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帝国公爵夫人ホアナの怒り

新連載短編です。

前半部分はちょっと残念な方たちの語りです。

 許せない!


 絶対許せない!


 謝罪と埋め合わせがない限り、絶対許さないんだから!


 あの帝国公女のアレンディナ、弟ヴァカロの婚約者の分際で!



 わが出身地は自治を認められた帝国の属領。

 ゆえに帝国傘下に入る前にその地を治めていたエストゥード王家が変わらず支配しています。


 それが私の生家。


 しかし、私は帝国の公爵家に嫁ぎ、エストゥード王家の誰より格上の存在となっている、逆に、帝国の公爵家の娘に生まれたと言っても弟の王太子の妃になるあんたは格下なのよ。


 それなにの生意気な!



 きっかけは夏の暑さがおさまった初秋の頃の故国訪問。


 私の夫フラティール公爵の妹が同じく帝国の公爵オポトニスタ公爵家に昨年嫁ぎ、帝都での結婚式だけでなく、領地でもお披露目の結婚式をするので、夫と私もその催しに招待されましたの。


 だから私はお願いしました。


 私の故国は、さらにその南の半島の付け根に当たる場所にあるのだから、ついでに足を延ばしましょうって。


「う~ん、オポトニスタ領と違って他のところは収穫前で、各地の視察とか一番忙しい時期じゃないのかい?」


 夫は難色を示したわ。


 でも、夫が身内に会いに行くのに私は会えないなんてひどい。

 帝国に嫁いでからは、年に一回、帝国内の貴族や属領の王族が集う新年のパーティでしか会えないのだから。

 予定はうまく調節します、だから……。


 泣き落としと説得をうまく組み合わせたところ、夫は了承してくださいました。

 オポトニスタ領に一緒に行く年老いた夫の両親は、それ以上の長旅は無理だから帰ってもらうけど、自分たち夫婦は足を延ばしてみようか、と。



 オポトニスタ公爵領は帝国の西側にある山岳地域の冷涼な土地で、帝国で一番最初に収穫シーズンが終わり、そのあと収穫祭を兼ねて、成人や結婚のお祝いの宴会を開くのが習わしとなっているのよ。


 それにしても帝都じゃ洒落者で有名な公爵も、領地に帰れば田舎臭さ丸出しの男になるのね。


 牧畜が盛んなので肉や乳製品は豊富だけど、出された料理は、帝都のような盛り付けにまで気を配った垢ぬけた味ではなかったわね。

 まずくはなかったけど。



 とにかく、帝国貴族同士、血縁の義理を果たした後は懐かしの故郷。


 宗主国の帝国貴族に嫁いだ私は王族よりも高貴な存在、いわば凱旋帰国ね。


 えっ?


 最上級客を迎える客間が開いていない?

 帝国公女アレンディナが使用している?


 どうして?


 今はまだ妃ではなく、婚約者なので客人扱い。


 ちょっとちょっと!


 れっきとした帝国公爵夫妻、しかも王太子の姉、婚約者の娘より年齢的にも上なのよ。

 序列的には私の方が上じゃないの!


 アレンディナを呼びなさい!


 そう使用人に命じると、今は領内の視察に出かけていて、帰ってくるのは明日の夕方になるとか。


 ああ、もう、憤懣やるかたない!


 私たちが来るのはわかっているのだから、いないのなら前日までに部屋を開けておけばいいでしょうが!


 そんな気配りもできない公女なの!



 その翌日の夕方には、王宮で歓迎パーティを開いてくれたけどなんてしょぼい催しなの。

 重臣たちは一人も参加せず、ワインは普段使いのものを使用、この土地に長く暮らしていたのだからわかるわ。

 料理も一応体裁を整えているけど、豪華さにおいてあの田舎臭かったオポトニスタ領より粗末ってどういうこと?


 弟の王太子は必死に場を取り繕い、音楽の演奏やら乾杯の音頭やら盛り上げようとしているけど、パーティの主催者としてはお粗末すぎるのではないの?


 そう思って私たち夫婦が唖然としていると、公女が視察から帰ってきたわ。


「ようこそいらっしゃいませ、義姉上さま」


 アレンディナ公女は私の前でひざを折り恭しくお辞儀。


 後ろにはこの国の家臣団を多く引き連れて、まるで我こそはこの国の中心であり格上の存在だ、と、言わんばかりの態度にかなりカチンときましたわ。


「帝国貴族の義姉がやってくるというのにずいぶん遅いお出ましなのね」


 私は嫌味を言ってやったわ。


「近隣の領地に視察に行っておりましたので」


 公女は言った、わかっているわよ!


 言い訳を聞きたいのではないわ。

 まず謝罪として、申し訳ございませんの一言もないの?


「あなたいつまで帝国公女でいるつもり。弟の王太子の補佐もしないで」


「はっ? 私は王太子殿下の代わりに視察に行っておりましたが?」


「そうじゃなくて帝国貴族の義姉が来るというのにもてなしの準備もしないで何をやっていたの? あなたはもうエストゥード王家の嫁なのよ!」


「王太子殿下の伴侶であっても帝国公女であり、その序列には一切変わりはありません。ホアナ様がこの王家の姫君であらせられたことに変わりはないように。そもそもフラティールご夫妻のもてなしはヴァカロ様が請け負い、大丈夫だとおっしゃたのでお任せしたのです。それがご不満ならヴァカロ様に苦情を言うのが筋かと」


「それをフォローするのが夫婦というものでしょう!」


「ええ、ですから、私はここ数週間、本来なら王太子殿下が行うべき各地の視察を代わりに行っておりました。予定としてはホアナ様達の来訪より先に決まった事柄ですし、毎年行う重要な行事でもあったので今更外すことができなかったのです。ヴァカロ様は私に仕事を任せた分、手が空いていたのですから、訪問を受け入れるなら責任をもってやっていただけると思っておりましたのに、まさかこのようなしだいになるとは」


 あくまで公女然とした態度を崩さないアレンディナに、私は怒りの臨界点がとっくに振り切れておりました。


「いいかげんいしなさい! 王太子を補佐する自分の役目も理解せず見苦し言い訳ばかりして、何様のつもり!」


 そう言って持っていた扇で公女の顔をはたいてやりました。


 アレンディナは小さく悲鳴を上げ呆然としてました。


「なんてことをするんだ!」


 夫が私の腕をつかみ怒鳴りつけました。

 なぜ私の方が怒鳴られなければならないの?


 目下の者を叱責するときに扇で軽くはたくのは貴族女性ならよくやることです。


「帰ろう」


 夫はそう言って私の腕を強く引っ張っていきました。


「申し訳ありません、アレンディナ公女殿下。このお詫びは後日いたします」


 去り際に夫はアレンディナに言いました。なぜ謝罪するの?


 夫が強引に私を連れ帰ったため、明日王宮に戻る予定だった両親の国王夫妻とは会えずじまいとなりました。


 あの公女がちゃんと弟を補佐して私の訪問の準備をすればこんなことには!


 そんな当たり前のこともできず開き直っている公女、絶対に許さないんだから!


読みに来ていただきありがとうございます。

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