八十六話
「皆さん。暇じゃないっすか?」
そう切り出したのはシェルである。
「暇は暇だけどねぇ・・・」
「そうそう。でも、保護されてる今、好き勝手に動き回るというのも」
「そんな皆さんにお勧めの場所があるっす」
「いい場所ねぇ・・・」
「興味ないっすか?」
「と、言われてもねぇ」
「まぁまぁ。百聞は一見に如かずっす」
そう言ってシェルは外出許可を取ると先頭を歩ていく。
「ここっす」
そう言って連れてこられたのは王都のゴミを処理する施設だった。
「ごみ処理場?」
「ふふふ。それは表の顔っす。こっちっすよ」
シェルは慣れた足取りでごみ処理場の奥に向かう。
すると施錠された扉が現れた。
シェルはどこからともなく鍵を取り出し解錠する。
そのまま中に入っていく。
ラーシャ、ミリス、アリスもその後に続いた。
「これは・・・?」
「迷宮じゃない。王都に迷宮なんてあったのね」
「ここのゴミ処理は迷宮の特性を利用してるんっすよ」
迷宮は異物があっても一定期間が経つと吸収する性質がある。
その性質を利用してゴミを処理しているというわけだ。
「それにしても、迷宮ねぇ・・・」
「情報のない迷宮は怖いわね」
「大丈夫っすよ。深く潜らなければそこまで危険な迷宮じゃないっすから」
「それにしても、鍵なんてよく確保できたわね」
「あはは・・・。実はここの迷宮は騎士団が管理してるっす。それで、私が討伐の当番なんっすよ」
「ようするに、自分の仕事を私達にやらせようとしたと?」
「いやだなぁ。暇そうにしてたから憂さ晴らしにどうかなって思っただけっすよ」
そう言いつつシェルの目線を合わせようとしない。
「まぁ、いいでしょう。それにしても久しぶりの迷宮ね」
「そうね」
「警戒なら任せてね」
それから迷宮を移動するが脅威度の低い魔物しかでてこなかった。
罠などもなく初心者でも安心して潜れるだろう。
「どうして、一般公開してないのかしらね?」
「あぁ。その理由は簡単っす。ここの迷宮は深く潜れば潜るほど難易度があがるっす。そして、相応のお宝がでてきたりするっすね。そのお宝は王家の大事な収入源なんっすよ」
「なるほどねぇ・・・。まぁ、下手に知れわたると混乱するかもしれないわね」
王都の民を不安にさせる必要もないだろう。
「なので、このことは秘密にしてほしいっす」
そう言ってシェルは頭を下げた。
抜けているようで頭のまわるシェルのことだ。
自由にならないことでストレスが溜まっているだろうとガス抜きの機会を作ってくれたようだ。
修練などはしているがこうして迷宮で発散できるというのはありがたかった。