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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第四十話 vs黒妖精




続・王の私室での戦い~黒妖精編~に突入しそうなエルメンヒルデたち。

封印を解かれた黒妖精の望みは、人間の虐殺だ。


もちろん黙認できるものではないが、人外との戦いはさすがにヴィリひとりには荷が重すぎた。しかしこの場でほかに戦えそうなのはハルトヴィヒくらいで、王子だし次期王だし、戦わせるわけにはいかなかった。



「ヴィリ……」


「いや無理ですって無理、やりません。」



うるっとした目で見てくるお嬢可愛いな、なんて思いつつも、基本的にどうにかならないことまでどうにかする気はないヴィリなので、バッサリ断った。



「まあさすがにね。私が相手になるよ。」


「ユストゥス様!」


「戦ってくれるのかユストゥス。」


「そうだね。人間は人間同士と思って手は出さなかったけど」



実際はエルメンヒルデを守るためちょこっと風を出していたが。



「相手が妖精なら私の範疇だからね。」



やる気はなさそうだが、黒妖精の相手は緑の妖精王がしてくれることになったようだ。

妖精王が前に出て、ヴィリたちは下がる。



「後ろの守りは任せたよ、ヴィリ。」


「ああ。お嬢には傷ひとつつけないぜ。」


「頼もしいね。」



妖精王が黒妖精と対峙する。


ちなみに、黒妖精もそれはそれは美しい姿をしているが、エルメンヒルデは自分を正とした場合の悪には徹底的に抗うので、黒妖精がいくらきれいでも心惹かれたりはしないのであった。



「さて、どうしようか。」


「緑の妖精王。人間の側についたのか?」


「そうだね。美しいものが壊されることは望まない。」


「美しいもの……そちらのお嬢さん?」


「うん。エルメンヒルデの魂の美しさは私でも心惹かれる。」


「そうか。」



それならば、とエルメンヒルデに向かって攻撃を仕掛ける黒妖精。

しかし妖精王はその攻撃を、自分を通り過ぎる前に弾いた。



「彼女を傷つけることは許さない。……まあとりあえず、人間を攻撃するのは私を倒してからにしてくれないかな?」


「どのみち邪魔されるなら、それがいいか。」



緊張感のないやり取りをしているが、その攻防戦はなかなかのもので、後ろに飛んでくる風圧を防ぐのになかなか苦労している。



「こんな狭い場所で、よくやるよ。」


「何かお手伝いできればいいのだけれど……。」


「なんかアイテム持ってます?」


「そうね、確かめるわ。」



ひょっとしたらポシェットに何か、とエルメンヒルデは中身を確かめる。



「黒妖精の封印って、虹色の玉があればいいんだったかな?」


「ああそうだね。」


「どこにあるの?」


「知らない。いつの世も、どこからか見つけたそれを持って、勇者が現れる。」



黒妖精を封印するのに使われる虹色の玉。使われると消えてなくなり、新たにどこかにひとつ、誕生する。


流れとしては、このようになる。


黒妖精の封印が解かれる。

封印を解いたものの願いが叶う。

黒妖精が人間を虐殺し始める。

倒そうという勇者が現れる。

封印の玉を探す旅に出る。

封印の玉、見つかる。

黒妖精に挑む。

玉使う。


封印に成功!


今回はまだ黒妖精の封印が解かれたことが明らかになったばかりだ。誰も玉を探していない。



「ってことは、一旦離脱が正しいってことですかね。」


「そう、ね。あら?」



ポシェットを漁っていたエルメンヒルデ。手に当たったものを取り出してみると、それは小さなガラス玉だった。



「これ、なんだったかしら。」


「ん?」



ヴィリもその手元を覗いてみる。



「ああ、これあれですよ。」


「知ってる?」


「ええ。ほら、何年前かの第一王子の誕生日んときにダルゲシュアンの氷像が飾られたでしょ?」


「ええ、あったわね。」


「そのとき、氷が溶けかけてて飾りの一部が落下して――」







「きゃあっ……!」


「あっ、ぶな!」



落ちてきた氷がエルメンヒルデに当たる直前、ヴィリの短刀が氷を弾く。

氷は砕け散り、空中で霧散した。


そのとき、エルメンヒルデの足元に小さなガラス玉が転がり落ちた。



「あら?」



それを手に取るエルメンヒルデ。親指と人差し指で摘んで光にかざすと、キラキラ光ってとてもきれいだ。よく見ると、玉の中で虹色がゆらゆらと揺れている。



「きれいね。」


「ほんとだ。」



ヴィリも一緒になって覗いていた。


その後、やってきた第一王子に氷像があぁ!と怒られたが、むしろ怪我人を出さなかったことを褒めてもらいたいと思ったのを覚えている。







「あの時の。」


「そうそう。きれいだわーって持って帰ったやつですよ。」



デンシュルクから運び込まれた、北の氷山の千年氷の中にあった虹色が揺れる玉。


ハッとして、2人は顔を見合わせた。



「「虹色の玉!」」


「え?」



その声に妖精王が振り向くと、エルメンヒルデは玉を掲げて妖精王に見せた。



「ユストゥス様っ!」



妖精王がエルメンヒルデの手元に注目すると、小さな玉を持っているのが見えた。



「ん?」


「虹色の玉っ?!」



しかし小さくてガラス玉のようなもの、としかわからなかった妖精王。それより奥から黒妖精は、それが自分を封印する虹色の玉だと気づいた。



「なぜここにある?!」



動揺する黒妖精。


まだ、人間のひとりも殺していないのに虹色の玉が出てきてしまったのだ。テンプレ無視も甚だしい。


そもそもまだ封印を解いてくれた王妃の願いすら叶っていないのだ。


誤算は、人間側に妖精王がついていることに尽きるだろう。



「待て、待ってくれ緑の!」


「駄目だよ。君はエルメンヒルデに手を出そうとした。」


「わ、わかった。この国には手を出さないと約束しよう。」


「そういう問題ではありませんわ! 共存できない存在というのならば、あなたはこの世界に居てはいけない!」


「と、彼女がこう言っているから。」


「なっ、待っ……!!」



エルメンヒルデが前に進み出て妖精王に虹色の玉を渡す。


妖精王は、その虹色の玉を受け取り、……受け取り………首を傾げた。



「どうすればいいの?」


「だ、だめだ、待ってくれ。それを割ると虹色の靄が出てきて私を包んでどこかの箱に封印されてしまう!」


「そう。割ればいいのか。」


「あっ……!!」



使い方がわからず頭をひねる妖精王だったが、気が動転していたのか、黒妖精は自ら使い方を教えてしまった。


あっ、と気づいたときにはもう、妖精王はガラス玉を床に叩きつけていた。


すると、割れたガラス玉から虹色の靄がゆらりと出てきて、黒妖精に狙いを定めあっという間に覆ってしまった。



「おお。」


「きれいね。」


「ああ。美しいな。」



黒妖精を覆った虹色の靄は、倒れていた王妃とジークムントからも黒い靄を吸い上げた。


やがて2人から靄が出なくなると、虹色の靄は王の寝室にあった箱を開け、その中に入ると蓋が閉まる。



「あっ」



そしてその箱は、一瞬眩く光り、それが消えると『封印』の札が貼られ、見た目は普通の箱に戻った。



「父上?」


「いや、なんでもない……。」


「しかし、……重要なものが入っていたのでは? 大丈夫ですか?」


「ああいや、大したものではないのだ。」


「すみません陛下。」


「虹色が勝手にあの箱を選んでしまったのだ。王よ、あの中身は?」



つい声を出してしまった王に反応して、ハルトヴィヒは箱の中身がよほど大切な、重要なものだったのかと思ったが、王は言葉を濁した。


しかし妖精王にまで聞かれては、答えないわけにはいかなくなった。



「……お気に入りの………ガウンだ。」


「ああ、それならいいね。……ん? いい?」


「……問題ない。」



なんだかいたたまれない空気が流れた。



「シュトール商会から、肌触りのいいものをお持ちしますね。」


「……ありがとうエルメンヒルデ。」


「なっ、なんだお前たちは!」



この空気、どうしよう? というところで、寝台からジークムントの声がした。どうやら目を覚ましたようだ。



「ジーク、ムン、ト……?」


「フリーデ。」



床に倒れていた王妃も、目を覚ましたようだ。





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