しましたので冒険者の皆様には片道分の報酬と滞在費をお支払い致します。4日後の朝に再集合ですので遅れずに来てください。もし遅れた場合はお給金は発生しませんし、冒険者ギルドに報告致します」
ーー流石は大商会の娘、飴と鞭を使い分けてる
そんな感想を心の中で呟く暁は今回、冒険者として参加している。
「おっかないね〜」「当たり前だな」「えっ、ほんとに滞在費貰えるんだ!」
他では余り無いがレヴァール商会では冒険者に滞在費を払っている。これは彼らの仕事ぶりへの対価であり、将来を見越した投資でもある。
これにより、冒険者たちのモチベの上昇と確かな信頼を得る事ができるのだ。
ーーwinwinな関係ってやつだな
※
ウィンディアに到着したのは昼過ぎ、とりあえず昼飯を食べて宿を取った暁は、“夜になる前に一狩り行こうかな”と思い冒険者ギルドへ来ていた。
ウィンディアの冒険者ギルドは、風都にあったものとほとんど変わらないようだった。
暁は楽で早く終わりそうな依頼は無いものかと、依頼一覧を眺めている。今の暁のランクはここに来る前に上がっており、一つ上のDランクだった。
ーーおっ、これ良いかも
暁はちょうど良さげな依頼を見つけ反射で手を伸ばす、だがこれが良くなかった。
「「あっ」」
暁と同時に伸びた隣の手はちょうど暁と重なりお互いの体温が触れる、どことなく気まずい雰囲気が流れた。
「「、、、、、、、、」」
「、、、、私は譲りませんよ?」
聞こえたのは女性の声。ふと横を見ると相手も同じタイミングでこちらを見たようで自然と目が合う。
ーーあの子だ
暁は直ぐに思い出した、冒険者資格試験を受けたあの日、もの凄い魔力を秘め、蒼い炎を操る蒼炎の魔術師。その破壊力はかなりのものだった。
「あなたは確か、、、、冒険者資格試験の時に居た」
彼女も暁の事を覚えていたらしい、
「俺もあなたの事は覚えています、蒼炎の竜、、、、あの魔法の威力はとてつもなかった」
「ほぅ、中々見る目がありますね」
彼女はその藍色の瞳を、暁の腕、足、顔,の順番で見ると、最後に腰に挿す直剣を見て言う。
「一度この私とパーティを組みましょう。見た感じあなたはソロのようですし問題ありませんよね?」
余程、自慢の魔法を褒められたのが嬉しかったのか、上機嫌な彼女は暁をパーティへ誘った。だかやはり、少し偉そうに感じるのは気のせいではないだろう。
だが、
ーー悪気は感じない
そう感じた暁は自分の直感に従い彼女からの提案を承諾したのだったーー。