八十九話
消耗品を指定された場所に出し、魔物の素材や魔石を回収して来た道を戻る。
帰り道もシェルが1人で魔物を倒してくれた。
迷宮というのは時間を狂わせる効果でもあるのか、外に出た時には夕方になっていた。
「いやぁ。3人がいてくれて助かったっす」
聞けば補給は元々シェルのような見習い騎士の仕事らしい。
1人では運べる量に限りがあるため、ダッシュして1日に何往復もしていたとのこと。
「お役に立ててよかったです」
「うんうん。計算通りっすね」
「シェル。貴方、まさかこの為に・・・」
シェルはふざけているようで頭はいい。
自分の仕事を楽にするために迷宮の存在をばらしたのだろう。
「まぁまぁ。いいじゃないっすか。美味しいお仕事になったんっすから」
今回の仕事ではそれなりのお金を貰っている。
国の収支としては多少、マイナスだろうが誰も損はしていない。
「シェル怖い子・・・」
シェルの評価が変わった瞬間だった。
宿舎に戻り、汚れを落としてから食堂に向かう。
食堂は普段より空いていた。
「なんか人数少なくない?」
「それは、迷宮の方に人を割いてるからっすね」
王都は人知れず、騎士達によって守られている。
ラーシャは王都に長年住みながらそんなことも知らなかった。
「騎士団も大変ね」
「そうでもないっすよ。稼ぎ時っすからね」
「どういうこと?」
「迷宮で得た物は国が買い取るっすけど討伐数によってボーナスがでるんっすよ」
「へぇ・・・。冒険者に似てるわね」
「実際、似たような物っすよ」
そう喋りつつシェルは次々に食べ物を口に入れては飲みこんでいく。
いつも思うが小柄なその体のどこに消えていくのか不思議だ。
食事を終え部屋に引き上げる。
次の日も物資の運搬を頼まれている。
疲れを残さない為にも早めに休むことにした。
翌日、いつも通り目が覚める。
廊下に出て点呼を終えて、朝食を食べたら物資を持てるだけ持って迷宮に向かう。
ゴミ処理場に着くと、何やら騒がしい。
担架に乗せられた騎士達が次々に運ばれてくる。
「なにかあったっすね」
シェルが近くの騎士を捕まえて状況を聞く。
「突然、変異種が暴れまわってな・・・。討伐は終わったが多くの怪我人と物資がダメになった」
迷宮に現れる変異種は元になった魔物より強かったり厄介な特製を持っていたりする。
物資がダメになったということは多くの騎士が困っているだろう。
「どうするっすか?」
「依頼は依頼だもの。運ぶわよ」
シェルの確認に対し3人の答えは決まっていた。
受けた依頼は最後までやり通す。
冒険者にとって一番大切なことだった。