10話 蒼炎の魔術師
さらっと合格を言い渡された暁だったが、先程気になった人物がいた為、少し残って他の試験も見ていた。
「うわっ凄い、、、、、、、、」
『蒼炎か、久しぶりに見たよ』
鍛錬場を照らす光は爛爛と煌めく蒼い炎。それを体現させたのは、腰まで伸びる藍色の髪をした女性、あのメアが手放しで褒める程の魔力を持ったあの女性だった。
「魔術師向けの試験内容は“最高の一撃”あなたに当てる事。ならば、私にとって最高の一撃をお見せる事をここに誓いましょう!」
そうやってダングステンに向けて大胆な宣言をしたかと思うと自身の持つ杖を前に掲げる。
とても自信があるのだろう、1ミリも失敗を恐れていないようだった。
彼女は一呼吸した後、その詠唱を始めた。
「ーー『蒼古なる炎よ』『崇高なる魂よ』ーー」
彼女はあらかじめ用意しておいた蒼炎に呼びかける、
「ーー『その猛き翼を広げ』『この大空へ翔かん』ーー《蒼炎魔法・蒼竜》ーー」
彼女の呼びかけに応え鼓動する炎、その炎は大きく膨れ上がり、そして竜の形を成した。
「どうです?これが私の魔法、蒼炎魔法です。受けてみますか?」
「撃ちながら言っている事にツッコミを入れた方がいいのか?」
「受けてみますか?」と言いつつ既に放たれた蒼い炎でできた竜。その雄々しくも気高い翼を広げダングステンへと突っ込んだ。
続く轟音、蒼炎の竜とダングステンがぶつかる。数秒の間均衡していたそのぶつかり合いは、次の瞬間ダングステンが衝撃波を放った事で掻き消された。
「なっ、、、、、、、、」
唖然とする彼女、とっておきだった魔法を食らっても立ち続ける男にショック受けたのだろう。
ーーあの魔法、蒼炎魔法だったか。凄い威力だ
『彼女凄いよアカツキ、分かりづらいけどダングステンにかなりダメージが入ってたみたいだ』
蒼炎の竜を受けきったダングステンだったが、思ったよりもダメージを受けていた。その証拠に今までの連戦中、暁に一撃入れられた時ですら涼しい顔をしていた彼が、今はその顔に疲れを滲ませている。
ーー“欲しい力だ”
強力な魔王軍と戦うには頼りになる仲間が必要だ
暁にとって彼女の見せた力は魅力的に見えていたーー。
※
心地よい風が流れる草原の只中、暁はつい先程倒した魔物を解体していた。
「手際も良くなってきたな、アカツキ」
「えぇ、あれだけやれば慣れるもんですよ、、、、」
魔物の解体。血を抜き皮を洗い、内臓を取り出し血を洗い流す。それは冒険者になる上で欠かせない事であり、一般人が最初に躓く要素でもあった。
ーーあれは少し想定外だった
実際に自分の手で命を奪った動物を捌く、それが自然の摂理であっても、自分の成した結果に罪悪感と嫌悪感を抱く事は仕方の無い事だった。
『人間って寿命が短い分、直ぐに適用しちゃうね』
ーー捌く事に慣れても、良い気分にはなれないけどな
引き続き魔物を捌きつつ罪悪感に苛まれていると、
「解体は辞めだアカツキ、次の獲物が来たぞ!」
そう彼に言われ視線を流すと、こちらに向かってくる猪型の魔物。
「はぁ、やるか」
若干のため息と共に腰に刺した直剣を抜くと走り出す、お互いに最短で迫ると1匹と1人は戦い始めたーー。
※
鬱蒼とした森の中に1人歩く少女がいた。
「私の魔法があれば例え1人でも余裕でしょう。生憎とA級冒険者並みの敵でも現れない限り、私の魔法は十分通用すると証明された」
自分の魔法に自信があるのか勇敢に森の中を進んでいくが、その顔は少し機嫌が悪そうだ。
きっと、自分の魔法が直撃したにも関わらず倒せなかった事に、腹立たしく感じているんだろう。彼女は生粋の自信家であり負けづ嫌いであったのだ。
そんな彼女が1人で森の中入るのには理由がある。
「まったく、、この私がパーティに入ってやっても良いと言っているのに何故断られるのか、、、、、、、、」
この彼女の過剰な程の自信は、自然と傲慢な態度になる。それは周りから避けられるには十分な要素であった。
そこに複数の獣の唸り声が聞こえる、
「やっと来ましたか、私を待たせるとは良い度胸ですね」
彼女は高度な魔力探知によりあらかじめ接敵に気づいてはいたが、これが戦闘開始の合図となった。
「さぁ、始めましょう」
彼女は予め詠唱し待機させておいた蒼炎を繰り出す。彼女を守るように並ぶその炎は、向かいくるレッサーウォルフの群を焼き尽くすのだったーー。
※
白いカーテンで仕切られたベットがあり、そこにデッケン・ハーデンは寝かされていた。
ちょうど今、朝日が昇り鳥が囁き始め1日の始まりを告げる。このタイミングでデッケンは目を覚ました。
死力を尽くし戦ったあの日より数日、デッケンはレヴァール商会傘下の医療施設にて治療を受けていた。医者によると、過剰魔力による魔力循環不全が酷く数日はまともに動けない。少なくとも数週間は全力戦闘できないとの事だった。
「これが私の限界なのか、、、、、、、、」
すると彼の隣のカーテンから声が聞こえる、
「おいデッケン、お前がそこまで落ち込むなんてゼーレ様が亡くなった時ぐらいだぞ」
つい呟いてしまった早朝の病室、いつもこの時間に起きている患者は彼1人であったが先日から新しい患者が1人、入院していた。
「おっと起きていたか、すまないなダングステン」
この2人は国でも有数の実力者であり、昔からの知り合いでもあった。
「デッケン、、お前にそこまで無理させた相手が気になる、誰にやられた?」
ダングステンからの質問にデッケンはため息一つ吐き、
「人じゃない。2体のオグルと100体のヴォルフを従えたヴォルフ・ヴァンガードだ」
「オグルを2従えていただと?ヴォルフ・ヴァンガードが自身と同等の魔物を従えているなんて話、聞いた事ない、、きな臭いな」
お互いにそれなりの経験を積んだ歴戦の猛者だ、この状況の不自然さに緊張感を滲ませている。
「ダングステン、俺の話はした。お前の話を聞こうか」
「なに、大したことではない。相手の力量を見誤ってモロにくらっただけだ、お前と違い既に全快しているからな、明日には退院できる。軽傷だよ」
あの少女の放った蒼炎の竜はダングステンの体に確かなダメージを与えていた。『回聖』の二つ名を持つ現役A級冒険者ヘレスによる治療のおかげもあり既に全快している。これは念の為の入院だった。
「、、、、有望な後輩ができたじゃないか」
「そうだな喜ぶべきなのだろうが、複雑な気分だ」
右腕を失い冒険者としての活動を辞めた彼にとって、有望な冒険者が生まれる事は喜ばしい事である一面、活動出来ない煩わしさや、輝かしい才能を持った彼らに嫉妬などの悪い感情を抱いてしまう事もまた仕方の無い事だった。
「分かってはいるだろうがあえて言う。ダングステン、お前の選んだ道はその醜い嫉妬と何か関係あるか?」
「本当にあえてだな、そんなものあるわけあるか」
人は時に悪感情よりの気分になる事があるだろう。
「お互い全盛期は過ぎたが出来る事をやろう」
「そうだな、力を高める事が出来なくても。意志や経験を託す事はできる」
彼らはその悪感情と上手く付き合う事を決めたのだった。
これより彼らは本格的に後進育成に手を入れるようになる。デッケンは専属護衛隊を、ダングステンは冒険者達を、それぞれの方針とやり方で鍛えあげていく、この行為は後に大きな結果をもたらす事になるのだったーー。