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カメダ珈琲店1号店

作者: 車男

 「おつかれさまです!」

「あ、シロちゃん、おつかれ~」

土曜の朝、アタシがバイト先の喫茶店、”カメダ珈琲店1号店”の更衣室で着替えていると、5月から新しく入ってきた女の子、シロちゃんがやってきた。本名は、白石マシロちゃんというらしい。アタシと同じK大生なんだけど、なんと医学部生!すっごく頭がいいみたい。経済学部のアタシとは全然頭の良さが違うんだろうなあと思いながら、でも大学とバイトの先輩としていろいろ教えているところである。マスターにもそう頼まれてるし!ちなみに、ここは”カメダ珈琲店”の1号店で、他にマスターの兄弟が”2号店”と”3号店”をやっているらしい。地図で探すと同じ県内にあるけれどけっこう距離は離れていた。競合しないためなのかな…?

 シロちゃんは今年大学生になったばかりで、まだまだ高校生っぽさの残る女の子。茶色がかった髪をポニーテールに結び、かわいらしい私服からこのお店の制服に着替える。7分丈の、胸ポケットにお店の刺繍が入った白いシャツに、濃いブラウンのパンツ。足元は動きやすいようにと、スニーカーが推奨されている。小さなお店だけれど、2階席もあって、料理を運ぶ用のエレベーターなんてないから、2階席のお客様のところへはアタシたちが階段を上り下りしなければならなかった。交通量の多い道路わきに建つ喫茶店で、やっぱり眺めがいいからみんな2階席を好んで使う。一度シフトに入った日にはかなり足腰が鍛えられることになる。

 シロちゃんは私服もかわいくって、だんだん暖かくなるこの季節、半そでの白シャツにカーディガン、ベージュのひざ下丈のスカートにサンダルを履いていた。かかとをストラップで留めるタイプ。シロちゃんは素足で履いていたサンダルを脱ぐと、近くのイスに座って、持っていたクリームを素足に塗っていった。右足の足の裏や甲、足指の間。そして左足。そして更衣室のロッカーに置いてある自分のスニーカーに、素足をそのまま入れた。コンバースの、靴底がペタッとした青いスニーカーだ。着替えが同じタイミングになったのは今日が初めてで、いつも一緒にシフトに入っている時に気になっていたけれど、シロちゃんってスニーカー履くとき靴下を履かないタイプなのかな…?

「…どうかしましたか、青山さん?」

「ふえあ!?ううん、じゃあ、いこっか!」

あぶないあぶない、ついつい着替えに見とれてしまっていた。気持ちを切り替えて、今日も頑張ろう!

「おつかれさまー。たぶん今は大丈夫だから、お昼とっちゃっていいよ。はい、もっていって」

「わあ、ありがとうございます!」

「ありがとう、マスター!」

来店の多い土曜日、目が回るほどのランチタイムを終え、お客さんの流れが止まったところでマスターがまかないを用意してくれた。飲食のバイトの醍醐味だ。今日はアイスコーヒーに、ホットサンド、サラダ。午前中かなり動いておなかも空いていたから、すごくおいしそう!2人でトレーに料理をのせて、控室へ。

「ちょっとアタシ、お手洗い行ってくるね。先食べちゃってていいよー」

「あ、わかりました!先いただいておきます!」

そう言って、静かに手を合わせるシロちゃん。よくできた子だ…!

お手洗いから戻ってくると、シロちゃんはホットサンドを両手に持って、パクリパクリとおいしそうに食べていた。

「おまたせー。おいしい?」

「はい、すっごくおいしいです!マスターの料理、どれも手が込んでて…」

そう嬉しそうに話すシロちゃん。そんな彼女の足元にアタシは視線をむけてしまう。

(え、靴、脱いでる…?)

とてもかわいくて、清楚系なシロちゃん。けれどおいしそうにまかないを食べる足元で、スニーカーを脱いで素足をその上に置いていた。赤くなった足の指が、くねくねと動く。小さな木のテーブルなので、控室の入り口からその動きがよく見えていた。さっきトイレに立つときはそんなことなかったのに、意外だな。午前中からランチタイムにかけてかなり動いていたから、きっと足が疲れてしまったんだろう。アタシの視線に気づいたのか、シロちゃんはスニーカーに乗せていた素足の先を中へ入れる。そしてそれを椅子の下の方にズズっと引いた。そっか、アタシが来たからテーブルの下を開けてくれたんだな。アタシがパクパクといつもの勢いでまかないを食べてしまう頃、シロちゃんは控室の中の本棚が気になる様子で、立ち上がって本棚に歩み寄る。驚いたことに、スニーカーは椅子の下に置いたまま、裸足で控室をペタペタ歩いていた。長年の歴史の中でくすんだ木の床の上に、真っ白な素足が浮いているようだ。控室の中とはいえ、シロちゃんが裸足で歩くなんて…。なんだろう、このドキドキ、あれかな、ギャップ萌えってやつかな。こういう形で認識するなんて思わなかったけれど。

「ここの本は、自由に借りていっていいよー。アタシたちしか入らないし、マスターはもう全部読んじゃったらしいし」

本が気になっているシロちゃんに声をかける。するとキラキラした表情で、

「ほんとですか!じゃあ借りていきますね」

「うんうん。アタシはあんまり本を読まないんだけど、昔のバイトの人とかが持ってきてそのままになってる本もあるらしいよ」

「そうなんですね!私も持ってこようかな」

そう言って、裸足のまましゃがんで下の方まで背表紙を見ていくシロちゃん。しゃがむともっと小さくなってかわいいな。ふわっといい香りが漂ってくる。

「じゃあ、これと、これにしよ」

シロちゃんが本を選んだところで、そろそろ後半のシフトに入る時間になった。

「さあて、そろそろ再開しますか」

「あ、もうそんな時間ですか!ちょっと本を片付けてきます!」

そう言ってシロちゃんは本を持って隣の更衣室へ入っていった。もちろん、スニーカーはまだ椅子の下に置いたまま。シロちゃん、ここ、土足でいいんだよ…。でてきたシロちゃんは、何事もなかったかのようにスニーカーに素足を入れ、かかとまでしっかりと履きなおしていた。

「お待たせしました!いきましょう!」

シロちゃんの足元が気になるけれどなかなか聞きづらくって。でもいつかは聞いてみたいなと思いながら、アタシは彼女に続いてホールへと向かった。


おわり

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