手、つないで
城はとても古かったが、定期的に手入れされているようだった。
リコとキトエは食堂に移動して、やったことのない料理をした。食材は事前に運びこまれていたが、料理をしたことのないふたりなので、具材の大きさはばらばら、硬い、焦げる、味が濃すぎると散々なものができあがった。今後の料理も先が思いやられる。
けれどリコは、とても楽しかった。とても幸せだった。
酷い夕食を何とかたいらげたあと、ふたりで庭へ散歩に出た。
昼間、空とつながっていた花畑は、夜空とつながって紺色に沈んでいた。明日満月になる月が花の輪郭を浮かばせる。そのまま湖のほうへ回ると、さざなみもない水面に月がくっきりと映っていた。草と、水がほのかに香る。
「ねえキトエ」
「何だ?」
「手、つないで」
リコが立ち止まってキトエに手をさし出すと、月明かりだけでも分かるほどキトエは都合の悪そうな顔をした。
「主に気安く触れるのは」
「主じゃなくて恋人でしょ。こ・い・び・と! 愛してるって言ったくせに。うそだったの? もてあそんだの?」
「違う、そういうわけじゃ」
「じゃあ、はい」
さし出した手を近付けると、キトエはすごく困った顔で、ためらって、手を取った。それでもリコは嬉しくて、手を握って微笑んでしまう。キトエの手は温かい。
手をつないで、湖畔を歩いていく。
「もし湖に飛びこんでも、深いから何だか助かりそう」
湖には静止した月が映っている。キトエは何も言わなかった。
「ごめんね。何でもない」
キトエの表情は確かめなかった。
あさって、月の割れる日、リコは城の頂上から水色の花畑へ飛び降りなければならないのだから。