1話 神隠し
冬の冷たい風が吹き荒れ部活帰りの高校生達を襲う、部活で汗をかいた身体にはとても辛いことだろう。
そんな高校生達の中に1人、周りより少しだけ目立つ青年がいた。彼の名は『水面月 暁』イタリア人の父と日本人の母の間に生まれ、世間一般で言う所のハーフと呼ばれる存在だった。
彼の髪や目は日本人の母に似て黒色だが、その毛先は父によく似て赤みがかっている。身長も少し高く、文字通り周りから頭一つだけ抜けていた。顔は父と母それぞれのいいパーツが揃っており、世間一般の基準よりは少し上だろう。
「おーい暁、帰ろうぜ」
「、、、、、、、、えーと、今日は用事があってさ」
バスケ部でも仲の良い友達が暁を誘うが、彼にはこの後用事があったので申し訳なさそうに断る。
だがその様子に何かを察したのだろう友達は暁にサムズアップしながら「あ〜成る程なっ、がんばれよ〜」っと元気よく別れを告げた。
その彼の様子に暁は「うるせーよ」と内心でツッコミを入れながら、
「おぅ、またな」
っといつも通りの返事を返した、
「がんばれよ、、、、、、、、か」
小さくなっていく友達を眺めながら、暁は携帯を開きある人物へ誘いの連絡を入れ始めたのだった。
※
剣道部の部室にて、部活動後の帰り支度をしていた彼女『日暮 茜』は着けていた面を脱ぎ、縛っていたブラウンの髪の毛の束を解いた。その髪は汗をかいているのにも関わらずサラサラと靡いている。
ーーピコンッ
暁:[今日放課後暇?]
メールが届き携帯を開くと、そのおっとりした目を少し見開く、
茜が返信しようとメールを開いた時にまた、
ーーピコンッ
暁:[暇だったら放課後に校舎裏の裏庭に来てくれ、大事な話がある]
また、いつも通りに「一緒に帰ろう」「飯食い行こう」とかそんな内容だと思っていた彼女は顔から耳をほんのり赤くし、
ーーこ、告白スポットじゃん!!
「そ、そー言う事、、、、なのかな?」
学校に通う人たちの間で知らない人などいない。そんな有名な告白スポットに呼び出されたのだから、彼からの告白を意識してしまってもおかしくないだろう。
だが物心着くから幼馴染として接してきた相手とのありふれた関係、それが崩れてしまうようで不安を感じる茜。
「、、、、、、、、でも」
このままの関係を望んでいなかったのは彼女『日暮 茜』も同じなのだ。
「よしっ!」と、気合いの一言を呟き覚悟を決めた茜。脱ぎかけの甲冑を片付け、汗を拭いたりお気に入りの香水をつけたり、急いで前髪も整える。支度の終わった彼女はメールに「今から行くよ!」と返信し、剣道場を後にした。
※
ただの公立高校に在るにしては少し立派な裏庭があった。そこには良く整備された菜園があり、所々には少し立派なベンチやイスが置いてある。中央の方には大きな池があって、そこに浮かぶ水蓮の葉には風情があった。奥にはひっそりと祠が建っていて、歴史を感じさせると共に薄らと不気味さを感じる。そんな祠の前には2人の姿があった。
暁は古い祠を背に緊張した表情で立っていて、茜は校舎側を背に頬を赤らめて立っている。
「どしたの?急に呼び出してさ」
髪の毛の先を指先でいじりながら、上目遣い気味に暁を見る茜。彼女はいつも通りに振る舞っている様に見えるが、よく見ると顔から耳にかけてがほんのり赤い。この現象が寒さによるものとは別の要因である事ぐらい、暁にも分かった。
ーーやっぱ、バレてるよな
年頃の女子なら、ここの噂ぐらい知っているだろう。それは当たり前の事だった。
それにいくら覚悟を決めたとはいえ本人を前にすると、
ーーまじかよっ、、、、めっちゃ緊張する
でももう言うしかない、この愛おしくも曖昧な関係に終止符を打ち次の段階に進む為に。
暁は意を決っして、
「ーーなぁ茜、俺さ、、、、お前に伝えたい事があって今日、ここに呼んだんだ」
「うん、知ってるよ、、、、、、、、」
ーーだと思った
冬の冷たい風が二人を撫で、枯れ葉が宙を舞う、
「そっか、なら話が早いな。こんな事言うの初めてだし、あんまり長々しくするのは苦手だから単刀直入に言うよ」
『水面月 暁』の一世一代の大勝負、その勝敗を決める大いなる一歩、想い人に自身の心の内を告白するその場面でそれは起こった。
暁が緊張で声を震わせながら、
「あ、あのさっ俺、、、、、、、、ずっと前から茜の事、、、、
最後に「好き」の言葉を伝える、その大事な瞬間にそれは起こった。
どこからともなく現れた濃霧が周囲に広がっていく。その本流は裏庭の最奥にある”祠”を中心に円形状に出ているようで、たまたま祠側に立っていた暁を呑み込んでいった。
「え、霧!?急にでてっ、、、、きて、、、、」
霧は直ぐに晴れる、だがそこに暁の姿は無くなっていたーーあたかも最初からいなかったかのように忽然と姿が見えなくなった。
「え、どこ?、、、、、暁〜!!どこいるの!?なんで隠れちゃうのー!?、、、、、、、、ねぇ、どこ?」
必死の呼び掛けをするがいくら待っても返事はない、茜の目尻に涙が滲んでいく。急に姿を消した暁を探すため、学校の周辺を探した。
探しても探しても探しても、そこに暁の姿は無い。学校の中も外も、ちょっとした森だって全部探した。
日が完全に落ちる時間まで続けたが見つからなかった。
その後、メールや電話をしても通じず彼は家にも帰っていなかった。これは警察沙汰となり、彼の両親や複数の関係者の協力の元、彼を捜索すら団体が立ち上がったが。いくら捜索を続けても見つかる気配は無かった。
その日を境に『水面月 暁』のこの一件は未解決事件扱いとなり、しばらくの間だが世間を騒がせる事になったーー。