2.運命の少女(ヒロイン)
森を抜けて城へ向かうことを目的とし、歩き続けている三人。
ジャンゴ、リバイヴ、アベンジャー。
異世界へとやって来た彼らを待ち受けるモノとは一体・・・。
それは誰にも分からない。
「そういや、さっきアベンジャーが尻をぶつけたときに痛みを感じてたよな。」
先程木から落ちたときのことである。
「ゲームキャラになったが、痛覚は感じるということだな。」
大事なことである。
これが判明したことで、その辺を注意しなければならないことを三人は理解した。
森を抜けるまでまだ時間がかかる。
その間に色々と会話をする三人。
「普通『異世界ファンタジー』ってさ、まずはどんなことをするんだっけ?」
「うーん、色々あるからなぁ・・・。」
彼らは昔読んでいた作品を思い出しながら話をする。
『異世界ファンタジー』と言っても色々ありまくり、オタクの彼らの脳内には数多の作品が浮かび上がる。
いずれも違う始まりであり、似た始まりの物語もある。
「まあ、やっぱりヒロインとの出会いは外せないよな。」
「ヒロインって誰よ。」
「んなの、俺が知るかよ。」
ジャンゴとリバイヴは勝手な会話をしていた。
完全に物語の主人公を気取っている。
すると、ジャンゴとリバイヴは前を歩いていたアベンジャーの硬い甲冑にぶつかった。
「おわぁっ、一体どうした!?」
リバイヴは前にいるアベンジャーに聞く。
するとアベンジャーは静かに一言、言葉を発した。
「道だ・・・。」
その言葉を聞いてジャンゴとリバイヴはアベンジャーの横に並ぶように前に出る。
そして二人も目にした。
明らかな砂利の道を・・・。
「おおっ、これを辿れば城へ行けるんじゃねえか?」
ジャンゴは早速砂利の道を踏み締めた。
続いてリバイヴとアベンジャーもだ。
「そう簡単に行くのか?」
だが慎重なリバイヴはそう思っていた。
しばらく砂利を踏みまくっていた三人だったが、そんな彼らの元に厄介ごとが近付いていた。
砂利の道の先から、ローブに身を包んだ人間がこちらに向かって走って来ている。
「なんだ?」
ジャンゴはこちらに向かって来ているローブの人に注目する。
すると、向こうもコチラに気付いたようだった。
しばらくしてジャンゴたちの元にローブの人物が到着した。
「た、助けてくださいませんか!!」
その声は女性で、疲れているためか息が荒かった。
ローブの女性はジャンゴたちの返答を待たず、ジャンゴの後ろに隠れるように移動した。
「あんたは一体・・・。」
ジャンゴがローブの女性の詳細を探ろうとするが、その前に次の出来事が起こった。
女性が来た方向から次々と謎の男たちが跳びながら現れたのだ。
「その女を渡してもらおう。」
奴らは黒装束を身に着けており、まるで「忍者」のような見た目だった。
明らかにヤバそうな雰囲気を三人は感じ取ったのだった。
しかしここで女性を素直に引き渡すほど三人は愚かではない。
ただのゲーマーにも少しだが勇気はある。
彼らも当然勇気を持っている。
ジャンゴは女性を庇うように前に出る。
リバイヴとアベンジャーは、そんなジャンゴを庇うようにさらに前へ出た。
理由は簡単。
「狩人」のジャンゴは接近戦に向いていないから、「武闘家」のリバイヴと「騎士」のアベンジャーが戦わなければいけない。
「ほぉう、歯向かうというのか・・・。」
黒装束の男たちは小刀を取り出して、戦闘態勢をとった。
その小刀を クルクル と回す者もいた。
「自身の選んだ運命を恨むがいい。」
その言葉と共に黒装束の男たちは一斉に飛びかかってきた。
するとアベンジャーは手に持っていた騎槍を薙ぎ払うように振った。
次の瞬間、黒装束の男たちは強風に襲われて全員が飛ばされた。
数メートルほどの距離の場所で次々と地面に落ちていく。
その中には着地に成功する者もいた。
黒装束の男たちは意外なモノを見るかのように三人を見る。
しかしすぐに次の行動に出た。
それぞれが別々に行動をし始める。
完全にジャンゴたちは囲まれてしまった。
ジャンゴは女性を庇うように注意し、アベンジャーは沢山の敵の動きにやや慌てている。
だが、リバイヴは立ち止まったまま動かない。
そうしている間に一人の黒装束の男がジャンゴ目掛けて素早く突撃してきた。
ジャンゴは反応が遅れてしまい、腰に刺している短剣に手が届かなかった。
だが、その黒装束の男の前に突然リバイヴが現れた。
まるで既にそこにいたかのように。
当然黒装束の男は驚き、若干集中力を落とす。
リバイヴはその隙を突くように黒装束の男目掛けて回し蹴りを放った。
その蹴りは見事黒装束の男の腹に命中し、吹っ飛ばす。
リバイヴは着地と同時に構えをとった。
「ぬぐぅ・・・。」
黒装束の男たちの一人が、リバイヴを危険視するかのような声を上げる。
リバイヴは構えを一切崩さない。
首に巻いている赤いマフラーが風に揺れて、その姿はまるで特撮ヒーローのようだった。
「選んだ運命を恨みやがれ。」
先程言われた言葉を、リバイヴはアレンジして言い返した。
リバイヴ、アベンジャーは周りの男たちを本気で警戒している。
少しでも動きがあれば迎撃できる気でいる。
黒装束の男たちは次々に女性を狙うが、その前にリバイヴに先回りされて撃退される。
アベンジャーも負けてはおらず、騎槍を振り回して強風を起こす。
決して殺傷しようとはしない覚悟が見える。
ジャンゴもただ守られているだけではなく、女性を守りながら周りを警戒している。
アベンジャーの攻撃とリバイヴの反撃が見事に合わさり、次々と黒装束の男たちがのされていく。
やがて全員が地面と体をくっつかせていた。
ボロボロになりながらも、なお立ち上がろうとする黒装束の男たち。
全員がジャンゴたちを睨んでいた。
引き続き戦いが始まろうとしていた。
・・・しかし、その時だった。
「!?」
黒装束の男たちは次々と後ろを向き始め、やがて全員が後ろを向いた。
ジャンゴたちに背を向けてしまっているのだ。
すると、黒装束の男たちの視線の先に、一人の女性がゆっくりと歩いて来ている。
奴らはそれに気付いたのだ。
「お手伝いさん」のようなドレスを着て、ヘッドドレスを頭につけている。
髪は黒髪のショートヘアで、毛先が青い。
まるでメイドのような美女だった。
やがてその女性は口を開いた。
「死にたくなければ、去りなさい。」
落ち着いているようで、その言葉には激しい「怒り」を感じさせる。
黒装束の男たちはそれでも引こうとはしなかった。
奴らの目の前にいる女性は黒装束の男たちに人差し指を向ける。
すると、その指先に段々と赤い「ナニカ」が現れ始めた。
次の瞬間、その赤いモノは黒装束の男たちの手前目掛けて飛んでいき、地面に当たったと同時に大爆発を起こした。
当然それを見ていた黒装束の男たちはもちろん、ジャンゴたちも呆然としていた。
攻撃を行った後、女性は場に似合わない満面の笑みを浮かべる。
「二度は言いませんよ?」
優しい言葉遣いで喋る女性。
だが、それが逆に恐怖を感じさせた。
黒装束の男たちは「生命の危機」を感じ取ったのか、なにも言わず素早く森の中に跳んで行き、ジャンゴたちの前からいなくなった。
メイドのような女性はジャンゴたちに近付く。
「姫を助けていただき、本当にありがとうございました。」
女性はジャンゴに向かって丁寧にお辞儀をしながらお礼の言葉を伝えた。
しかし、ジャンゴたちは「ナニ」に対して言っているのか理解できておらず、オロオロしていた。
だが、すぐに分かった。
「ルナ!!」
ジャンゴの腕を握っていたローブの女性は、握っていた手を離してメイドのような女性のもとへ走る。
そして彼女に抱きつくと同時にローブのフードが脱げた。
フードの下に隠れていた顔が露わになった。
ストロベリーブロンドの美しいサラサラの髪を持つ、綺麗な美少女だった。
「姫様、よくぞご無事で・・・。」
「ごめんなさい、ルナ・・・。」
「ルナ」と呼ばれたメイドのような女性は、「姫」と呼ばれた少女の髪を撫でながら抱きしめている。
この光景を見て、ジャンゴたちはなんとなく理解した。
自分たちが助けた少女の正体は、どこかの「お姫様」だったということだと。
「ルナ」と呼ばれた女性は三人を見ると、先程まで黒装束の男たちに見せた不気味な笑みではなく、優しさを感じる笑みを見せた。
「改めて、本当にありがとうございました。」
「ルナ」と呼ばれた女性の胸から少女が離れると、少女は涙を拭いながらジャンゴたちの方を向く。
「こちらは『ドラクセイ王国』の王女である "クロエリア・ホリエル" 様でございます。」
「ルナ」と呼ばれた女性がそう言い終えると、王女はしっかりとお辞儀をした。
ジャンゴたちはいつのまにか横一列に並んで聞いており、王女がお辞儀をすると、コチラもお辞儀を返した。
「なんだか凄いことになったなぁ・・・。」という考えが三人の頭の中に入っており、思わず苦笑いをしてしまっていた。
「私はクロエリア様の侍女をさせてもらっております "ルナリス・メリア" と申します。」
今度は侍女の方がお辞儀をして、ジャンゴたちも再びお辞儀をする。
ジャンゴたちはゲーマーであるが、それ以前に成人男性である。
こういうところは意外とちゃんとしている。
「失礼ですが、あなた方は一体・・・。」
ルナリスと名乗った侍女とクロエリア王女が三人を見比べる。
それに対して三人は若干焦っていた。
まず、『異世界転移』のことを話してしまうと色々厄介なことが起こってしまう可能性があるため、秘密にしなければならない。
故に、自分たちの設定を今ここで考えなければならないのだ。
そしてなにより、童貞である三人は女性に対して免疫はなく、ましてや美女と美少女に見つめられているこの状況に緊張してしまっているのだ。
で、ここで声を上げたのが基本慎重なリバイヴだった。
「立派な戦士になるために田舎を出て、旅をしているのです。」
リバイヴは襟元を整えるような仕草を見せながらそう説明した。
もちろん「嘘」である。
ジャンゴとアベンジャーも「そうです。」と話を合わせた。
ルナリスとクロエリア王女は「ほう。」という表情を見せる。
どうやら話を信じたようだ。
余談だが、今ジャンゴたちの背中は汗だくになっている。
「あの、お名前をお聞きしても・・・?」
今度はクロエリア王女の方が聞いてきた。
さすがに名前を教えるくらいは簡単である。
三人はそれぞれ順番に名乗り上げ、クロエリア王女はそれを聞いてとても満足そうな表情をしていた。