八十二話
次の日の朝、真っ直ぐアリスは女の子の家を訪ねた。
「おはよう。お姉ちゃん」
「おはよう。今、ご飯の準備をするからね」
アリスはここに来る前に市場によって材料を買ってきていた。
手早く料理を済ませ机に並べていく。
「わぁ・・・。すごく美味しそう」
美味しそうに食べている女の子を見ながら母親の体調を確認する。
熱はまだあるが昨日に比べれればかなりましとなっていた。
「すみません。ご迷惑をおかけして」
「そう思うなら少しでも早く元気になってもらわないと」
そう言ってアリスは別に作っておいた食事を女の子の母親に渡す。
ゆっくりとしたペースで女の子の母親は料理を食べている。
「お姉ちゃん。私に何かできることない?」
「そうねぇ・・・。私と一緒に森に行きましょうか」
「森に?お母さんからは危ないから行っちゃダメって」
「私がちゃんと守るから」
アリスとしては女の子を森に連れて行くメリットは正直ない。
危険は少ないとはいえアリスの負担が増えるだけだろう。
だが、この家庭の環境を考えると収入を確保しなければやっていけないだろう。
街の中での仕事は受けるのは難しい。
ならば外に出るしかない。
危険を回避する方法を教えたうえで森で採取するというのが一番無難だろう。
「でも、私の言うことをちゃんと聞いてね」
「うん」
食器を洗い出かける準備をする。
女の子には家あった籠を背負わせる。
女の子の母親は心配そうな顔をしていたが反対はしなかった。
森につき実地で女の子に知識を授けていく。
今回は浅い場所を巡るだけだ。
それだけでも売れる物は色々落ちている。
単価は安いが薬草や味は悪いが栄養のある木の実など。
アリスも昔はよく森のお世話になっていた。
ガサゴソと何か物音がする。
アリスは敏感にその音を聞きとり作業に集中していた女の子に声をかける。
「私の後ろに」
「うん・・・」
現れたのはゴブリンが1体だった。
アリスはほっとする。
ゴブリンが1体ならアリスの腕なら余裕だ。
これがウルフだったり複数体だったりしたら面倒なことになっていただろう。
愛用のナイフを手にゴブリンの首を斬る。
「ぐぎゃぁぁぁ」
ゴブリンは断末魔をあげながら倒れた。
「お姉ちゃん強いんだね」
「私が一緒の時は大丈夫だけど、1人の時は逃げるのよ?」
「うん」
女の子は素直にうなずいた。
アリスはゴブリンの魔石を回収し少し開けた場所でゴブリンの遺体を焼く。
森でも魔物の処理は基本的に焼くことになっている。
これを怠りゾンビなどになられてはたまらないからだ。
その後は特に問題も起きず昼を迎えた。