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妃が毒を盛っている。  作者: 井上佳
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第二十四話 もうひと仕事

アーヘン村の、至るところから元気な声がする。

何日か滞在し、村人たちの手助けをしていたエルメンヒルデたち。

ヘルシン症にかかっていた軽症の村人たちも全員完治したことが確認できた。


今回のことは大変な痛手だったが、皆が前を向いていることを確認できたので、そろそろ村を出発しようというところだ。



「ほんとうに、病の恐怖から救ってくださりありがとうございました。」


「すべては妖精王様のおかげですわ。」


「いや? エルメンヒルデ。君がいなければ私は力を貸していなかったよ。人間たちの間で起こることは、本来人間が解決するべきだからね。」



そう、今回の病を浄化するなどという行為は、まさに神の御業に等しい行為だ。人間が出来ることではない。

本来なら手を貸すべきではなかったのかもしれないが、それでも、妖精王はエルメンヒルデのためになるならと力を使ってくれたのだ。



「私も人間界に与える影響がどれだけ大きいか、わかってはいるのだけどね。」


「それでも手を貸してくださったユストゥス様には、大変な感謝ですわ。ありがとうございました。」


「……その笑顔、これ以上ないご褒美だね。」



人外の力は、使い方を間違えれば身を滅ぼすものだ。


今回のことだって、公になればエルメンヒルデの元に力を貸してほしいという依頼が殺到するだろう。


ハイディルベルクの王が病から復帰したことも、妖精王の力だったことは一部の人間を置いて伏せられている。


ここ、アーヘンでの出来事も、皆には箝口令が敷かれた。しかし村人全員がほんとうに口外しないとは言い切れないだろう。


妖精王がエルメンヒルデに力を貸せば貸しただけ、エルメンヒルデは危機に陥るのかもしれない。



「でも、まだひと仕事残っておりますわ。」


「そうだったね。いいよ、行こう。」



もうひとつの仕事とは、そもそもの依頼であったヘルシン症が発症した地に生えるヘルシン症用の薬草採取だ。

緑の妖精王であるユストゥスは草花の成長を促す力を備えている。第五の騎士たちがあらかじめ見つけておいた薬草群生地を回り、薬草の芽を成長させていく。



「素晴らしいお力ですわ。」


「そう?」


「ええ……きらきらしていて、とてもきれいです。」


「ふふっ。私には、そう言って笑顔になるエルメンヒルデがとても美しいもののように見えるよ。」


「まあ。」



実際、妖精王は存在するだけで絵になっているが、その力を使うときは立ち姿にきらきらエフェクトが加わり、さらにいい感じの風がそよぐ。美麗スチルでしかない。

その妖精王に向けて微笑むエルメンヒルデも、まるで絵画か彫刻のようだった。



「なるべく見られないように、村長に頼んでこの時間の村人の外出を禁止してもらっています。」


「ええ、ありがとう。」



小隊長が気を回してくれたおかげで、スムーズにことは進んだ。これ以上実際に力を使うところを見られないに越したことはない。

妖精王が薬草を成長させて回り、それを第五の面々が採取していく。

すべてを回って宿に戻ると、残っていたものたちが荷物を馬車に積み込み出発の準備を終えていた。



「エルメンヒルデ様。もう発つ準備はできています。」


「ありがとうグレータ。間もなく騎士の皆さんも戻るわ。」


「いやー、なかなかいい村でしたね。」


「硫黄石、全部無料でくれたよ。」


「ハイノ、お金は使いなさい。」


「ご飯すごい美味しかった!」


「ここの温泉施設はいいな! トレーニングしながら入れる!」


「いやあれトレーニング用じゃなかったよ絶対。」


「そうか?」



なんだかんだ満喫していた護衛たちだった。



その後、薬草を採取していた第五の騎士が戻り、村の入り口で合流した。


村長を始めとして村人たちが集まり、皆が感謝の言葉を述べた。


エルメンヒルデたちは盛大に見送られ、まずはデューレン辺境伯邸まで向かうのだった。






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