熱湯中継
最近、バス血湯の苦情が増えた。
「熱くて火傷した。」「ぬるくて風邪ひいた。」
など、温度が安定しない。
「途中で湯の温度を管理する者が必要だ。」
ただ、あの世のしきたりで雇用には条件がある。懸衣翁や奪衣婆のように、あの世は男性、現世は女性しか採用しない。
とりわけ女性はうるさい。最近では娑婆組合や卒塔婆組合なるものもある。
「役職名をどうするかだが。」
「場番婆というのはどうでしょ。」
「語呂がよくない。湯場婆では?」
「どこかで聞いたような名前だな。」
公募に申し込んできたのは山姥だ。牛方や馬方を襲うという厄介者だが、仕事を与えれば悪さもしなくだろう。
湯加減の苦情は減ったが、今度はシャブを売りつけられそうになったという苦情が来た。卑弥呼はさっそく山姥の住処に使いを送った。
「どうじゃった?」
「しゃぶ始めましたとの幟が出ていました。」
調査員は小声で伝えた。
「黒で決まりだな。やつが主犯か?」
卑弥呼はいつになく激しい口調だ。
「いえ、サクラにございます。」
差し出された赤い塊には「馬しゃぶ用」と書かれていた。
「熱湯中継の馬喰系湯注婆といったところでしょうか。」




