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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第四十一話 褒められすぎても居心地悪い




王の寝台に寝かせていたジークムントは目を覚まし、周りにいた貴族連中に驚き暴れ出した。ハルトヴィヒが事態を説明するも、剣に手をかけようとしたので危険と判断し、捕縛された。



「なんなんだ、いったい……私は部屋で、女に囲まれて……いや、廊下で? エルメンヒルデがいて……?」



記憶が混乱しているようだ。


一方で王妃は、暴れる気力もないようで、大人しくしていた。王はそれに寄り添っている。



「そうよ、そもそもあなたが……あなたがハルトヴィヒの成人前に死ねば、王位はジークムントのものだった。」



ぽつりと話し出す王妃。その言い方から、『王が死んだら得をするもの』はやはり王妃のようだ。



「だから毒を盛ったと?」


「そうよ! ゆっくり蓄積すれば病気のように見えるからって……ダチュラを……。」



王妃は自白した。


王に毒を盛って殺そうとしたことを。



「お前だったのだな、フリーデ……。」


「っ!」



室内には長い沈黙が降りてきた。




しばらくすると、靄に倒されていたものたちが起き上がり宮内が騒がしくなる。


王の部屋の異常を察知して、宮兵が何人かやってきた。



「陛下!」


「……ああ、大事ない。」



この辺りの宮兵たちを倒したのは王妃だったことから、やってきたものたちは皆警戒している。



「王妃フリーデは、黒妖精の封印を解きその力を使って私とハルトヴィヒを弑逆せんとした。」



「なんと!」

「「(ざわざわ)」」



王の声が皆に届く。



「加えて、私の先の病に関与していることも自白した。よってその罪は、裁かなければならない。」



国の引導者である王として、毅然とした態度で続ける。



「王妃フリーデ及び、第一王子ジークムントを牢へ幽閉せよ。処分は、追って伝える。」


「「はっ!」」



そして2人は、宮兵に捕らえられた。



「はっ、離せ! 私は王子だぞ無礼者め!!」


「ちくしょう………ちくしょおぉぉぉおお!!!」



以降、牢に入れられ沙汰を待つことになる。







王と第二王子、そして貴族たちを救出し、ジークムントと王妃と戦い黒妖精まで封印したエルメンヒルデたちと妖精王は、王宮の一室で休んでいた。



あれから、黒妖精の力で王妃が、気に入らないといって攻撃し倒れたものたちは、黒妖精が再び封印されその力が消えたおかげで意識を取り戻した。体に異常もないようで、家族に無事を知らせ、そのまま職務についていた。



「いやーよかったですね。」


「そうね。」


「俺、大活躍じゃないですか?」


「そうね、ヴィリ。すごかったわ。」


「ご褒美あります?」


「帰ってから考えるわ。」



黒妖精の力を借りて黒い靄を操る第一王子と王妃を、ほぼほぼひとりで倒したヴィリ。

黒妖精と妖精王の戦いのときも、エルメンヒルデに傷ひとつつけずにいたし、なんなら虹色の玉のことを思い出したのもヴィリだ。


それは特別手当ものだろう。



「私にもある?」


「ユストゥス様にも欲しいものがあるのですか?」


「私もヴィリみたいに剣で戦ってみたい。」


「え、俺?」


「そう。両手に剣持って、あのくるくるって回転して切ったやつ。」



短刀を両手に構えて素早く回転斬りを繰り出したヴィリがよほど印象に残ったらしい。



「ああ、第一王子んときね。やったやった。」


「あれ、かっこよかった。」


「あ、そう?」


「確かに、ヴィリの戦い方ってなんだか、かっこいいのよね。」


「えっ、そうです?」



突然、エルメンヒルデにまで褒め言葉をもらい、慌て出すヴィリ。



「そうそう。グッと距離詰めるときのスピードの出し方とか。」


「わかりますわ。」


「え、なにこれ誉め殺し?」


「私もヴィリはかっこいいと思うよ。」



ひと段落ついたのか、ハルトヴィヒがやってきて話に乗ってくる。



「ジークムントを床に倒したときは思わず拍手しそうになったよ。」


「え、新しい嫌がらせ?」



普段そんなに口に出して褒めてもらえることがないので警戒するヴィリだった。



「本心だよ。」


「ええ。」


「そうだね。」



謎の一体感が芽生えた。



黒妖精が封印され皆が目を覚ましたことから、急ぎフロイデンタール家に使いが行き、公爵と側近であるシュティルナー侯爵、宰相マーベル侯爵は王宮に集まっていた。


ハルトヴィヒは、今回の事件を受けて、早々に王太子になると発表されることになった。そして、エルメンヒルデとの結婚も早まることに決まったようだ。



「王家のものが起こした事件だからね。早くいいイメージで回復しないといけないから……。」


「そんな顔なさらないで。私は嬉しいです。結婚が早まって。」


「えっ、ほんとうかい?」


「ええ。もちろんですわ。」



わかりにくいかもしれないが、エルメンヒルデはハルトヴィヒのことが好きなのだ。


今回のことで結婚が遠のいたり、最悪婚約破棄になる可能性すらあった。


王家の醜聞として、公爵家に王位が回ることだってあり得たところ、現王家のイメージ回復を、ということになったのだから、ハルトヴィヒとエルメンヒルデにとっては良い結果になったと言えるだろう。



「王妃とジークムントについては、後日議会を開いて処分を決めるということになった。」


「そう、ですか。」


「君たちにも呼び出しがかかると思うから、よろしく頼む。」


「はい。」



まだ名残惜しい空気ではあったが、エルメンヒルデたちは侯爵邸に帰ることになった。



すでに帰宅していたオスヴァルトとフィーネがエルメンヒルデを出迎え、今回の事件が無事に済んだことを喜んだ。


そしてヴィリも、これでもかと皆に労われる。



「え、俺死ぬの?」



そう言って戸惑うほどに、皆から称賛の言葉を浴びせられた。





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