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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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最終話




新緑の季節。


一年で一番気候がいい時期だ。



今日は王太子ハルトヴィヒと、侯爵令嬢エルメンヒルデの結婚式の日。

晴天に恵まれ、上を見上げるとどこまでも青い空が続いていた。


王都では町中がお祝いムードにわいている。


白いドレスを纏った美しい花嫁と、幸せそうに笑う美しい王子の結婚は、皆に祝福されている。




幸せな2人以外の結末からお話ししよう。



王に毒を盛り殺害しようとしていた罪と、黒妖精の封印を解き人々を危険な目に遭わせた罪で、王妃は死刑になることが決定した。



「ねえ、あなた。私をここから出してくれたら、好きにしていいわよ? ねえ。私は王妃なのよ。ありがたく思いなさい? あら、私、わたし、は……そう、侯爵令嬢になったの。王と結婚するために侯爵家に養子に入ったのよ。もうただの子爵令嬢じゃないの。母が、母が見初められたのよ。子爵様に見初められて今度ね、大きなお屋敷に住むことになったのよ? もう、あんな生活しなくていいの。母は娼婦だったから、いろんな男と寝ていたわ。父親は誰かわからないんですって。ふふっ。でももう、そんな生活……しなくていいのよね? ふふふ。ここは快適だわ。きちんとご飯も食べれるし、ベッドで寝れる。ああ、そうね。ふふふふっ、あの頃に比べたら、ここは天国ね。あははっ!

ち、違うの、あの女、言われたのよ。王に毒を盛れって。王子を殺すのは危険だから王が、今死ねばジークムントが……? え? 誰、誰って……だれに、いわれたのかしら?」



今はまだ、地下牢で刑の執行を待っている。



王妃が養子として入っていたベルク侯爵家は、次期王に忠誠を誓うとして取り潰しを免れ、現侯爵が退き息子がその地位を継いだ。




第一王子ジークムントは、使用人や侍女として仕える貴族の令嬢を無理やり姦淫した罪で強制労働施設に送られることになった。



「私は悪くないだろう。なぜだ? 我が王子宮にいるものは皆私のものだろう。王子のお手つきになれたと喜んでいるはずだ。

なに? 強制労働だと? はっ! 馬鹿を言うな。なぜ私が……………


こんなっ、こんなこと王子の私がするわけないだろう! なんだ? 文句あるのか? ぶひゅるがっ?!! や、やめろ、私に手を出してタダで済むどぼがづっ!!! ひっ……く、くるなっ! 何をしようとしでべげばっ!!!」



文句を言えば殴られを繰り返した結果、大人しく仕事をするようになったとか。




そして、第一王子の婚約者であったグビッシュ侯爵家のイゾルデ令嬢は、王妃になることを夢見てガツガツしていたが、憑き物が取れたようにおとなしくなってしまった。



「お父様、我儘をお許しください。私はもうこれ以上、俗世では生きていける自信がありません。誰かに嫁いで子をなすことが侯爵家に生まれた女の役目だとわかっています。ですが私は…………

祈りを、捧げたいのです。国のために出来ることは、もうそれしかないのです。」



今後は、修道院に入り国の安寧を祈るという。




側妃ガブリエレは、幼い頃から婚約していたエグモントとの結婚に割り込んで王妃になったフリーデを憎んでいた。

また、自分を側妃でもいいからとそばに置いたエグモントのことも、殺したいほど憎んでいた。

せめてフリーデとの結婚が成った時点で手放してくれれば、違う幸せを得られたかもしれない、と。


しかし今後は、王太子の母、つまり王の母になる。


王妃は死刑。エグモントはガブリエレを愛していると言うが、ガブリエレはもう彼を愛していなかった。


ガブリエレは、じわりじわりと復讐を果たすのを生き甲斐にするそうだ。











「やはりきれいですわ。」


「エルもとてもきれいだよ。」


「私たちは、幸せになりましょうね。」


「そうだね。君と、この国と、幸せになろう。」


「ええ。」



2人は明るい未来を思い描く。



「ハルト様っ」


「ん?」


「大好きですわっ」


「っ……! 私も、大好きだよエル。」




数年後にハルトヴィヒが即位すると、ハイディルベルク王国建国後、初めて西の大国デンシュルク帝国と同盟が成った。

北の魔国ダルゲシュアンとも同盟を結ぶべく、国の中枢は奔走している。


南のビットとは友好関係が続いていて、即位後の落ち着いた頃に行われた王夫妻の慰安旅行のときには、水着ではしゃぐ王妃エルメンヒルデと、それを人目につかないようあくせくする王ハルトヴィヒが見れたとか。



侯爵家令嬢つきの護衛から王妃の護衛になったヴィリ、グレータ、ディルク、イーナ、ハイノは、エルメンヒルデの護衛を務めつつそれぞれ後輩の指導に当たっているらしい。




ハイディルベルク王国は、緑の妖精王の特別な加護を持つらしい――。


その噂が事実であるかのように、ハルトヴィヒの治世では、各地で農作物の生産量が上がり、国が潤っていった。











妃が毒を盛っている。


~完~






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