七十八話
「さて。ジールベッド商会とか言ったな?ずいぶんと舐めたことをしてくれたもんだ」
そう言ってブラハムが圧を放つ。
「なんでだ。なんで、騎士団が動くんだよ」
「彼女は王命で我々が預かっていると言ったはずだ。彼女の安全を守るのも我々の仕事のうちだ」
「そんな馬鹿な・・・」
「団長。誘拐の現行犯っす」
「そうだな。詳しい話は後で聞かせてもらおう」
そこからの騎士達の動きは素早かった。
あっという間に男達を拘束し連行していく。
「はぁ・・・。出来れば我々に相談してくれるとよかったんだが」
「すみません。考えが及びませんでした」
「とにかく彼女を連れて宿舎に戻るといい」
「ブラハムさん達は・・・?」
「少々やることが出来た。朝までには戻る」
そう言って部下を引き連れてブラハムは去って行った。
ラーシャはミリスを連れて宿舎に戻ってきた。
「何もされてない?」
「えぇ。魔術師を警戒してたみたいで何もされてないわ」
「よかった・・・。怖い思いをさせてごめんなさい」
「貴方は悪くないわ。簡単に捕まった私も悪いしね」
ミリスとしては浮かれていて周囲の警戒が疎かになっていた。
そのせいでこのような事態を引き起こすことになったわけだ。
大いに反省すべきだろう。
「とにかく。ここなら安全よ」
「そうね」
2人は笑いあって色々話をした。
風の噂でジールベッド商会の顛末が流れてきた。
突然、騎士団が調査に乗り出してきて不正の証拠を次々に回収して関係者が捕まっていった。
昔からいい噂のない商会だった。
それが決め手となり資産没収の上、一族の者は罪人として処罰された。
ラーシャの両親は宿舎を訪れ、謝ってきた。
ラーシャとしては商会の為を思ってのことだったのだろうと理解している。
それに済んだことだ。
一々こんなことで怒っていては身が持たない。
ただ、冒険者を続けることだけは承諾してもらった。
父親は最後まで反対していたが母親が怒り全て丸く収まった。
考えてみればここぞという時の母親の決断力は昔からだった。
ランベルグ商会の本当のボスは母親なのだなと今更ながらに実感した。
ラーシャとミリスはアリスに連絡を取った。
アリスは小遣い稼ぎの為に王都を離れていたらしく被害者にならなかったようだ。
事件を聞いて2人を気遣ってくれた。
騎士団長であるブラハムはこれ以上、変な事件に巻き込まれたら堪らないと思ったのかミリスとアリスにも宿舎での寝起きを許可してくれた。