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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第五話 深淵の森

だいたい予想通り、ハノーファーの町を出発してから2時間が経とうという頃、深淵の森に足を踏み入れたエルメンヒルデたち。


深淵の森といえばその名の通り、奥深く底知れない場所だ。

地図を作ろうにも、森自体が動いているのかすぐに目印を見失ってしまうため、全貌は解明されていない。


地図は作れないが方位磁針は利くので道はわからなくなっても帰ることはできる。

南から入ったならばひたすら南下すれば森から出ることができるというわけだ。


そんなところになら、妖精も生息している可能性が高そうだ、とエルメンヒルデは心躍っていた。



「ふふっ、いるかしら、妖精。」


「今回は実際『妖精』を見たっていう話ですからね。いるんじゃないですか?」


「そうねヴィリ。楽しみだわっ」



『妖精に会った』と言った兵には会えなかったが、ここまでしっかり妖精と認識されていた情報はなかなかない。エルメンヒルデの期待値は相当高かった。



以前、唯一話せた妖精が教えたくれた『妖精王』の存在。とてもきれいな妖精王に、いつか必ず会えると信じてエルメンヒルデは各地を回っている。


妖精王は妖精の居るところに現れる、と言っていたので、この森に妖精がいれば、妖精王にも会える可能性があるのだ。



「お嬢、先を歩かない。」


「あ、ごめんなさい。ついつい早る足が言うことをきかなくて。」


「先頭はヴィリ、エルメンヒルデ様とイーナは真ん中で私が最後尾です。しっかり守ってください。」


「はいごめんなさい。」



グレータは、真面目だった。決められたことはそうするのが当然と思っている。彼女にとって隊列を乱すなど理解できないことなのだ。



「魔族が出現する可能性もあるのです。充分注意してください。」


「はい。」



グレータは基本エルメンヒルデ信者だが、押さえるところはきっちりと押さえている有能な護衛だ。きちんと言うことを聞こう、という気になるようで、しっかりと返事するエルメンヒルデだった。



「思ってたより暖かいね。」


「そう? イーナは寒さに強いからね。」


「エル様は寒い?」


「そうね。しっかり着込んできたけど少し寒いわ。」


「じゃあ手つなぐー。」


「あら、そうね。お願いするわ。」



そうしてしばらく歩いていると、水場が近いのか、空気中の水分量が多い湿った場所にきた。気温も下がったようだ。エルメンヒルデたちが移動してきて空気の層が混ざりあったためか、霧が出てきた。



「お嬢、離れないで。」


「……?」


「エル様ー?」



ヴィリが声を掛ける。



最後尾のグレータの視界にはすでにエルメンヒルデが見えていない。



エルメンヒルデと手を繋いで歩いていたはずのイーナだったが、その右手にあった感触が消えた。

不思議に思い右上方を見るイーナ。しかし、エルメンヒルデの姿を捉えることができない。



「??」



霧が濃いためか、イーナはエルメンヒルデがいたはずの辺りを手で探ってみるが、指先に触れるものはない。



「イーナ、エルメンヒルデ様は……?」


「いない……。」


「いない?!」



ヴィリが驚いて振り向くと、ブワッと風が吹いて、今までそこにあった霧が一斉に晴れていった。







「?」



フッと体が浮くような感覚が一瞬あったが、今の突風のせいかな? と自己完結したエルメンヒルデ。



「すごい霧だったわね――……??」



エルメンヒルデが振り向くと、霧は晴れて視界は良好だが、そこには誰も居なかった。イーナと繋いでいたはずの手も離されている。


きょろきょろと見回すが、グレータもイーナもヴィリも居ない。



「あら? はぐれたのかしら。」



たったひとりで深淵の森にいるというのに、あっけらかんと言うエルメンヒルデ。まるで焦っている様子がない。

エルメンヒルデは、どんなときでも駆けつけてくれる護衛を信頼しているので、はぐれても絶対見つけてもらえると思っているのだった。


しかし実際は無茶な話で、今護衛たちはいきなりいなくなったエルメンヒルデをどうやって探したらいいのかわからず混乱しながらとりあえず辺りを駆け回っていた。



「護衛対象を見失うなんて、護衛失格ね。はーやーくー、みつけーてー、くーださーいーなー……っと。」



変な節をつけて護衛を呼ぶエルメンヒルデ。少しは怖いと思っているらしい。気を紛らせているのだ。



「美しき乙女よーー」


「えっ?」



そんな時に突然声をかけられるものだから、内心めちゃくちゃ驚いたエルメンヒルデだったが、なんとか「えっ」のひと言で抑えたのは侯爵令嬢としての矜持だろう。



「だ、れ?」


「私は――」



その耳に届いた声は、少し高いが優しく、とても心地の良いものだった。

エルメンヒルデが辺りを見回すと、ふわっと強い光が舞った。



「きゃっ!」



思わず顔を腕で庇うエルメンヒルデ。

少しの風を感じたあとすぐに向き直ると、そこには、エメラルドグリーンの美しく長い髪を持ったきれいな男が立っていた。



「あなた、は。」


「初めまして乙女よ。我はユストゥス、緑の妖精王である。」


「ようせい、王……さま。」



エルメンヒルデはユストゥスをぼぅっと見上げて言った。



「やっと、お会いできました……っ!」


「…………ほぅ。」



苦節何年、やっと会えたことが嬉しくて、満面の笑顔を妖精王に向けるエルメンヒルデだった。








一方その頃王宮では、異変が起こっていた。



「なんだ? 何かあったのか?」


「王の容体が急変したという話だ。」


「王が? ……いよいよか。」


「ああ、我々も身の振り方を考えなくてはな。」



王の容体が急変。その知らせは、貴族連中にあっという間に広がった。







王の部屋には、側妃ガブリエレの姿があった。

寝台には王が横たわっている。顔色は青白く、呼吸も浅い。


王は目を開けてガブリエレを見たが、すぐにまた意識を失った。



「エグモント様……」





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