九十六話
服屋を後にして色々なお店を巡る。
まとまったお金が入ったことで4人のお財布はかなり緩くなっていた。
「色々買ってしまったわね」
「そうっすね。でも、仕事がはじまったらこれないっすから」
騎士というのは公務員である。
休日がきっちり決まっているのだが、迷宮に入る騎士には適用されない。
長い人だと数か月単位で潜りっぱなしなのだという。
今回は、客人であると同時に女性であるという観点から比較的早く解放された。
だが、副騎士団長であるテッペリンに気に入られた結果、休日が終われば再び迷宮行きが決まっていた。
「そうだ。食料も買っておかないと・・・」
「そうね。食事は出されるけれど色々食べたいわね」
「なら、こっちすね」
シェルが先頭を歩いていく。
連れてきてくれたのは色々な保存食を扱っているお店だった。
「へぇ・・・。色々あるのね」
干し肉はもちろんのこと、硬く焼かれたパン。
それ以外にも干した野菜や果物など。
「正直、これだけあると迷うわね」
「なら、お勧めを一通り買うっすよ」
ここはありがたくシェルの選んだ物を買うことにした。
シェルは食べられれば何でも食べそうなイメージだがそんなことはなかった。
騎士団で出される食事でも当たり外れがある。
シェルは外れの料理には絶対に手を出さないのだ。
なので、全員シェルが食べている料理を選ぶようにしていた。
結構な出費となったが食に関しては手を抜いてはいけない。
冒険者も騎士も体が資本なのである。
「悪いのだけど、武器屋によってもいいかしら?」
ラーシャはそう提案する。
「あっ。私も行きたいわ」
アリスもそう追従してくる。
「任せるっすよ」
そう言ってシェルは再び先頭を行く。
連れてこられた武器屋は少し寂れたところにあった。
「おやっさん。いるっすか?」
「ぎゃんぎゃん騒ぐな」
そう言って背の低い髭もじゃな男性が現れた。
「こちらの方はドワーフですか?」
「そうっすよ。頑固者っすけど、仕事は確かっす」
ドワーフとは鍛冶に長けた種族である。
この辺ではあまり見かけないが、王都で仕事をしているということは相当な変わり者なのだろう。
「中途半端な連中に売りたくない。それだけなんだがな」
「剣を見せていただいても?」
「そこらに数打ちの奴がある。好きに選べ」
ラーシャは1本1本手に取って剣を確かめる。
数打ちといいつつ、名剣と呼ばれそうな物が混ざっている。
これは試されていると思って間違いなさそうだ。