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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第二十九話 ブラントの町




バルトロメウスを見送ったあと、まだ昼の時間だったので、どうせならこの国境の町ブラントでも名産品を見ていくかということになりエルメンヒルデたちはどこを回るか話し合っている。



「ブラントは川沿いの町で、ウナーギという魚が旨いぞ。」


「まあ、辺境伯様。それは良い情報をいただきました。お昼はウナーギにしましょう。」



辺境伯の勧めで、さっそくウナーギの店に入るエルメンヒルデたち。焼けたタレの香ばしい匂いが食欲を刺激する。

案内され席に着くと、美味しいもの好きなイーナが率先して注文していく。



「タレも旨いが白焼きというのも絶品でな。」


「エル様、全部いっていい?」


「そうね。皆で食べましょう。」


「やったー!」



ブラントの町はケルンから馬車で数時間のところに位置する。護衛は、イーナとヴィリが同行していた。



「ウナーギには、疲労回復や風邪予防の効果もあるし、肌や髪、骨にもいい栄養が詰まっていると言うぞ。」


「それは素晴らしいですわ。」


「美味しくて栄養満点なのね!」


「いやー、お嬢がこれ以上きれいになっちゃったら大変だ。」


「胡散臭いわね。」


「本心です。」



感情がこもっているような言い方をしてはいるし、ヴィリはいつもエルメンヒルデのことをきれいきれいと言っている。しかしなぜか本気に思えないのは、大袈裟に言い過ぎだからだろうか。



ウナーギのほかに、棕櫚で作った箒が名産であると辺境伯が話してくれた。


棕櫚の木は、乾湿陰陽の土地条件を選ばないうえに、耐火性にも優れている強健な樹種で、管理に手間がかからないという。

その棕櫚の木の幹の皮を使って作られた箒が棕櫚箒である。

同じ木の皮であっても、皮自体の繊維の太さや質、使用する部位、製法により耐久性や掃き心地が異なるのである。



「素晴らしいですわ。」


「よければ、工房を紹介しようか?」


「ええ。ぜひお願いいたしますわ。」



次の行き先が決まった。


そうこうしているうちに、次々とウナーギ料理が運ばれてくる。

タレをつけてじっくり焼いたウナーギがどんと乗っているウナー重、といた玉子でタレ焼きウナーギを巻き込んで作ったたまごウナー巻き、骨を揚げたものやウナーギの肝入りスープもある。タレをつけずに焼いた白焼きは、塩やジョウユでいただく。



「タレがー! 美味しい! ツヤツヤしててウナーギはフカフカ!」


「うまっ、こりゃあご飯に合うな。」


「このスープは初めていただいたわ。お出汁の味がしっかりしていて、濃いめのウナーギのタレをほどよく中和してくれて……とても美味しいわ。」



各々に感想を述べていく。

それを聞いて辺境伯は、満足げに笑った。


そのあともどんどん出てくるウナーギ料理に、皆で舌鼓を打った。




昼食を終えた一行は、棕櫚箒の工房を訪れしばらく見学していた。すると、見た目も実用性も気に入ったエルメンヒルデは、工房主に王都のシュトール商会での販売を薦めた。

もしその気になったら連絡をしてくれと言い残し、箒をいくつか購入し店をあとにする。


良い商品に出会えてご機嫌なエルメンヒルデ。馬車に乗り、ブラントの町を後にした。




「そろそろ王都に帰りましょう。」


「お、さすがにハルトヴィヒ殿下が恋しくて?」


「……そうね。会いたいわ。」


「えっ、素直。」


「ダメだよヴィリ。ツッコミのグレータ今いないんだから。」


「あ、そっか。」



茶化したつもりだったが真面目に答えられて遣る瀬無いヴィリだった。


実際、特に表には出さないが、エルメンヒルデはちゃんとハルトヴィヒのことを想っていた。


初めて会ったときに一目惚れし、その後も一緒に過ごすうちに彼のことを知り、尊敬し、その気持ちは大きくなるばかりだった。


だから茶化されたとはわかったが、素直に会いたいな、と思ったエルメンヒルデはそれをそのまま口に出したのだ。



数週間の遠征は終わりを告げる。



まもなく、エルメンヒルデは王都に帰還する。






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