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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第二十七話 第二王子ハルトヴィヒ




この国の第二王子として、側妃ガブリエレの息子として生を受けたのが私、ハルトヴィヒだ。


幼い頃から本が好きで、自然と色々な知識を吸収してきた。絵本や恋愛物語、歴史書や政治経済について、世の中にはたくさんの本がある。ありがたいことに王家に生まれた私には、知識欲をたっぷり満たしてくれる本が身近にたくさんあった。

勉強も、するだけ喜ばれるので外国語もぐんぐん上達し、他国の本も自分で読めるようになった。それはさすがに、もう10歳くらいにはなっていた頃だったかな。



まだ幼かったある日、とてもきれいなお姫さまが出てくる本を読んだ。あれはどこの国のものだっただろうか。挿絵はなかったので自分で想像したんだ。さらさらと風になびく長い髪、宝石のようなキラキラした瞳、月のように落ち着いた美しい笑顔。


きっと、お姫さまってこんな感じなのだろうな、と。


それから数日後。

母が、従姉妹であるシュティルナー侯爵夫人のフィーネ様と、お茶をするというのでついていった。そこには、同じ年齢の女の子がいるのよ、と母は嬉しそうに言っていた。


侯爵邸の門をくぐると、前庭には色鮮やかな花が並んでいた。チューリップという花だと母は教えてくれた。赤、黄色、ピンク、白や紫もある。とてもきれいな光景だったことを今でも覚えている。

といっても、春になれば毎年見れるのだけどね。


そして、馬車を降りてティールームに案内されると、そこで運命の出会いをしたのだ。



「いらっしゃいガブリエレ。」


「お招きありがとう、フィーネ。会いたかったわ。」



側妃となった母はは、親戚といえど気軽に会えるものではない。2人は久しぶりの再会だったらしい。



「あら、とても可愛い子がいるわ。」


「ふふっ、ご挨拶なさい。」


「こんにちは側妃様。シュティルナー家が長女エルメンヒルデです。」


「まあ、上手にできたわね。ほら、ハルトヴィヒ。負けていられないわよ?」


「……………」



フィーネ夫人の後ろからひよこっと現れて見事なカーテシーを披露した女の子、エルメンヒルデ。


これが、彼女と初めて会ったときの記憶だ。


私は、その姿に見惚れて何も言えずにいた。

せっかく挨拶してくれたのだから、何か言わなければと焦っていた。そこで出た言葉が――



「「きれい」」



見事にエルメンヒルデとかぶったのだ。


彼女も、私を見て目を輝かせ「きれい」と言ってくれた。


それがとても嬉しくて、とにかく彼女と話をしたくて、いろいろな知識を総動員して話題を振っていった。


中でもエルメンヒルデが好きだという妖精の話になると、とても可愛い笑顔がたくさん見れるので、私も本で読んで知っている妖精についての話をした。

私が本を読み漁っていた王宮図書館にある本や資料は膨大な量で、エルメンヒルデが知らないようなこともたくさん話せた。

その度に目を輝かせて見てくる彼女が、可愛くて仕方なかった。


侯爵邸から帰っても、その想いは薄れることがなく、私は母に相談した。

エルメンヒルデと結婚することはできるのか? と。


私は第二王子で側妃の子ども。政略的な結婚をすることももちろんあるだろうしそれも王族、貴族の義務だと理解していた。


だから、エルメンヒルデとの婚約が許されたときはほんとうに嬉しかった。

彼女は母方の親戚でフロイデンタール公爵家の血を引いている。母の後ろ盾でもある生家なので、問題はないということだった。

それに加えて、幸か不幸か近隣の国に、年齢が釣り合う婿入り先も無かったことから、外国との政略結婚も組まれなかった。


5歳のときに婚約してから今まで共に励んできた。

彼女は妖精探しに買い付けに、と王都を離れることも多々あるが、良好な関係を築いてこれたと思う。



王妃の息子であり第一王子のジークムント。彼が、最近エルメンヒルデに懸想しているようで厄介だとは思っている。


今回、彼女らが疫病対策でアーヘン村に向けて発ったあと、ジークムントは何も届けを出さず近衛隊を連れて追行していったという。


ジークムントが勝手をしたとして、近衛隊は王宮騎士団所属の騎士たちなのだ。彼らは当然上官に報告を徹底しているのだから、彼の旅の工程はすべて報告されている。


エルメンヒルデを追っていったというわりに、女性と宿にこもっていたというのだから呆れるしかない。あいつはいったい、何がしたいのだろう。


王妃の後ろ盾であるグビッシュ侯爵の令嬢と婚約もしているし、たとえジークムントが王になりエルメンヒルデを望んだとしても、私の母の縁続である彼女とジークムントの婚約が成ることなどあり得ない。


なのでそのあたりは心配していないが……。



ジークムントはまだ立太子していない。


王宮内での噂としてだが、私が成人するまで父上は王太子を決めないでいるという。


もし私が王になるにしても、爵位を賜り家を起こすにしても、エルメンヒルデと2人でならどんなことも乗り越えていける。


そう、思っている。



妖精王を伴った今回の遠征。

彼女には優秀な護衛もついている。


早く、無事に帰ってきてほしい。


きっと、また抱えきれないほどのお土産を持ってきてくれるのだろう。


満面の笑顔で。




ああ、早く会いたい。


エルメンヒルデ――。





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